束の間の日常

 Side 藤崎 シノブ


 =昼・大阪日本橋・谷村さんの事務所=


「DーTECの総統ってあれ、本物だと思います?」


 ソファーで腰掛け、大画面を見つめてゲームのコントローラーを動かしつつ、ふと俺は谷村さんに尋ねた。

 今は谷村さんと一緒にゲームで対戦プレイしている。

 なんでゲームかと言うと谷村さんに誘われたからだ。

 谷村さんも人間。ゲームしたい時もあるだろう。


「あ~あれ絶対偽物展開だよね。アメコミとかでよくある奴」


 傍に座っている谷村さんはそう返した。


「やっぱそう思います?」


「うん。鑑定の結果もあるけど、引き際がアッサリし過ぎているからね」


 などと言い合った。

 D-TECはまだ滅んでいないらしい。

 

「それにあの騒動の前に、闇乃 影司にちょっかいを出していたのも気になる」


「日本政府絡みと言う事に?」


「間違いないね」


 D-TECは自分達と事を構えるちょっと前に、闇乃 影司に手を出していたらしい。DーTECクラスの組織が闇乃 影司を狙うのはおかしい話ではないが、どこで? どうやって闇乃 影司の事を知ったのか? と言う謎がある。


「闇乃 影司の力を上手く使えば文字通り世界征服して宇宙進出とか夢じゃないからね。地球の環境問題も解決出来るし、癌を含めたありとあらゆる病気の根絶も可能だ」


「そんなに凄いんですか?」


「うん。それだけの価値がある。禁断の果実さ」


 禁断の果実。

 聖書のアダムとイヴに出て来る果物に例えてだろう。

 そう表現をするのは谷村さんらしいと思った。


「深くは話さないけど、欲に目を眩んで大勢の人間が破滅した。それだけは言っておこう」


「破滅ね」


 闇乃 影司の過去は、あまる語るつもりはないのだろう。

 ただ簡潔に谷村さんはそう評した。

 それ以上は深入りするなと言ってるつもりなのか、それとも本人から聞けと言うことなのか。


「話を変えましょうか」


 と、前置きして俺は—―


「谷村さんってローカルヒーローと活動してるって本当ですか?」


「本当だよ」


 アッサリと肯定した。

 谷村さんはローカルヒーロー、地域密着で活動しているヒーローと一緒に活動しているらしい。


「僕が住んでるI市は色々と賑やかだからね。本物の変身までいるし。ダーク・スターって言う表向きはローカルヒーローならぬ、ローカルヴィランな悪の組織がいたりとか、他にもスターレンジャーとかアークゾネスとかもいるね」


「まさか全部本物だとか」


「あ、分かる?」


「本物なんだ—―」


 谷村さんは基本嘘はつかない。

 つまりそう言う事なのだろうと思った。


「いや~大阪日本橋も大概だけどI市も大概だね。どっかの侵略者に特異点でも埋め込まれたかな?」


「それ洒落になってないです」


 本当にありそうだから怖い。

 

「まあともかく世界は意外と不可思議で満ちていると言う事なのだよ」


「みたいですね。その内、リトルグレイのエイリアンとか魔法少女とかと遭遇しそうです」


 と、冗談のつもりで言ったのだが……


「エンジェリアとかニチアサ型の魔法少女だし、アークゾネスとスターレンジャーは宇宙人だったよ」


「そ、そうですか」


 俺今どんな表情してるんだろう。

 変な顔してないよね?

 谷村さんはあっけらかんと、とんでも発言してくる。


「エンジェリアと戦っているダークセイバーはともかく、ダーク・スターズとアークゾネスは地域密着型のフレンドリーな悪の組織だから大丈夫さ」


「フレンドリーな悪の組織って中々のパワーワードですね……てかダークセイバーは、ほっといても大丈夫なんですか?」


 聞いた感じ、この組織だけど悪の組織としてちゃんと機能しているみたいだが……


「ダークセイバーはエンジェリアが専門的に対処してるよ。それにあんま派手に暴れ回るとダーク・スターズとアークゾネスとの組織間抗争になるから大丈夫だよ」


「ダーク・スターズとアークゾネスはフレンドリーって、さっき言ってませんでしたか?」


 聞く話によるとこの二つの組織が抑止力になっているようだが本物の悪の組織にフレンドリーな悪の組織が対抗できるとは思えなかったからだ。


「うん、表向きはそうだけど、その気になったらマジで強いから。DーTECとかライブラとか普通に滅ぼせるレベルで」


「そ、そうなんですか……」


 I市修羅の土地になってませんか?

 などと思いながら相槌を打つ。


「だからディフェンダーとかも迂闊に手を出せないのよ」


「I市に遊びに行くの怖すぎるんですけど」


 遊びに行く予定は今のところないが、谷村さんとの付き合いで行く機会もあるだろう。

 そう思うと何だか恐怖を感じる。


「大丈夫。I市で生きていくコツは無理に敵を作ろうとしない、なろうとしない事だから」


「は、はあ……」


 との事だった。

 だから恐怖を薄れたワケではないが、I市に行く時は谷村さんから離れないようにしようと思った。

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