第20話 ここまでクソな奴も珍しい

 

 マダムとの長い幽閉時間を過ごした劇場の裏手には、鍵のかかった扉があった。


 俺はポケットから、彼女が死せる直後に渡された古びた鍵をつかい、扉をあけて、犯罪組織のアジトへと足を踏み入れた。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



 アジトに入りしばらく進むと、派手な色をしたポップな柄の部屋にでた。


「ひゃっひゃっひゃ、嘘だろ、まさか、あのババア失敗したのかよ?!」


 聞こえてくる声。


 ポップな部屋の奥には、見るに耐えない変態が待ち伏せていた。


 無性髭を存分にたくわえた男は、長くなった髪をツインテールにし、とても似合ってるとは言えない、フリルのついたピンク色の超ミニスカートを履いていた。


 見たくもない、汚れたパンツがチラリズムしている。


「勘弁しろ……はぁ」


 もっとも醜悪なのは、男の足元に転がる裸体の少女だ。


 遠目からもわかるように、身体中にアザがあり、この男が苛烈な暴行を加えたのは明らかだった。


 俺は迷わず、メスを手に持った。


「おっとぉお! やめておいた方がいいぜ、こいつはまだ生きてるんだ! てめぇが毒の類いを操作するタイプのスキルなのは分かってんだ、妙なことしたらこいつを殺すぜ?」


 男が何か言ってるが、躊躇なく、少女に当たらないよう『ロディンケイス』を飛ばす。


 男は俺が、彼の言葉にしたがって、抵抗しなくなったのだと勘違いしたのか、ニヤリと黄色い歯を見せて笑った。


「よし、それでいい、そこを……動くなよッ!」


 変態は手をゆっくりあげて、こちらを狙う。


 次の瞬間、


 男の手から蒼い光が、爆発的な熱とともに放たれた。


「?!」


 俺は未だ見たことない、速すぎる先制攻撃に思わずブリーフケースを盾にする。


 ーーバジィンッ


 重たい、手が痺れてしまう。

 山にタックルでもされたような、とてつもない衝撃力だ。


 これは熱量のせいで、ブリーフケースを掴んでいた自分の手が焼かれたのに、眉をひそめて、攻撃の正体にいきつく。


「電撃か」

「うぉーほほほほっ! その通りぃぃいいいー! この俺樣、ミズ・プリンセスのスキルは〔かみなり〕だぉおおおおおおーっ!」


 女装男ーーミズ・プリンセスは、ふたたび手をかかげた。


 またしても放たれる、高エネルギーの塊。


 俺は両手の痛覚を遮断して、焦げたブリーフケースを盾にして耐えるが、そのシンプルかつ巨大なエネルギーに吹っ飛ばされる。


 痛みを消したぶん、感覚が鈍くなり、衝撃にたいして適切なふんばりを行えなかったせいだ。


 この男……悔しいが、とてつもなく強い。


「クソ……スキル強者め……」


 久しぶりの苦戦を予感させられ、

 思わず、悪態をついてしまう。


「おっちょっちょとぉおおー! いやだわぁあぁんっ、『白衣の死神』しゃまぁああ! 俺様ちゃんは、女神ソフレトに愛されまくってるから、この最強のスキルをもらっただけだっつーのォオ!」


 ミズ・プリンセスはニヤニヤと汚い笑顔をうかべ、足元の傷だらけの少女を抱きかかえると、彼女のほっぺたを舐めながら、自身のスカートのなかに手をいれた。


 正直言って、キレそうだ。


 俺が殺してきた胸糞なゴミのなかでも、こいつほどムカつくのも珍しい。


 だが、落ち着け、アレックス。

 ここまでわかりやすく″スキル強者″なのは、事態解決のために役立てられる情報だ。


 おそらく、こいつはスキルパワーでゴリ押しするしか能がないタイプだろう。


 気温が一瞬で上昇しすぎたせいで、空気中の貴重な細菌『ロディンケイス』は死滅してしまったが、まだやりようはある。


「オイィイ! 死神さんよ、お前ぇ、あのババアと、銀の剣の処女マン殺して来たんだろぉお?! ミセス・アマンダ、ミス・ビューティ、どっちとも俺様の守備範囲の外だが、幻影四天王の仲間だからょぉ、ここで仇打ちさせてもらうぜ……? ……ヌッ…………ふぅ、やっぱ幼女だよなぁ……」


