シノブ「自分、影が薄い気が・・・・・・」谷村「ああうん、ごめん」

 Side 藤崎 シノブ

 

 教室に次々とクラスメイトがやってくる。


 元々人当たりの良い性格なので谷村さんの周りに人が集まってくる。


「あれ、藤崎君、谷村君と仲良かったの?」


 女子生徒の一人がそう言うと谷村さん「昨日色々とあってね。そう言う仲になったのさ」と言う。


 その色々の中身が濃密すぎるんですけど言える筈もないので「そう言うことです」と言っておいた。


 そうして色々な話題で盛り上がり、谷村さんが「いやーボケたかな? 更年期障害かな?」などとボケをかましたりしていた。


 谷村さん、いくら精神年齢が高くてもその体は十代で更年期障害にはまだ早いと思います。


「ついにシノブも谷村グループの仲間入りか?」


「あ、ああ、シンヤか」


 眼鏡を掛けた好青年風の男子、佐々木 シンヤの顔を見て思わず「久しぶり」と言う単語が出かけた。

 

 異世界召喚される前は谷村さんよりシンヤ達とかとよく連んでた仲だ。


「何か様子が変だぞ?」


「そ、そうかな?」


「しかし、谷村の奴すげえよな。派閥とかクラス跨いで食っちまう勢いだ」


「それは同意見」


 人生やり直している人は本当に凄い。

 異世界でそれを何度も思い知らされた。


 そして教師がやってきた。


「さて、皆さん。HRを始めます。」


 長い髪の毛。

 温和そうな顔立ち。

 大きめなバスト。

 大人の色香漂う体付きで会社勤めのOLに見えなくもない堅めのスカートのスーツをバッチリと着こなしている。

 人当たりも良い人気美人教師、奥村 幸子先生が教室に入ってきた。

 

 先生の顔を見るのも久しぶりだ。


 こうして久しぶりの日常が始まる。


 

 特に問題もなく授業は進んだ。

 平穏で、暇で、退屈で、だけどそれはとても掛け替えのないもの。

 それを異世界で知って、こうして戻ってきて実感した。


 ともかく

 あっと言う間に昼休みだ。

 弁当を食べて、そして適当に学校内をぶらつく。


 谷村さんはたぶんどっかの部活に顔を出しているか、図書室で偉人でも調べているのだろう。

 どうやら人生やり直すと勉強が捗るらしく、独自の勉強理論を築いて勉学を励める。

 

 曰く、勉強は大切だがやるならテストのための勉強ではなく、自分のための勉強か、知りたいことの勉強をやりなさい。


 勉強で大切なのは興味を持つこと。

 興味を持つことと言うのは、疑問を投げかけて調べること。

 

 例えばこの日本の時代では海外はどうなっていたんだろうと言う風に。

 

 だそうだ。


 F○Oが好きな谷村さんの場合、この登場人物の時代や国はこうだったんだなという風に勉強できる。


 そう言う勉強が出来るせいか谷村さんは教師受けもよい。

 自分も年をとった後に二回目の学校通いになればそうなるのだろうか。

 

(あれ? どうして小河原君がここに?)


 ふと屋上へと続く階段に同じクラスの小河原 智也君の姿が見えた。

 小河原君は谷村さんとは違い、暗い性格でありクラスでも浮いている。


 異世界召喚挟んでいるため記憶が風化しているが――確かイジメを受けていたとかどうとか言う噂があった気がする。

 

 顔色も悪そうだし、嫌な予感がして後をつける。

 今の自分なら素人相手なら気づかれずに尾行するなど朝飯前だ。

 念のため魔法も併用して行う。


(確か屋上は封鎖されているよな?)


 などと疑問に思いながら後を付けると――不良三人組が待ち受けていた。


「も、もう勘弁してください」


 と、涙声で震えながらそう小河原君が訴えるが不良達は――


「俺達の仲じゃねえか」


「遊ぶ金が欲しくてよ――」


「それに金がなかったら親の財布からくすねればいいだろう」


 などと言う。

 異世界でもそうだったがこの手の連中はどこにでもいるんだなと思う。


「金を払わなくてもいいよ」


 僕はそう言って魔法を解いて姿を現す。


 以前の自分ならビビって見過ごしていただろうが自分は様々な激闘を繰り広げた身だ。今更学校の不良相手に恐怖など感じない。

 それに見過ごすこともできない。


「ああ、なんだテメェ?」


「お前には関係ないだろ?」


「悪いが今の一部始終はスマフォで録画しといた。金を返せば俺もネットにUPしたり、教師にチクったりもしない」


 そう言ってスマフォを見せつける。


「テメェ!?」


 そう言って殴りかかってきた。

 沸点早いなこいつ。

 軽く回避する。

 勢い余って殴りかかった不良はそれだけで階段を転げ落ちそうになったので慌てて抱き留める。

 

 なんで自分こいつらに気を遣ってるんだろう?

