昔話:召喚直後

 Side 藤崎 シノブ


 昨日のように思い出す。

 

 谷村さんと異世界『ユグド』に召喚された直後の事だ。


 大体のWEB小説のようなお約束はなく、最初からクライマックスと言うか――「なにこれ?」、「本当にこの状況なんなの」的な感じから始まった。


 谷村さんは落ち着いた様子で「巻き込まれ召喚かなこれ?」的な感じで落ち着いていて、もうこの頃から谷村さんは一種の化け物だったらしい。


 色々と格が違ったわこの人。


 それはそうと召喚された場所――フランシア王国の王城もヤバイ状態だった。

 具体的に言うと魔王軍に攻め込まれて大ピンチな状況。


 エリス王女や女騎士のレベッカさんなどの協力や、召喚されたせいなのか身体能力のあれこれが向上していてどうにか最初の危機を乗り越えたが――


 正直大変だった。


 敵に殺される恐怖。


 敵を殺す感覚。


 自分にそんな覚悟も度胸もなかった。


 戦う最中は色々と無我夢中だったが、事態が一旦収束して、現状を認識出来たあと、正直吐いて気がどうにかなりそうだった。


 谷村さんはこれには多少堪えた様子だったがそれだけだった。


 それからの僕は酷いもんだった。


 元の場所に返してくれ。


 お家に帰りたい。


 こんなのいやだ。


 などなど思いつく限りの弱音を散々吐いたと思う。


 谷村さんはそんな自分を放置していたが――後で聞いたけど「吐き出せるウチに吐き出させた方がいいかな」と思ったようだ。


 谷村さんも影で色々と泣いていたそうだし――


 そこから谷村さんが色々と交渉してくれた。


 そして僕に厳しい現実を突きつけた。


 元の世界への帰還を諦めるて逃げるか。


 戦って元の世界へ帰る道を探し出すか。


 谷村さんはこの二択を提示した。


 答えを聞かずに谷村さんは「好きにしたまえ。そこまで面倒は見きれない」だった。


 自分も逆の立場だったら同じような事を言っていただろうと思う。

 

 そんな自分を立ち直らせてくれたのは異世界の人々だった。


 エリス王女。

 

 侍女のハンナ


 レベッカ団長。


 見習い騎士のシーナ。


 デコボココンビのバッカとポル。


 いろんな人と関わり、一緒に危機を乗り越え僕は最初の一歩を踏み出せた。

 

 例えそれが地獄の第一歩だったとしても。

 

 

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