 ミズ・プリンセスはぐったりした少女を放り捨てて、スカートのなかから白くヌメっとした手を持ち上げると、俺へ向けてきた。


「アバヨッ! 一発ヌイたあとだと、最高の一撃を撃てんだわっ! いっひゃひゃ!」


 ミズ・プリンセスは、再び視界をさえぎるほどの光量で、地上の落雷を発生させんと吠えた。


 どういうトリックなのか、まったくもって意味不明すぎるが、奴の体に収束していく電気の粒の量的に、たしかにこの雷は、今まで最大の火力になる予感はする。


 次をもらえば、俺の腕は焼き切れてしまうだろう……。


「ーー次はないが」


 俺はつぶやき、痛覚をふっかつさせ、激痛に震えながら目をしっかりと開く。


 正面から濃密か死がせまってくる。

 

 俺はこれまで2回の電撃でつかんだタイミングをたよりき、雷撃との接触をはかって、ポケットから3本のメスを天井へ向けて投擲した。


「っ!?」


 その結果、電撃は天井へと誘導され、爆発的なエネルギーは、俺を破壊することなく、天井を崩しはじめた。


 慌てふためくミズ・プリンセス。


「お、おぉいいい! ボスゥゥウ! 助けてくれぇぇぇえ! 生き埋めになっちまーー」


 崩れる天井が落ちるよりも早く。


 俺は黒こげになったブリーフケースで、ミズ・プリンセスの顔面を思いきり殴り飛ばした。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



「ぅ、うあ? ここは……」


 ゆっくり、目を覚ますミズ・プリンセス。


 俺はすやすやと眠る少女の治癒を終えて、で横たわる彼を見下ろした。


「死神ッ! てめぇえ、今すぐ焼き殺してやるぜ!」

「……」


 縛られたミズ・プリンセスは、ニヤリと笑い俺をまっすぐに見つめてくる。


 するとーー。


 ーービヂィィイ


「うがァァアアァァアア?!」


 ミズ・プリンセスは、穴の底で体をくねくねさせて、獣のような悲鳴をあげた。


「外国から輸入した『魔力抑制剤』をつかった。しばらくは、スキルが自分に跳ね返ってくる。女神からの愛には、頼らないことを強くオススメする、稀代のクソ男」


 俺はそう言って、スコップを使って穴を埋めはじめた。


「ヒィィイ!? ま、まて、待ってくれぇぇぇえ! 頼む、やめろ! 生き埋めで死ぬなんて嫌だァアア!」


「勝手なことを言うなよ。こんなアジトのなかにどうして、″墓場″なんてあるかと思ったら、ここはお前がオモチャのように遊び殺した女たちを埋めてた場所らしいじゃないか」


 ポップな部屋の横に設けられた、謎の地下墓地。


 ここには、ミズ・プリンセスがいたずらに殺した少女たちの″評価″が書かれた胸糞悪いレポートと、彼女たちの名前を墓石に刻むための彫刻設備があった。


「時間があれば、ゆっくり、丁寧に、医院の地下に監禁して、全身全霊、最悪の苦痛をプレゼントするところだ。この程度で死ねることをありがたく思え」


 俺は泣き叫ぶミズ・プリンセスへ、容赦なく土をかけて埋めていく。


 やがて、もう少しで見えなくなりそうになった時。


「ひとつ言い忘れた」


 俺は手を止める。

 ミズ・プリンセスは助かる希望を見出し、精一杯に懇願してくる。


「んっんぅうー、頼む゛助けてくださぃぃ、絶対に心を入れ替えます、がらぉ、もう悪いことじまぜぇん……お願い、じまずぅぅ……ッ!」


「″生き埋めで死ぬ″とか言ってたが、あれは間違いだ。お前を殺すのはブリーフケースのなかで、まるでお前に苦しませるため、選ばれたかのように雷撃に耐え、生き延びたある寄生虫だ」


「は、ぇ…………?」


「お前の寿命を削って、生命の限界まで再生するよう体を調整してやったから、しばらくは死ねない体になってる。しっかり、罪をつぐなえ」


 俺は言うことを言い終えて、ポカンとするミズ・プリンセスへどんどん土をかけて埋めた。


 やがて、土の下から苦痛に悶える悲鳴が聞こえたような気もしたが、それはもう俺の知ったことではない。

 

 俺は黒こげになった、ブリーフケースの中身を今一度確認する。


「耐圧耐水耐熱装甲だったんだけどな……これからは、耐電性能も必要か」


 全滅した巨額の財産である細菌と毒、寄生虫たちをそっと閉じて俺はため息をついた。


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