登校初日
Side 藤崎 シノブ
関西 大阪府 琴乃学園
異世界帰還後。
と言っても現実の世界では時間は流れていなかった。
これも仲間の魔法使い達や女神の御蔭だ。
最初は夢か幻かと思ったが異世界での力が使えたり、異世界でのアイテムが取り出せたり――
そして一緒に巻き込まれ召喚された谷村 亮太郎が異世界の記憶を持っていて自分同様に異世界の力や異世界のアイテムを取り出せていたからだ。
「帰ってこれたんだな――」
「ああ――」
放課後。
屋上で夕日を眺めながら僕と良太郎は言った。
「さて、帰って家族に顔を合わすか――たぶん顔を合わしたら泣くんだろうな」
「自分もそうなると思う」
「・・・・・・積もる話はあるが、また今度とだけ言っておくよ」
「うん」
学校は同じだ。
クラスも同じ。
またあの日常に戻るのだ。
☆
自分の家は二階建ての一戸建て。
今思うと父親は凄い頑張って苦労したんだなと思う。
――親孝行はちゃんとしときなよ? 父親と母親は君の召使いでもATMでもないんだから。
共に異世界を旅した相棒のその一言を思い出しながら 父親と母親と妹二人と一緒に朝食を食べる。
母親には「なんか雰囲気変わった?」
「そうだよね~? なんか変わったよね?」
「昨日何かあった?」
などと言い合っていた。
僕は「気のせいじゃないかな?」と苦笑してごまかすことしかできなかった。
真実を話しても頭がおかしい人扱いされるだけだしね。
☆
高校一年生もはや半ば。
夏休みが終わり、十月の季節。
昔は運動会などのシーズンだったらしいが地球温暖化などの影響で5月、6月などにやる場合もある。
2000年代初頭~2010年代の終わり頃まで生きた記憶があるらしい良太郎は「これが時代の変化か」などと言っていた。
それはそうと、前世の知識がある大人って凄いなと純粋に凄いなと思った。
異世界でもそれを痛感させられた。
彼がいなければ恐らく死んでいただろうぐらいには思っている。
「ハロー随分早いじゃないか」
と、谷村 亮太郎が自転車に乗って現れる。
何時も彼は自転車に乗って隣町からここまで自転車通学している。
雨の日でもよほど酷くない限りは自転車で無理ならば最寄りの駅からの徒歩の通学をしている。
それはそうとお互いまだ学生が登校するには早い時間だ。
昔の自分はもっと早い時間帯に登校していた。
「まあね。新しい日常の門出だから今から緊張してる」
「僕もだよ――学校近くの自販機でジュースで一杯やってからいくわ」
「そう言えば異世界でも酒とかタバコとかやらなかったけど、それって前世でも?」
「まあね。正確には前々世? 正直、記憶だけがコピーペーストされてしまっている可能性があるからね自分。どちらかと言うと箱の中の猫状態かな?」
「はは・・・・・・」
この人――谷村 亮太郎さんは長生きしているだけあって物知りだ。
箱の中の猫についても異世界で説明された事がある。
――平行世界と言う概念は一般に浸透したのは日本のサブカル文化の御蔭だ。
――昔は平行世界を説明するのに箱の中の猫で説明された。
――五十%の致死率の毒ガスを密閉した箱の中にいる猫へ流し込み、生存率と死亡率が半々の状態。まだ未来が定まってない分岐点の状態。これが無駄に小難しい平行世界の解釈方法だ。
――まあ今だと、もしも何々なら~を並べ立てればしまいなんだけどね。
とこんな感じだった。
ぶっちゃけ最後の説明のが分かり易い。
谷村さんは様々な話をして異世界の人達にもうけていた。
将来、教師とかやったら生徒に大受けしそうだと言ったら「教師なんてブラック職業やるぐらいなニートやるわ」と返された。
「せっかくだ。君にもジュースを奢るよ」
「いいのか?」
「なあーに。金遣いは荒い方だが今日ぐらいはいいだろう。お互いにとっても特別な日だしね」
「そうですね」
そう言って自販機でジュースを奢ってもらえた。
本当に大人なんだなと思った。
「そう言えば谷村さんって"異世界行く前"、恋愛しなかったんですか?」
谷村さんは陽気な性格だ。
それに見かけによらず腕っ節もあるし、弁も立って、女子によくもてる。
長い人生経験値は伊達ではない
「うーん、何と言うか年上趣味なのかな自分? 身体は子供だけど大人の精神構造だからか十代女子はよっぽど魅力的でないと興味が持てないんだ」
谷村さんは「それに」と言葉を続ける。
「"地球での"恋愛となると経済とか結婚とか悪い方に考えちゃうんだよね。なにしろ日本は東大出てもブラック企業に就職して過労死する人が出ちゃう国だからね。いやーこわいこわい」
不謹慎なのだろうが聞いてて笑えてくる。
まるで異世界の命懸けの旅よりも現代社会の方が恐いような言い方だ。
「あーうん。そう言えば谷村さん、よく政治経済で文句言ってますもんね」
「あんまり社会派な話題は周囲には避けてるんだけど、これでも元社会人だからね。ちゃんと毎年選挙にも行ってたし、どうしてもね」
「本当に大人なんですね」
「大人じゃないさ。ただ大人になりきれてない子供さ。何かの知識を偉そうに語ってるけど、ただ自分の知ってることを自慢気に語ってるからそう見えるだけで化けの皮が剥がれればなんてことはない。ただのダメな子供大人だよ、自分は」
(本当にそうだろうか?)
この人は自分よりも勇者していた。
いや、違う。
勇者でなくても世界は救える。
人の世界を救うのは人なのだと、あの異世界で実践してくれた。
本人はよく僕に"辛い役割だけを押しつけてごめん"と言っていたけど、彼こそが本物の勇者だった。
☆
ジュースを飲み終わり、自分は歩いて、谷村さんは自転車を押しながら登校する。
「さてと。久しぶりにに授業受けるわけだけど異世界帰りの恩恵なのかな? 知力が上がっている気がするんだけど。英語とかも普通に喋れるし意味が理解できるし――」
「WEB小説とかのお約束だね」
「ま、考えても分からないことは分からないでいいか。なんだかんだで命懸けて戦ったんだし、それぐらいのご褒美はあってもいいと思うさ」
「なんか異世界に帰ってきたとたん凄く前向きになってません? 異世界にいた頃は文句たらたらで不満をマシンガンのように吐いてた気がするんですけど」
「そりゃなるさ。考えてもみなよ? あちらにも理由があるとはいえ、十代半ばのティーンエンジャーを召喚して自分達では敵わないような化け物と戦って欲しいとか言われたら普通はブチギレるよ。てかキレない方が人間として異常だからね? てかこの議論何回目?」
「ファンタジー物否定してない?」
「物語りならアリだけど実際に体験するとなるとね。しばらくはWEB小説あんまり観たくないね。特に魔王討伐をプロローグやあらすじで終わらせる系の奴とか」
「僕と同じ気持ちだ」
確かにそれはみたくない。
WEB小説では谷村さんの言うような奴が沢山あるが、自分達の場合は目を覆いたくなるような犠牲に成り立っている。
完全無欠のハッピーエンドとはいかなかった。
そうこうしているウチに琴乃学園に辿り着いた。
まるで入学初日のような気分だ。
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