長谷川 千歳からの依頼

 Side 藤崎 シノブ


 場所をメイド喫茶から移して三階の事務所に移動した。

 谷村さんが借りたらしい。

 内装は広々としていて早速ガンプラだの玩具だのDVD、漫画、ラノベだがかギッチリと本棚に収まっている。

 ショーケースにはフィギュアやプラモまで飾ってあった。


 大きなソファに膝下までのテーブル。

 そしてテレビには最新のゲーム機まで置いてあった。

 寝室シャワー、トイレにキッチンまで完備。

 

 外国人の壮大なオタク部屋と言った感じだ。

 谷村さんの趣味が全開まで出ている。


 長谷川 千歳さんは目を丸くして周囲を見渡し、そして踏み入れた。

 

「で、お互い自己紹介は不要みたいだけど、いちおうしておくかい?」


 お互いテーブルを挟んでソファに座り、谷村さんが話を切り出す。


「あのメイド喫茶の店長から二人を紹介された――てっきり黒井 リンカさんか工藤 怜治の奴を紹介されると思ったんだけどな」


 長谷川さんが答えた。

 彼からしても自分達二人が紹介されたのは意外だったようだ。


「黒井 リンカさんはともかく工藤 怜治って誰なんですか?」


「大阪日本橋板の平和○静夫・・・・・・半グレ連中だけでなくここら一体の裏社会でも名が通ってる奴さ。とにかくケンカが尋常じゃなく強い。軽く人間辞めてる。まあこの世界のこの町はそう言う奴は多いみたいだけどね」


「へえ・・・・・・」


と、谷村さんが丁寧に解説してくれた。

なんか最後辺り、不穏な事を言っていたがともかく本題に戻ろう。


「で? 僕達にどうして頼み事を?」


 と、尋ねると


「――失礼ながら二人の経歴は調べさせてもらった。情報屋も使ってな」

 

 情報屋とか本当にいるんだなとか思いつつも俺は「結果は?」話を促した。


「ある日を境にまるで別人のようになったと言うか――谷村さんは十四歳を境に性格が別人のように変わったのは掴んでいる。藤崎君、きみは最近有名になったから分かり易かった――」


 長谷川さんは「一つ目」と言って一差し指を立てる


「学校の不良と追いかけっ子した事件とかそうだ。人間の体重が50kgだと仮定してもその人間を抱えて追いかけっこし続けるのはまず不可能だ。第一人間の体力と言うのは一朝一夕で変化しない」


 続いて「二つ目」と言い、中指を立ててピースの形になる。


「サカキ高校と琴乃学園での正門前での一件から一気におかしくなる。不審なことだらけだ。まるで君達にとって都合が良い事が起きすぎている」


 そして「三つめ」と薬指を立てた。


「そして先日のサカキ高校の一件だ。手際が完璧すぎる。同様の完璧な手口の事件も君達の仕業だろう? 隣にいる佐伯にも聞いたが、最低でも実戦経験豊富な特殊部隊でもない限りは――いや、それでも難しいだろう。仮にそんな仕事ぶりの奴がいたら絶対もっと前から何かしらの形で噂になっている筈だ」


 そこまで聞いて「何か質問は?」と返した。

 さて、どう返すべきか。 

 

 谷村さんは「君は僕達に推理を聞かせに来たのかな?」と笑みを浮かべて問いかけている。


 やばい。これ僕が出る幕じゃないわ。


 この長谷川さんも俺達とは違う意味で化け物だ。


「ここのメイド喫茶の店長はこの町の顔役だ。その店長の居城からこうして1ルーム丸々与えられている時点で只者では無いだろう」


 そう言われてさしもの谷村さんも「ありゃりゃ。そう言われればそうだね」と返していた。


 確かにこの人の言う通りだろう。


 想像以上に頭がキレる


「――失礼がすぎたな。報酬に上乗せしておこう」


「待って。まだ僕達仕事の話も聞いてないのに仕事を受けるかどうかなんて――」


「・・・・・・それもそうだな。すまない。悪いクセが出た。」


 傍に控えていた赤毛の巻き髪の女性、たしか佐伯さんが「すみません。長谷川さん、年上の人ばかりと接していたせいでこんなんなんですよ」と苦笑してフォローしていた。



 依頼の内容は一言で言えばアイドルグループ「Twinkle」の護衛だ。


 それもまだ自分達と同い年ぐらいの子達で自分でも知っているような有名なグループである。


 そんな彼女たちに脅迫状が届いてそれを防いで欲しいと言う物だ。 


☆  

 

「警察とかは?」


 僕は念のためお決まりな言葉を投げかけた。


「あいつらは死体が出ないと動けない連中だからな。それに人気商売ってのは水物だ。脅迫に屈すると自粛せざるおえなくなって最悪活動無期限停止になり、最終的に世間から忘れ去られてしまう」


そして付け加えるように


「それに――こんな馬鹿みたいな理由であいつらの夢を終わらせたくない」


 と長谷川さんは言った。

 僕は(もしかしてこの人実はいい人なのかな)などと思った。


「まあ一番良い方法は脅迫犯を探し出すことだね。後は幾らでも始末はつけられる」


 と、谷村さんが言った。

 おや? 谷村さんノリ気?


「引き受けてくれるのか?」


「まあね。報酬はキッチリ積んでくれればいいさ」


「谷村さんどうしてやる気なんですか? 声優とかにしか興味がないと思ったんですけど」


 僕は率直に谷村さんに疑問を尋ねた。


「なあに。昔、色々と迷惑掛けたからね。世直ししておこうと思って」


「はあ――」


 なにか腑に落ちないものを感じたが自分も何だかやる気が出てきたのでこの仕事に乗ることにした。


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