 

 他の不良も掴み掛かってくるが掴んだ不良を片手で返して防いだ。

 二人の不良は返された不良の下敷きになる。


 小河原君は「あわわわわわ」と事態の変化についていけないのか、あたふたしていた。


「お前ら何してるんだ!?」


 そこで男性教諭の杉崎さん。

 そして谷村さんが現れた。


 後で聞いたが谷村さんは魔法の使用を察知し、マジックアイテムを使用して異変を把握したので教師を呼んでここまで駆けつけて来たらしい。


 

 教師達は事態を知って、スマフォの内容を暴露。

 さらに教師にお願いされてスマフォの動画を削除するように言われた。

 

 不良達は借りた猫のように大人しく、不良達の親に伝達の後に職員会議で罰則を決めるらしい。


 警察は介入させないようで正直軽すぎる罰だとしか思えない。

 谷村さんも同じ意見のようである。


「ごめんね――こんな危険な真似させて」


 担任の美人教師、奥村先生に言われたのが唯一の救いだ。


 しかし教室に戻り、小河原君は涙目で「どうしてくれるんだ!? あいつら絶対仕返ししてくるぞ!?」と怒鳴り散らしてきた。

 

 谷村君は「確かにそうだな。まあ想定の範囲内だけどね」


 と、人事のように言う。

 この感じだと既になんかもう手は売ってそうだ。


「そんな人事のように・・・・・・」


「言っちゃ悪いけど、礼の一言もなくそれはないだろう?」と谷村さんに言われて小河原君は「うう・・・・・・」となった。


 周りも「そうよね」とか「ちょっとアレはないわ」と小河原君を批難する空気が漂っている。


「まあ君の意見も一理あるし、僕も元はいじめられっ子だし、責任は取ろう」


 と、谷村さんの言葉に続いて僕は「出来る限り協力する」と言うとシンヤが「おいおい正気かよ!?」と驚いていた。


「責任ってどうするつもり?」


「なあに。相手は三人。こっちも君入れて三人だ。たぶん放課後、帰り道でちょっと面貸せルートだろうな」


「どうするんだよ? 他にも仲間がいるかもしれないし、それに――」


「なあ、人生は一度きりだ。たった一度の高校生活、あんな奴達に台無しにされたくないだろう?」


「でも――」


「でもなんだ? 高校生活をあいつらの奴隷になって過ごすつもりかい? 社会に出れば今回みたいなトラブルに遭遇した時も言いなりになるつもりかな? 腹を括れ。死んだ後に後悔しても何も出来ないんだぞ」


 と、説得する。

 クラスの雰囲気はザワザワとなって不良グループと僕達が戦う流れが出来つつある。谷村さんの元にはクラスメイトたちが「本当に大丈夫なの?」、「やばいって・・・・・・」などと歩み寄ってくる。


 僕もシンヤ達から「考え直せ? な?」などと説得を受けるが僕は引き下がるつもりはなかった。

 確かに小河原君の言い分に多少は傷ついたが言わんとしている事は分からないでもない。


 中途半端に手助けをして事態を悪化させたまま放り出すような真似など出来なかった。

 谷村さんも同じ気持ちだろう。

 


 僕と谷村さんは小河原君のボディガードのように付き沿う。


 そして相手の不良グループは意外な事に校内で待ち受けていた。

 小河原君に直接校舎裏に来るように言ったらしい。

 しかも僕と谷村さんを連れてだ。 


 クラスメイト全員に、シンヤ含めて心配そうに見送られた。


 そして校舎裏で不良達と対面。

 三人とも怒りが頂点に達しており、すぐにでも殴りかかってきそうな感じだった。

 足下にはビールの缶やらタバコなどが散乱していた。


 小河原君はブルブルと震えている。

 本当は小河原君に一発だけでもパンチを撃たせるまで手を出さないでおこうかとも考えたが、これではその前に死んでしまうだろう。


 谷村さんの案を採用することにした。


「んじゃあ追いかけっこしようか?」


「「「はあ!?」」」


 そして谷村さんの作戦通り、手筈通り追いかけっ子する事になった。

 最初は耳を疑った。

 本当に上手く行くかどうか半信半疑だった。

 

 まあ僕も正直、異世界に帰ったばかりでこれ以上の暴力沙汰はイヤだったのでこの案にのった。


 突然小河原君を右肩に乗せるようにして抱きかかえて走る。

 谷村君も走る。


 不良達は追いかける。


 校内をとにかく走り回る。

 付かず離れずの距離を保って走る走る。

 谷村さんと僕とで挑発する。

 

 やがてそこに異変を察知したのか教師も加わる。


 生徒達は全員目を丸くしていた。 


 さらに舞台は学園外になり、不良達は死にもの狂いで走る。

 教師も全力で走る。

 谷村さんはなぜかル○ン三世の歌を歌っていた。

 誰が呼んだのか、警察がパトカーや白バイに自転車、なかには走って追いかけてきたりしている。


 谷村さんのせいで不良漫画的な展開から一転して、コメディショーとなってしまった。


 この突如開催された謎の無差別級マラソン大会は長く続く筈もなく、やがて不良たちも教師も力尽きた。

 

 警察官も呆れながらも関係者に事情聴取し、この段階でようやく小河原君も降ろした。

 不良たちはなけなしの体力で暴れて警官達も"タダごとではない"ことを察知してくれたようだ。

 

 そして僕と谷村さんの事情を聞いて不良達は暴行未遂の現行犯で逮捕となった。

 警官達に俺も谷村さんもあまり疲れていないことを不審がられたが谷村さんが「鍛えてますから」と言ったので僕もその流れにのってごまかすことにした。

 

 なお、警察官達からも事情聴取を受け、真相を話した後、まさかの大爆笑の嵐になって注意も受けながらも「将来警官になりなさい。きっと君達ならいい警官になれる」と言われた。


 谷村さんも同じ事を言われたらしい。


 ともかく暴力に頼らずに済んだのでよかった。


 正直、暴力に頼った方が事態はここまで大きくならずに済んだと思うのだが・・・・・・谷村さんは「学校にも責任あるんだから苦労させろ」と言って「成る程」と思った。

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