大阪日本橋ケンカ街

 Side 藤崎 シノブ


 メイド喫茶、ストレンジがある雑居ビル三階の事務所。

 そこに逃げ込んだ。


 東条さん――フルネームは東条 ミウさんと言うらしい――をソファーに座らせて詳しい話を聞くことにした。


「聖唱学院ってあの有名なお嬢様学院の?」


「はい。そこに通ってます」


 まあその辺りも話も気になるが今はそれよりも問題がある。

 あのドローン軍団と武装勢力のことだ。

 あれだけ派手にやったせいで既にSNSでもテレビでも話題になっている。


 ここを嗅ぎ付けられるのも時間の問題だろう。


「その話も興味深いんだけど今はそれよりも君がどうして狙われるかだ・・・・・・素人目から見てもかなりヤバイ組織に狙われる心辺りはあるのか?」


 あのドローンといい、武装組織といい。


「家は玩具会社を経営していてそう言うのは――」


「・・・・・・谷村さんならこう言うのに詳しいと思うんだけどな」


「谷村さん?」


「頼りになる人――それはさておき、谷村さんから聞いた事があるんだけど――確か日本は隠れた武器輸出大国って言う話があるんだ」


「武器輸出大国?」


「なんでも日本製品が第三国に武器のパーツとして組み込まれたりとか、酷い時は日本製の車がテロリストの主力武器として使われていたりとかそう言う話があるんだ」


「そ、そうなんですか?」


「聞いた話によれば最近の戦争は戦車を買う金があるんならその金でドローンを大量に購入して爆弾括り付けて特攻兵器にでもした方がコストパフォーマンスがいいらしいからな」


 自分で語っておいてなんだがなんとも現代の戦争とは恐ろしいもんになったもんだ。


 全ての第三国の戦場がそうなったワケではないが、技術的な問題点が解消されていけば本当に実現してしまいそうだ。


「おっと・・・・・・ちょっと電話に出るな」


 そう言って谷村さんから連絡が来た。


『とんでもない事になってるね』


「すんません」


『まあ、あの状況なら仕方ない。その場所も長くは保たないだろう。相手はその気になれば戦闘ヘリや戦車すら持ち出してくるぞ』


「でしょうね」


 相手の装備ややり方を考えると本当にやりかねない。

 このままここで留まっていたら大阪日本橋は戦場になるだろう。


『自分の方でも調べてみる。今はどんな手段を使ってでもその子を守って生き延びるんだ』


 そして一方的に通話が切られた。

 同時に扉がコンコンとノックされた。

 現れたのは黒髪ツインテールの無愛想な少女メイド、黒井 リンカだ。

 武装メイドと言っていい姿だ。

 背中にも銃火器を背負い、手にはアサルトライフルを所持している。

 身体のあらゆる場所にホルスターを巻きつけて銃火器を携帯していた。


「急いでください。既に追っ手が来ています」


「一息つく間もないな」



 黒井さんに東条さんを任せて表通りに敵の兵士を蹴り飛ばしながら出る。

 空中や地上にもドローン。

 そして他にも殴り飛ばされ――え?


「何が起きてるかわかんねーが? とりあえず銃を向けて来たってことは敵ってことでいいんだよな?」


 そんな風に言いながら若い兄ちゃんが完全武装した兵士を殴り倒していく。

 パワーとスピード、反射神経がおかしい。

 常人のレベルを遥かに超えている。

 

 普通の人間はただの蹴りだけで吹っ飛ばせない。

 何かしらの軍隊格闘技をマスターしている相手を殴り倒せない。

 完全武装した兵士を片腕でブンブン振り回せない。 


 自分はその男を知っている。


 大阪日本橋版の平和島 静夫と言われた男。

 半グレ連中を殴り倒し、薬を売り捌いていたカラーギャングを壊滅させたとか色んな都市伝説をお持ちの方だ。


「工藤 怜治・・・・・・」


 工藤 怜治。

 大阪日本橋で長く通い続けていればイヤでも耳が入る。

 こうして見ると異世界でも十分通用しそうなレベルの怪物だ。

 もしも異世界で鍛え上げたら自分でも手に負えるかどうか分からない。

 それだけの素質がある。


「町中でそんなもん振り回して危ないだろうが!!」


 そう言ってドローンをサッカーボールのように蹴り飛ばして敵兵士にぶつける。

 他の敵兵士が銃弾を向けるがバスケットボール選手やバレーボール選手顔負けの跳躍力を披露し、人体から響いてはならない音を響かせて殴り倒す。


 俺はその隙に空中のドローンを破壊していく。

  

「ここからは俺が相手だ」


「なんだ? こいつらの大将格か」


 身の桁2m以上。

 サングラスに髭を蓄えた黒服の兵士が工藤 怜治と相対する。

 工藤 怜治も恵まれた体格はしているが――


「あん?」


「見え見えだ!!」


 工藤 怜治の拳を脇に挟むようにして掴んだ。

 

「だったらこう言う方法ならどうだ!?」


「は!?」


 工藤 怜治は近くの車――相手が乗ってきた思わしき装甲車に力任せに叩き付けた。

 あまりの破壊力で装甲車のフレームが歪み、相手は血反吐を吐いた。


「おらおらおらおらおらおら!!」


 そして何度も何度も腹を殴り、そして最後にヤクザキックを叩き込んで装甲車を横転させた。


 相手装甲車の側面をベッド代わりにしてグッタリ倒れ込んでいる。

 死んでないこれ?


「たく。どこのどいつかしらねえが危ない真似しやがって・・・・・・危うく死人が出るところだったぞ」


「ああうん――その、助かったよ」


「なんだ坊主? こいつらに絡まれてたのか?」


 どう答えるべきかと悩んでいたその時だった。


『まったく、なんたる様だ――』


 今度は肌にピッタリと吸い付いているようなスタイリッシュで真っ白のパワードスーツを身につけたSF忍者が現れた。

 手には拳銃と日本刀らしき武器を持っている。


「今度はなんだ? 仮装パーティーにしちゃ早いな?」


 そして問答無用で遅い掛かってきた。

 動きが早い。

 無駄がない。

 洗練されている。

 殺すための剣術だ。


 だがこのレベルなら十分対処出来る。


 回避できる。


 何度か回避して――そして相手が刀を振り下ろす前に腹へ一発撃ち込む。


 相手は吹き飛ばされていき、アスファルトの地面を滑るが受け身を取ってまた襲い掛かってくる。


 恐らく公園で戦った兵士のように此方の動きを予測する装置で寸前に見きったのだろう。


 それよりも今はこいつの相手をしている場合じゃない。


 だが放置するワケにもいかない。

 

 即効で決めることにした。


 幸いさっきの一撃で相手の動きが鈍っている。


 拳銃を向けてくるがそれよりも早く――


『ッ!?』


(一つ!)


 拳銃を右の手刀で叩き落とす。


(二つ!)


 更に左の拳で鳩尾を一発。


(三つ!)


 相手がよろめいたところを顔面に飛び膝蹴りをかましてヘルメットをかます。

 アジア系のけっこうな顔立ちの男だった。

 とりあえず周囲は片付いたらしい。


「なんかワケありみたいだな。さっさと退散した方がいい。俺は警察の事情聴取受けてから帰る」


「ああうん。手伝ってくれてありがとう」


「どうも――世界は広いんだな――」


 いや、世界は広いで済ませます普通?

 ともかく自分はこの場を後にした。

 

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