第8話 露店病院
「お医者様、本当にありがとうございました! またおいしい果物をもって来ますね!」
「お気遣いなく」
笑顔で去っていく少女を見送る。
昨晩、路地裏で3人の男たちから助けた少女はマア・パトリという果樹園をもつ家の少女だった。
俺は彼女から受け取ったみずみずしい果物の盛られたバケットを、机の上に置く。
「ルミリア、なぜ不機嫌なのか、わからないが、とりあえずこの果物を食べて機嫌を直してくれ」
「これはまったく関係ない話なんですけど、アレックスさんって浮気相手からもらった指輪を、別の愛人にプレゼントするタイプの男ですよね、ふんだ!」
「? 謎掛けか? 興味深いが、やや難解だな。どういう意味が教えてくれ」
「あー! もういいですよ! どうせわたしなんて、おこちゃまです! 可愛い女の子ばっかり、引っかけて、アレックスさんはとんでもない男ですよ、もう!」
ムスッとして机に突っ伏すルミリア。
果実を手にとり、皿とフォーク、ナイフを棚からだし、彼女のとなりに腰掛けて、皮をむいていく。
思考が深すぎるな。
俺ごときでは【賢者】の思惑を看破できないわけか、
「とりあえず食べるか?」
「……ふん、いらないですよ、もう」
「美味いぞ。シャリシャリ」
果物を皿に盛りつけた。
アルドレア医院のしばらくの食料となるのだから、食べてもらわないと困る。
フォークで果物をさして、ルミリアの口元へもっていく。
彼女の鼻のあたりで、果実の切り身をうろつかせ、「あーん、だ」と言うと、ルミリアは「……しょうがないですね」と恥ずかしそうに言って、口をあけた。
「美味しいだろ」
「むふふ……これは格別ですね、ふふ♪」
「それはよかった。しばらくは食費を抑えるため、この果実が生命線となる」
「……冗談ですよね?」
「本気だが?」
ルミリアがスッと立ち上がる。
「アレックスさん、ここにいるだけじゃダメです。わたしたちは人を呼ぶのではなく、人がいるところに、店を構えるべきなんですよ」
ルミリアは焦りを浮かべた表情でいった。
彼女の提案は、納得できるものだった。
俺は果物を手早く、胃にほうりこみ、席をたった。
⌛︎⌛︎⌛︎
「つまり、露店のように移動できる能力が、病院には求められてるわけだな」
「そういう事ですよ。稼がないとお風呂も入らなくなりそうですし、頑張りましょうね!」
ルミリアと共に街へ戻って、店を構えるのに良さげな場所を探した。
30分ほど探索したのち、街の中央広場に椅子と看板を設置することにした。
目の前に冒険者ギルドもあるし、悪くないポジションを占拠できたな。
「さあ、ルミリア。君の可愛さで、ぜひとも市民の意識をかえてやってくれ」
「えへへ、アレックスさんは人を動かすのが上手ですね、もう♪」
ご機嫌なルミリアの首に看板をさげさせ、文字通り看板娘として中央広場を歩かせる。
背の低い彼女がちょこちょこ歩く姿は、なんとも微笑ましいものだ。
「こんにちは〜、病気・怪我などでお困りのかた、ぜひ『アルドレア医院』の出張病院をお尋ねください!」
大きな声を出して、すこし恥ずかしがりながらも頑張るルミリアを遠目に眺める。
手持ち無沙汰になり、白衣の内側から手記をとりだし、そこにはさまった凶悪犯罪者『犯罪顧問』の二つ名をもつ『
この犯罪者は多くが謎に包まれており、うわさでは百個の顔をあやつり、どんな場所にでも溶けこみ、凶悪な事件をおこすという。
この男が現れ出してから、ファントムシティの犯罪発生率が爆発的に増加した。
俺が犯罪者の
ジークタリアスの『犯罪王』しかり、ファントムシティの『犯罪顧問』しかり、悪のカリスマたちが世界を著しく汚している。
『百面』……この犯罪者だけは、街にいる間に、必ず殺さないといけない。
「すみません、ここで神殿より安く怪我の治療を受けれると聞いたんですけど……」
声が聞こえ、手記をふところにしまい、来院者へ顔をあげる。
「はい、お任せください。お嬢さんたちは、どこが悪いですか?」
俺は口角ををちょっとだけ上げて、たずねた。
店前には2人の女性冒険者がたっていた。
「っ、えっと、その、朝に平原で魔物退治してたら、うっかり噛まれちゃって。治癒霊薬使うのももったいなかったんで……」
冒険者のひとりが嬉しそうに頬を緩ませ、言ってきた。
俺は彼女をとなりに座らせて、噛まれたという手首の怪我を手早く癒した。
除菌、霊薬を微量に使った治癒だ。
真新しい傷も、もちろん〔
それになにより、スキルの隠蔽をしないといけないしな。
でなければ、厄介な連中に足取りを掴まれてしまう。
「わぁ、全然しみなかった……! たった、これだけで傷を治せるんですか?」
「はい、医者ですから。これで治療は済みました。お大事に」
女性冒険者の手首をポンポンっとたたいて見送る。
「あ、あの、すみません、お医者様はお名前は……なんて、おっしゃるんですか?」
「ちょっと、何聞いてんの! 私が癒してもらったんだからね!」
となりで見ていた女性冒険者が、期待する眼差しを向けてくる。
医者として、名を広めるのは大切な事だな。
「アレックスです。アレックス・アルドレア。普段は『アルドレア医院』で治療を承ってますので、どうぞよろしくお願いします」
「っ、は、はい! 必ずまた会いに行きますね?」
すくなくとも、怪我して来て欲しいがな。
「アレックス様、最後に握手して、くださいますか?」
なんでだ。
「……いいですよ」
女性冒険者のやんわり手を握ってあげる。
すると、彼女は口元をおさえて「えへへ……握手しちゃった♪」と嬉しそうした。
すぐとなりの治療を受けてない女性冒険者も、なぜか握手を求めてきたので、とりあえず応えてあげると、同じような反応をして、お礼を言って、2人は満足げにさっていった。
なにか女性冒険者のあいだで流行ってる行為なのだろうか。
とりあえず、細菌を俺に移して、医療行為を阻害する目的があったら嫌なので、手を〔
⌛︎⌛︎⌛︎
この後、2時間ほど店を構え続けた結果、露店に直接来た女性が30人、ルミリアが呼びこんだ男性が15人が来院してくれた。
そのすべてが病気ではなく、怪我の治療に関するものだったが……これは素晴らしい成果だ。
ようやく、生活資金の調達の目処がついた。
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