大阪日本橋のメイド喫茶ストレンジと謎の女店主

 大阪日本橋。


 表向きはただのオタク街であるが、裏の顔は警察や裏社会でもおいそれと手を出せないかなり特殊な場所である。


 その原因の一つとなっているのが雑居ビル二階にあるメイド喫茶、ストレンジである。


 Side 藤崎 シノブ


 ことの発端は家に届けられた白い封筒に赤いリボンがついた招待状だった。

 

 問題はその招待状は魔力が込められていたことだ。


 異世界ならともかくここは科学全能の地球である。


 意図的に魔力が込められるなんてありえない。


 念のために谷村さんに相談したが――


「ああ、大丈夫だと思うよ」


 あっけらかんと返された。


「それよりも早く行くよ」


「ああ――」


 お互い私服姿。

 休日の大阪日本橋の雑居ビル前で眺める。

 仮に異世界であったならメチャクチャ警戒するところなんだが。


 魔法使いの屋敷に無警戒に飛び込むなど自殺とほぼ同義だ。


(しかしこんな場所にこんな仕掛けが――)


 いちおう探知魔法などの類いは使っているが至る所に魔力反応や仕掛けが感じられる。


 巧妙でヘタに仕掛けを解いたら他の仕掛けが作動するようになっている。


 正直地球でこんなハイレベルの魔法使いがいたのかと驚愕した。


「どうも、お待ちしておりました。店長が待っています」


 ふと少女メイドが現れてペコリと頭を下げる。

 黒髪ツインテールで綺麗ではあるが無愛想な感じがする。


 だが、それよりも鑑定魔法抜きでも立ち振る舞いに隙が感じられなかった。

 こう言う風に感じられるのも異世界の経験があるからなのだが現代日本でこう言う子がいるのは異常だ。


「彼女は黒井 リンカ。まあその筋の業界では有名な子だよ」


 と、谷村さんが紹介するが――


「その筋ってどの筋?」


「そりゃその筋だよ」


「ああ、うん」


 現代日本でこれだけの魔法の仕掛けを使う人だ。

 それに先程の初見の雰囲気からして裏の方にも顔が利く人らしい。



 雑居ビルの地下。

 そこに彼女がいた。

 長い明るいパープルの髪の毛を黒い二つのリボンを両サイドにつけている。

 可愛らしいが小甘く的な顔立ち。

 まだ背丈的には中学生か小学生高学年程だ。

 

 服装は彼女の趣味なのか黒いコートにタンクトップにスカート、長ブーツ。

 そしてつばがない軍帽にも見える黒い帽子。


 部屋の床は真っ赤な絨毯。

 西洋風の調度品。

 魔力反応が濃すぎる。

 特に見た目は眼前の少女から感じられる魔力反応は異世界でも十分に通用するレベルの魔力を感じられる。


「どうも初めまして。私はヘレン・P・レイヤー・・・・・・谷村君はなんか随分変わったわね」


「いや~ちょっと異世界にいってまして~」


「ふーん。その辺を引っくるめて色々と聞きたかったのよね」


「あ、知ってたんですか?」


 異世界にも似たような女の子がいて谷村さんとつるんでいたことを思い出す。

 てか谷村さんとこの少女とは前から知り合いだったらしい。


「そりゃもうリンカちゃんや使い魔飛ばして大慌てで探りを入れてたんだから。まあやってることは慈善活動――と言うか予防線打撃? の類いだったみたいだし、正直言うとサカキ高校の一件はありがたかったわ」


「あいつら日本橋にも幅を利かせてたんですね」


 僕の言葉に「まあね」と返して少女は話を続けた。


「この町は秋葉原や銀座、渋谷、池袋などにも引けをとらないパワースポットだからね。あんまり荒らされたくないのよ」


(なんか凄い話してんな・・・・・・)


 パワースポットなのは特に驚きはしたが納得もしている部分もある。

 何というかこの町は感覚的に奇妙なのだ。

 それも谷村さんから時折感じられるような歪みのような物を感じる。

 そう言った点で言えば谷村さんもそうとう異常だが――


「せっかくだし、思い出話でも聞かせてもらおうかしら? それにサカキ高校とかの礼代わりになんかご馳走するわよ?」


 これが店長との出会いだった。



 数日後。


 奥村 幸子先生の厄介事(*詳しくは前回のSS集、奥村幸子先生の項を参照)を片付け、メイド喫茶ストレンジで打ち上げ会と軽く反省会をやった。


 最後の最後で先生の鎌掛けに引っかかったのだ。


 まあ小言程度で済んで今はストレンジのカウンター席でゆっくりしている。


「この店ラノベの講座とかもやってるのか?」


「そこそこ有名だよ。その講師絡みで刑事やら平和○静夫みたいな子とか、あと近くのリングからプロレスラーとか格闘家とかも来るけど」


「面子が濃いな・・・・・・」


 他にも男の娘メイドやラノベ作家志望の美少女メイドが二人アルバイトしていたりしたりして本当に濃い面子だ。


 そのうえ、他の異世界の人とか(F○Oのリアルジャ○ヌ・○ルタ、ナイ○ンゲール)も足を運んでいるそうだが――

  

「現実世界もずいぶんファンタジーだったんだな・・・・・・」


「まあね。この手のジャンルの宿命みたいなものがフィードバックされてるのかな?」


 異世界から帰還した勇者もので現実世界もファンタジーだったと言うのは定番だそうだ。

 今にして思えばそれを匂わせる言動は異世界にいた頃から谷村さんから感じ取れたがまさか本当だったとは・・・・・・心の奥底では信じたくなかっただけかもしんないが。


「お約束通りなら現実世界で異能バトルとかにも巻き込まれる感じかな?」


「さあ? まあなるようになるんじゃないかな?」


「なんかどんどん深味に嵌まっていく気がするよ・・・・・・」


「ははは。それは言えてるね」


(谷村さんは前向きだなぁ~)

 

 などと思いつつ俺はジュースを口に流し込む。  


「・・・・・・失礼、君達二人が店長が言っていた人間か?」


「えーと君は?」


 唐突にお下げで髪の毛が少し飛び上がっている(アホ毛?)のメガネの少年が現れた。 

 一見すると上から目線の偉そうな態度の生意気な少年に見えるが立ち振る舞いは堂々としていて、貴族や王族などに通ずる何かを感じられる。

 服装も会社員のようなスーツ姿である。


 後ろには赤髪をお団子さんにして後頭部に束ねた黒い男物のスーツ姿の美人な女性が控えている。

 スーツで分かりづらいが、体の肉付ききや足運び、周囲への気配りなどから何かしらの格闘技の心得があるかもしれない。


「俺の名は長谷川 千歳。仕事の依頼に来た」


 どうも厄介なことになりそうだなと思った。

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