第6話 英雄の失墜


 その日、ドッジは荒れていた。


「おい、もっと酒持ってこい」

「は、はい!」


 早朝、酒場で酔いどれる。


 アルコールの強い酒をあびるように飲み、木杯を机にたたきつける。


「うっひ、おいおい嬢ちゃんいいケツしてんじゃねぇか」


 ドッジは通りかかった女性のお尻へ手をそわせ、撫でまわした。


「っ、なにこいつ、気持ち悪ッ!」

「ぐぶへぇ?!」


 女性は不快を隠さず全力でドン引くと、ドッジの机に置いてあった空の酒瓶を彼の頭へ叩きつけた。


 レベルが高いうえにダメージとして喰らわないが、それでも昨晩からずっと酔い続けた頭には、効きすぎる。


 女性は「今度やったら衛士に突き出すから! キモ男!」と口汚く吐き捨てて、足早にその場をさっていった。


 すぐのち、顔色を悪くしたドッジはオロロロロっと、猛烈な勢いで胃の中の内容物を吐き戻す。


 そして、めまいを起こしながら、自身の吐瀉物のなかにベチャリっと倒れこんだ。


「ぐえ!? 汚え野郎だな! 出ていきやがれ!」


 案の定、ドッジは店の店主によって蹴り出されてしまった。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎


 

 汚物に塗れたドッジは、しばらく路地裏でボーッと空を見上げていた。


 ふと、柄の悪い者たちがそばを通りかかった。


「死ねよ」


 ドッジはうつろに彼らを見ながらつぶやく。


「あ?」

「てめぇ、死にてぇのか? あ?」

「クソ汚え格好しやがって、冒険者みてぇだが……ぁ?」


 ドッジは立ちあがり、酒気が抜けない千鳥足で柄の悪い者たちへ近づいた。


「待てよ、こいつ緑のコインってことは、ポルタ級冒険者なんじゃ……!」

「や、やべぇ、なんで、こんな、ところに!」


 にやりと微笑み、ご機嫌になったドッジは腰裏に忍ばせていた短剣を手にとった。


「そうだ! 俺はポルタ級冒険者だぞ! このファントムシティで最強の男なんだ! どんな女だって俺の誘いは断れない! 誰だって抱ける! なぜなら俺が『百戦錬磨』のドッジだからだッ!」

 

 短剣で怖気た男たちのひとりの腹を思いきり突き刺すドッジ。


 高レベルの彼がそんなことすれば、男の体は上半身と下半身でまっぷたつに弾けるように裂けてしまう。


「う、うわぁあああ?!」

「なんだ、こいつイカれてやがる!?」


「あっはははははは! 逃げろよ! 俺はドッジだ! 誰も俺様を止められねぇえ!」


 走りだす男たち。 

 ドッジはぞうもつで汚れた手をふりあげ、短剣を投げて逃げる男のひとりの頭を爆散させる。


「ひぃやああ?!」


 ドッジは高笑いしながら、路地裏に寝転んだ。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 ドッジは冒険者ギルドへやってきていた。

 をするためだ。


「【医術師】っていう珍しいクラスをもってるアレックスって知ってるな? そうだ、俺様の仲間だったポルタ級冒険者だ。あいつはクソだ。マジで使えない。報酬の分け前だけは、きっちりもらっていく人手なしだから気を付けろよ?」

「そうなんですね。忠告ありがとうございます、ドッジ先輩!」


 駆け出し冒険者の少年少女たちは、偉大なる先輩の言葉に嬉々としてうなづき、クエストボードへ走っていった。


 ドッジは笑顔で手を振り……スッと無表情になると、近くの椅子に腰を下ろした。


「クソが! バネッサ、キャサリンなんでいなんだよッ! あいつらは俺の良いように使える女だったのに……。全部、あのクソ野郎のせいだ」


 ドッジは歯を軋むほど噛みしめ、手を机にたたきつける。


 彼は昨晩のパーティ仲間であり彼女であったバネッサと、浮気相手のキャサリンとの斬り合いで敗走をきしていた。


 みんな、彼のもとを去ったのだ。


 彼にはなにも残されてはいない。


「……とりあえず、何か受けるか」


 情緒不安定を極めるドッジは、再びスッと無表情に戻ると、クエストボードで今まで受けていたのとおなじ難易度のクエスト依頼書を手に取って、クエストカウンターおもむいた。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 森をすこし入ったところで、ドッジはオーガとの一騎打ちに望んでいた。


 剣を蒼い雷撃でつつみこみ、防御不可能と化した魔力の刃。


「オラァア!」


 空中に輝線を残しながら、オーガのもつ棍棒を焼き斬る。


「グォオ!」

「ッ!?」


 しかし、オーガの拳による反撃をうけて、ドッジは飛ばされ、木に背中を叩きつけられてしまった。


 叩かれた胸がパックリさけている。


 ただ、幸いにも、差し違える覚悟で突き出していた剣が、オーガのほうの胸部にも致命傷を与えており、オーガを撃退することには成功していた。


「痛ぇぇ……ッ! クソ雑魚オーガの分際で、なめやがって……っ!」


 ドッジはどくどくと血の流れる傷口に、錬金術ショップで買ったとりあえず一番高い治癒霊薬をドバドバかけていく。


 じわーっと痛みがひいていき、ドッジは洗い呼吸を落ち着かせていった。


「ケッ、やっぱり誰でも出来んじゃねぇか! ……痛ッ!?」


 立ちあがろうとして、ドッジは再び胸に鋭い痛みを感じた。


 見てみると、胸の傷が開いている。


「ああ! クソ、ゴミみたいな治癒霊薬だな! あんなに高かったのに、一本で治せねぇのかよ! アレックスのやつは、こんな高い出費してなかったのに……ッ!」


 ドッジは近くの木によりかかり、2本めの瓶をあけ、瓶をかたむけて輝く霊薬を身に浴びた。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



 オーガ討伐の依頼を達成できず、多くの出費だけ重ねたドッジは、残されたわずかな有り金で、娼館しょうかんへむかっていた。


「っ、あれは、アレックス……ッ!」


 いきつけの娼館のなかへ入っていく白衣の男の背中を見て、ドッジは目を剥いた。

 

「へへ、金でこころを犯す醜い娯楽だなんて言ってたくせに、結局、てめぇも女を″穴″としか考えてぇっことじゃねえか。アレックスの野郎、化けの皮を剥がしやがった!」


 ドッジは醜悪な笑みを顔を貼りつけ、アレックスの後を追って娼館へ駆けこんでいった。


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