第5話 生活資金難


 俺の当面の目標は厳格に決まっている。

 

 それは、この街にいては達成できないことだ。


「『がけ都市とし』ですか?」

「そうだ。ジークタリアスと呼ばれる、大きめの都市があるんだが、そこに用があって行かなくちゃいけない」

「用がある、ですか。アレックスさんが目指すものなら、きっと正義のヒーローが必要とされるものなんですよね!」


 ルミリアはホウキで室内の埃を医院の外へ掃き出しながら、ニコニコ笑って聞いてきた。


「まあ、そうだな。君にもいつか教えられると、いいんだが……」


 あの街の『犯罪王』とか言うふざけた肩書きを名乗るゴミを消しさる。


 だが、その前にこの街でも『犯罪顧問』を名乗ってるゴミがいるので、そいつを先に燃やす。


 しかししかし、さらに火急の問題もある。


「あ、アレックスさん、郵便受けになにか入ってましたよ」

「……かしてくれ」


 ルミリアから封筒を受け取り、恐る恐る開封すると、なかから莫大な金額がかかれた羊皮紙が出てきた。


「これって…………もしかして、アレックスさん、家賃滞納やちんたいのうしてるんですか?」


「正義のためだ」


「『正義のためだ』じゃないですよ! いろいろ驚きですからね!? まず、こんなボロ家なのに賃貸物件だったんですかっ?! それに、なんですかこの金額は! 何ヶ月払ってないんですか! アレックスさん、これでよく正義のヒーロー語れましたね!」


「うっ……」


 痛いところをつつかれ、俺はルミリアと顔を合わせていられなくなり、ソファに深く座りこんだ。


「最高位のポルタ級冒険者なのに、こんな貧乏暮らししてるなんて、冒険者ってそんなに儲からないんですか?」


「いや、奥にたくさん寝台が並んでるベッドルームがあるだろう。あの部屋を整えるのに、たくさんお金を使ってしまってな。それに、病気の治療のためにの薬品を揃えたり、機材を揃えるのにも凄くお金がかかって……」


「患者もこないのに?」


「患者が来た時に準備できてないんじゃ遅いんだ。ひもじい生活を余儀なくされても、俺は医者として人々を救わないといけない。……


「そうですよねぇ……一応、本業はお医者さんなんですよね……」


「そうだ。だからこそ、冒険者稼業の落ち着いた今こそ、本業のほうにも手をだす……いや、この表現は意味不明だな。本業のほうも再開するんだ」


 そのため『アルドレア医院』へ、本格的に人を入れられるように掃除しているのだ。


 気合を入れていこうじゃないか。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



「こんなところですかね! ボロ家にしては、なかなか綺麗になったんじゃないですか!」

「もうボロ家っていうのに抵抗なくなったな……」


 医院内の掃除をおえて、俺たちは次なるステップへ移ることにした。


 助けを必要としてる人が、医院の存在を知れるように宣伝するのだ。


「ルミリア、君は可愛い」

「ファッ!?」

「だから、ビラ配りでもすれば、多くの人へ『アルドレア医院』の存在を知らせることができるだろう」


「ぁ、な、なるほど! そういうことですか! ふぅ……心臓に悪い……」


 おかしな反応を見せるものだ。

 ん、もしかして、ルミリアはどこか調子が悪いのか?


「ルミリア、大丈夫か? 具合が優れないのなら、俺にすぐに言えよ?」


 ルミリアのおでこに手を当て、熱がないから確かめる。


 すると「ふにゃっ!?」とまたしても、奇怪な反応を起こした。


「これは……間違いない、病気だ」

「アレックスさんがですよっ!? 乙女心もてあそばないでくださいッ!」


 すっごい叩かれた。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



 ルミリアと街へ繰りだした。

 今日からは彼女は、冒険者仲間 兼 助手という立場で頑張ってもらうため、防御力が気持ち程度に確保してされてる特別な白衣もかした。


「すこしサイズが大きいですね」

「そうか。昨晩、君のために目測で調整したが、やはりちゃんと測定しないとうまく行かないな」

「ぇ? この白衣……アレックスさんが、わざわざ調整してくれたんですか?」

「ああ。だが、失敗だった。ごめんな。帰ったらまた作り直そう」

「いぇ、これで、いいですよ、わたしは。えへへ♪」

「ん? そうか。ならいいんだが」


 ルミリアは袖から指先だけだして、何やら嬉しそうにニコニコしはじめた。


 

 わからんものだな。

 特級クラス【賢者】の思考というものは。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎

 


 街の中央へやってきた。


 病気にかかったら病院へ行こう。


 そんな趣旨のキャッチフレーズが書かれた羊皮紙を、掲示板、路地の壁に貼ったり、道行く人に直接渡して『アルドレア医院』の存在を認知してもらう。


 こういう地道さが、大きな結果を生むのだ。


「よし、次は冒険者ギルドへいこう。あそこの掲示板は情報拡散において、極めて高い威力を発揮してくれるだろう」

「新しいパーティ仲間も増えてるといいですね!」

「ああ、そうだな」


 冒険者ギルドへやってくると、すぐに周りの冒険者たちから怪訝な眼差しをむけられた。


 はて、何か恨まれることでもしたか。


 いまいち空気の正体を掴めなかったが、気にせず俺とルミリアは掲示板に2、3枚の貼り紙を貼りつけた。


 我が医院にとっては、羊皮紙も痛い出費だ。

 効果的な場所に、効果的に使っていかないと。


 受付嬢に会い、パーティ募集の成果を聞いてみる。


「あ、こんにちは、アレックスさん!」

「……?」


 ふと、おかしな違和感を感じたが、受付嬢がいぶかしむ表情で「……アレックス様?」と聞いてくるとその違和感はなくなった。


 気のせいか。


「昨日のパーティ募集の成果はあったか?」

「ああ、パーティ募集の件ですか。残念ながら、今のところアレックス様をほしいと言われるパーティは現れてませんね」

「そうか。仕方ないか。なあ、こっちの子も俺とセットでパーティを探してるって事で、募集をかけてやってくれないか?」


「またお願いします! 受付嬢さん!」


 ルミリアは目をつむり効力高そうなお願いをする。

 受付嬢は笑顔で快諾して、手元の書類をまとめはじめた。


「ん? どうかしたか」


 受付嬢の視線が気になり、聞きかえす。


「いえ、なんでも、ないですよ! アレックス様! 今日もカッコいいなって思っただけです!」


「っ、あ、アレックスさん、はやく早く行きましょ! ここに長居するのは良くないです!」


 ルミリアが何やら焦りの表情をしていた。


 ふむ、やはりわからないものだ。

 特級クラス【賢者】というものは。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



 その日の昼過ぎ。


 ビラ配りを終えた俺たちは、『アルドレア医院』へ帰ってきていた。


「疲れました〜。ふぅ、これだけ配ればすこしは人が来てくれますよね」

「さぁな。俺としてはこれくらいで、市民たちが病院に来ようと思ってくれれば、万々歳なほうだ」


 ーーゴンゴンっ


 扉がノックされる音が玄関 兼 リビングに響く。

 俺は紅茶をいれる手をとめて、ルミリアと顔を見合わせた。


「ぁ、アレックスさん、これって!」

「ああ。久しぶりに患者が来たらしい」


 俺はティーポットを置いて〔細菌碩学さいきんせきがく〕で部屋中を清潔にしなおし、玄関扉に手をかけた。


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