第9話 ようやく病気の案件が来た


 だんだんと日が暮れて来た。


「そろそろ、帰るか」


 中央広場に広げていた露店をたたみ始める。


 今日は大盛況だった。


 また来てくれる、と割合に多くの来院者が言っていたし、時間が経てば、アルドレア医院の噂も広まってくれるだろう。


「アレックスさん、今日はたくさん患者さん来てくれましたね!」

「ああ、これは本当に助かることだな。ルミリアもよく頑張ってくれた。なにか美味しいものを食べよう」

「そうですね! ……ところで、アレックスさん、たくさん女の子の手を握ってましたけど、あれはどう言う事ですか?」

「ん、俺もわからないが? 思うに、なにか流行ってるんだろう。何度か考えてみたが、深い意味がある行為ではないのは確かだ」

「……天然ジゴロ」

「なにか言ったか、ルミリア」

「何も言ってないですよ。このイケメンめ! ふんだ!」

「?」


 ご機嫌斜めのルミリアと2人で協力して店をたたみ、忘れ物がないか確かめる。


「あの! すみません、まだ病院はやってますか?」


 背後から声をかけられふりかえる。

 

 そこに綺麗な金髪をした少女が立っていた。


「これから帰るところですが、君ひとりなら診ましょう」


 俺は言った。


 机と椅子をだして、手で座るよう指し示す。


 ただ、少女はなかなか座ろうとせず、俺の顔を見て迷った様子で口を開閉させるばかりだ。


 どうしたのだろうか。


「実は、私じゃないんです。私の、その、働いてる先でおかしな事が起きてて……たぶん、病気っていうやつだと思うんです」


 おお。

 不謹慎だが、嬉しいな。

 病気の依頼がやってくるなんて、しばらく時間がかかると思ったが、まさかこんな早くにな。


 これはおおきな意義のある一歩だ。

 意識改革という意味でな。


「なるほど、わかりました。それじゃ、その職場に行ってみましょう。ルミリア」

「はい! わかりました、アレックスさん!」


「あ、そちらの女の子は……ついて来ないほうが、いいかもしれないです……」


 語尾をだんだん小さくしていき、少女は目元に影を作って言う。


 ルミリアに何か後ろめたいような、暗い感情を俺は読み取った。


 そして、察する。


 なるほど。

 そういう感じか。


「な、なんでですか! わたしはアレックスさんの助手でしてね! アレックスさんのそばにいる権利があるんですよ、ほら、これなんてアレックスさん手製の白衣ーー」

「ルミリア、俺ひとりで十分事足りる。先に帰っていてくれ。今晩は、君に料理をする能力があるかも確かめたいしな」

「……っ! りょ、料理は……………頑張りたいと思うので、先に帰ってますね……!」


 あわあわと焦り帰るルミリアを見送り、俺はペコリと頭をさげる少女へ向き直った。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



 少女について行くと、俺はあるところへ連れて行かれた。


 路地裏に一本はいった、比較的暗い場所にその店はあり、通りからは視界がとどかない。


 十中八九、娼館しょうかんだろう。


「すみません……」


 娼館にたどり着くなり、少女は顔を伏せて申し訳なさそうにつぶやいた。


「別に謝ることはないですよ。病気にかかった患者は中ですね?」


「はい……」


 チラチラあたりを見渡し、少女は俺の袖をちょこんとつまんで中へ案内してくれる。


「パトリシア、ちゃんと客を連れきたな! はい、どうも、いらっしゃいませ、旦那! うちは可愛い子たくさんそろえてますよ!」


 中に入るとさっそく、ちょび髭のインチキ臭い男が話しかけてきた。


 道中名前も聞かなかった少女は、パトリシアというらしい。


「マスター、この人はお客さんじゃないんです。街で見かけた病気を治せるっていう、お医者様で……」

「医者……? ちっ、客じゃねぇのか。というか、医者なんて、うちよりたちの悪いインチキ商売してるっていう幻の職じゃなかったのか?」


 マスターと呼ばれた男は、機嫌悪く言って、俺の足先から頭まで舐め回すように見上げてくる。


「ずいぶん、お顔がいいこって」

「それはどうも。それより、今の発言を取り消す気はないのか? どうして、インチキ商売だなんて言う?」

「そりゃそうだろ。お前らは、適当に客の体触って、よくわからない言葉並べて高い金をもらうって聞いたことがあるぜ? ただのインチキじゃねぇか」


 そうか、そういう風に思われてる節もあるんだな。

 これは新しい知見を得れた。


「少々不快だな。お前たちは女性を商品として売り、その甘い汁をすすってるだけのウジ虫だろう」

「っ、てめぇ、喧嘩売ってんのか?」


 マスターが声を低くし眉をひそめると、奥から筋骨隆々の粗暴な男が出てきた。


 パトリシアはギョッとして、視線を泳がせる。


「死にたくなかったら、出ていきやがれ。お偉い、お偉いインチキ野郎」

「言葉を重ねず、俺の発言を論理的に覆そうとしない。ただ、出ていけと言うわけだ。それは、お前がウジ虫であるなによりの証拠じゃないのか? 寄生するしか能のない薄汚さだ」


 俺の言葉にマスターは目をひどく冷たいものに変えた。


 空気の変化を感じとったのか、奥から娼館に務めていると思わしき若い少女たちが出てくる。


 マスターはそれを一瞥いちべつして、筋骨隆々の男へ指示を出した。


「……やれ」


「小綺麗な旦那、悪く思うなよ」


 筋骨隆々な男は拳をふりあげる。


 勢いよく、振り抜かれる拳。


 鈍重なそれを俺は身をひいて避ける。


「なっ?!」


 ついでに、トーキックで筋骨隆々男ののすねを打ち、悶絶させておく。


「あが、うぅ……!」

「ヒビをいれた。無理に立たないほうが賢明だぞ」


「ヒ……ッ、お前たち!」


 喉を引きつらせて、マスターはさらに数人の強面の男たちを呼びつけた。


 やれ、ずいぶんボディガードが多い……。

 ただの娼館がこんなに備えてるものか?


 どのみち、乱暴なことになりそうだな。


「パトリシア、すこし離れているといいですよ」

「は、はい……!」


 隣の少女を、よけさせ、俺はかるく首を鳴らした。


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