第7話 イケメン医師の診察
リビングに響くノック音。
俺は玄関扉を開けはなつ。
「こんにちは、アルドレア医院へようこそ」
人々から不評を買う笑顔はつくらず、無情の面のまま来院者を迎える。
「こ、こんにちは。本当にこの建物であってたんだ」
心底ホッとしたと言いたげに、玄関先の少女は胸を撫でおろした。
「わあ、本当に白衣を着てる……医者って実在したんですね」
「いますよ。意外と」
変な感動をしてる少女へ、淡々と答え、彼女をリビングへ通してあげる。
ソファへ座らせて、俺は彼女の左手前のひとり掛けソファに腰を下ろした。
「本日はどのような用向きで?」
「病院なら、なんでも治してくれると聞いたんですが……」
「なんでもかはわかりませんが、治療に取り組むことはできます。そのための施設ですから。さっそく診察してみますか?」
立ちあがり、机横にある羊皮紙とボードを手に取って、少女のとなりに腰を下ろす。
羊皮紙に彼女の状態をメモする準備をする。
「名前、年齢、性別を教えてください。可能であれば【クラス】と〔スキル〕も。状態を判断する参考になります。嫌なら、教えてもらわなくても大丈夫です。来院経験、過去の疾患も覚えてる限り教えてくれると助かります。では、名前からどうぞ」
「え、えっ」
口早に説明し終えて、羊皮紙のうえにペンを待機させて待つ。
ん?
すこししても、少女が喋り出さないのを不審に思い、俺はとなりへ視線をむけた。
少女は頬をうっすら染めて、こちらを見ていた。
「あ、あの、お医者様が診てくれるんですが?」
「もちろん。…………ぁぁ、なるほど」
俺は彼女の反応の訳をいちはやく理解する。
つまりこういう事だろう。
男性である俺に診られるのが不安だと。
ふむ、仕方のない事だな。
「ルミリア」
「はい!」
元気にかえってくる返事。
彼女を助手として雇っておいてよかった。
「少女の診察を頼む。今朝教えたとおりに記入だけしてくれ」
「わかりました、けど、どうしてアレックスさんがやらないんですか?」
「ふっ、ルミリアは鈍感だな」
いや、俺の感が鋭すぎるだけか。
立ちあがり、力なく首を振りながら、羊皮紙とボードを渡す。
「待ってください! えっと、お医者様、アレックス様っていうんですか?」
俺の手を、がしっとにぎり、少女は焦りの表情でとめてきた。
「そうですが?」
「アレックス様って、か、カッコいいですね」
「? ええ、どうも」
唐突に賞賛されたな。
どういう意図があるのか……。
「私は、アレックス様に診てもらいたい、です……だめですか?」
「構いませんよ、君がそれでいいなら」
なんだ、俺でもよかったのか。
チラチラと気恥ずかしげにこちらを伺う少女。
再び腰を下ろすと、おしりをスライドさせて、ふたり掛けソファのうえで、寄ってくる。
ふと、ルミリアがじとっとした暗い視線を向けてきていることに気がついた。
「アレックスさん」
「……なんだ、ルミリア」
「わたしが診ましょうか? その子、元気そうですし、アレックスさんの手をわずらわせる事ないですよ」
む、彼女らしくないな。
「わ、私はアレックス様に診てほしいです! お医者様なんですし」
少女は主張する。
こっちもさっきより、何故か積極的だ。
「だそうだ。ルミリア、経験を積みたい気持ちも、気遣いも嬉しいが、今回は俺に任せてくれ。すまないな」
少女の診察に戻る。
ボソボソと喋る、彼女の言葉を聞きとり、医術学院で学んだ手法をもとに、俺好みのアレンジを加えたカルテを作成していく。
名前はマッシュ・ライセプン。
年齢は15歳、性別は女性。
クラスは【植林者】スキルは〔
過去の来院経験も、疾患もなし、と。
「それで、今日はどうされました? どこの具合が悪いですか?」
「その、実は病気じゃなくて……」
マッシュは申し訳なさそうに、そっとスカートをまくしあげていく。
すると、彼女の足がすねが白く変色してるのがわかった。
健康的な肌の白さじゃない。
これは火傷か。
「怪我なら、神殿で治せるんですが、私の家には、あまりお金に余裕がなくて……それに、これ小さい頃の傷なんです」
「なるほど。
今回は残念ながら病気の治療ではなさそうだ。
俺はカルテに「右足・すね・火傷」と記入して、そのしたに古傷の治療と書きこむ。
「この傷跡がコンプレックスで、地味な長いスカートしか履けなくて……でも、近いうちにパーティがあるから可愛いスカートが履きたいなって……もしかしたら、病院ならなんとかできるかもって思って来たんです……アレックス様、治せますか?」
心配そうに聞いてくるマッシュ。
「もちろん。医者ですから」
俺は口元をわずかに上げて、気を使ったギリギリの微笑みをつくる。
マッシュは安心したように、そして、すでに嬉しそうに俺の顔を見てくる。
俺は彼女のまえにひざまづき、白衣の袖をかるくまくしあげた。
マッシュの膝裏に手を入れてもちあげ、もう片方の手のひらで変色した皮膚をおさえる。
「あぅ……っ」
マッシュは口元を押さえ、なんだかニヤニヤと楽しそうだった。
俺は〔
微生物の働き次第では、人間は第二、第三の骨格を獲得し、高筋肉密度の腕を片方の肩から3本追加して生やすことも可能だ。
俺ならば、人間の体をいくらでも
古傷を完治させるなど、実に容易な
「こんな感じでどうですか?」
「っ! 凄い……どうしても、消えなかったのに……嘘みたい……っ」
口元をおさえ、マッシュは感極まったように涙をながした。
俺は袖をもどして、カルテに「治癒済み」と書き上げた。
「アレックス様、ほんとうに、これだけでいいんですか?」
「十分です。それほど労力は掛けてないので」
マッシュから銅貨2枚を受け取り、念のため除菌して売り上げ箱にしまう。
俺はスキルのおかげで手早く処置できるし、それにより多くの人間に病院を利用してもらい、来院の意味を普及させることが目的だ。
大金を受け取れば、それは
「本当にありがとうございました! アレックス様のことは忘れません! というか、何かお礼しにまた来ますね!」
「お気になさらず。アルドレア医院の存在を流布してくれれば、それが一番嬉しいですよ」
「はい! わかりました、友達にも伝えておきますね!」
手を振り、スキップしながら去っていくご機嫌なマッシュを見送った。
「アレックスさん、嬉しそうですね。女の子の診察は楽しいですか?」
「なんだか、恐い顔をしてるな、ルミリア。人を救えたんだ。嬉しいに決まってるだろ?」
もう見えなくなった角を見つめる。
いい達成感だ。
「ん?」
外を眺めてると、ふと、向こうからトタトタと走ってくる人影を見つけた。
「アレックスさん、なんか満面の笑みで走ってくる女の子がいますよ」
「あれは、昨日、路地裏で助けた少女だな。律儀にお礼しに来てくれたんだろ」
「……わかってましたけど、アレックスさんって、本当にジゴロ……はぁ、ライバル多いなぁ……」
消沈するルミリアの気持ちは察するに余りある。
俺は彼女の複雑な心理に興味を持ちながら、やってくる少女を医院へ迎え入れた。
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