アフターストーリー2 新しい仲間


 久しぶりにローブに身をつつんで、やる気満々のルミリアを連れて、冒険者ギルドへやってきた。


「アレックスさん! こんにちは!」

「やあ」


 受付嬢が俺を見つけるなり、元気よく挨拶してくる。


 俺はそんな彼女の瞳をじーっと見つめた。


「な、なんです? アレックスさん、そんなカッコいい顔で見つめられると、私、ダメですってば……///」


「ふむ。普段通りだな」


 あの男が死んで、ファントムシティに潜む100人の『犯罪顧問』は消えた。


 当たり前だが、目の前のこの少女も、もう奴の能力下にはいない。


 そんな事はわかっているはずなのに……俺は、あの男がまだ生きているような気がして、薄気味悪い感じがするのだ。


 もちろん、そんなはずはなく『犯罪顧問』が消えた事で、ファントムシティにはすでに俺の基準でみて、良い変化が現れている。


 絶対的な悪のカリスマが消えた事で、このファントムシティの中で構築されていた、犯罪ネットワークは崩壊し、それぞれの″パーツ″の力は弱まっている。


 この1週間で『犯罪顧問』のしたで動いていた、小物犯罪組織もたくさん潰した。


 都市政府に蔓延していた、汚職やり放題、犯罪し放題だった政治家も拷問して情報を吐かせて、芋づる式に20人も制裁できた。


 今、ファントムシティには確実にある存在の印象が強く刻まれつつある。


 それは悪党の間で語られた『白衣はくい死神しにがみ』ではない。


 市民たちのあいだでささやかれ、新聞に取り上げられ、なおかつ犯罪をおかす暗い世界のウジ虫どもを震えあがらせる象徴。


 『百面』が不可能などと、のたまっていた正義の象徴だ。

 それは実現しつつある。


 そいつの名は『正義せいぎ死神しにがみ』だ。

 悪人という悪人を、必ず見つけだし、さばく、悪党にとっての絶対的恐怖である。


「新しいパーティメンバーですね! それなら、いらっしゃいますよ! ちょうどあそこの席に!」


 受付嬢にパーティ募集の件を聞くと、どうやら進展があったらしいと教えてもらえた。


「どんな人だろ! 楽しみですね、アレックスさん!」

「そうだな」


 わくわくするルミリアと一緒に、言われた人物の背中に声をかける。


「こんにちは。あなたがパーティ募集に応じてくれた方ですね」

「こんにちは! 仲間になってくれて嬉しいです!」


 俺とルミリアの声に、その人物はこちらへ振り返ってきた。


「死神。こっちでも世話になるよ」


 振り向いてきた黒髪の少女は、ぶっきらぼうにそう言った。


 短いスカート、腰に差したるは銀の剣。

 今は眼帯してないが、その顔は間違えるはずもない。


 新しいパーティメンバー。


 それは、裏の相棒である『銀剣』レイスであった。


「……仲間になりたかったのなら、普通に医院で会ったときに言えばいいだろう、レイス」

「レイス・パトリちゃん! こんにちは! そういえば、孤児院と果樹園のために冒険者をしてるって言ってたよね!」

「そういうことよ。どうせ仲間いないんなら、入ってあげようと思っただけだから、こんなのただの気まぐれなんだからね?」

 

 レイスはそう言うと「それじゃ、適当に行こっか。クエスト」と言ってクエストボードにむかった。


「ルミリア、レイスと一緒にクエストを選んでこい。俺はパーティ結成の手続きをしてくる」


 俺はそう言って、受付嬢のもとへむかう。


「どうでしたか? うまくやっていけそうですか?」

「ああ。問題なさそうだ」

「それは良かったです! あの女の子、まだ等級は熊ですけど、腕は確かなので、きっとアレックスさんのお役に立ってくれますよ!」


 受付嬢は嬉しそうに言った。


 俺は新しい加入メンバーの情報欄に、ペンを走らせながら思う。


 レイスならば、間違いなくポルタ級の実力がある。


 対人戦での強さを考えれば、魔物相手でも十分に戦えるはずだ。

 

「これでいいか」

「はい! 大丈夫そうです!」


 受付嬢に書類を提出して、俺はクエストボード前に戻る。


「それで何を選んだんだ?」


「ポルタ討伐」

「ですね!」


 俺はレイスが渡してきたクエスト依頼に視線をおとした。


 ポルタ……それは、恐怖猿ポルタとも呼ばれるドラゴンに次ぐ最高位の魔物の種の名前だ。


 彼らはドラゴン同様に、めったに人前には姿をあらわさないため、討伐の依頼がクエストボードに乗ることはとても珍しい。

 

「アレックスさん、やりましたね、ついには初のポルタ討伐です!」

「腕が鳴るよね、私もポルタは初めてだから」


「そうだな。これは資金難である俺たちには素晴らしいクエストだ」


 俺はうなずき、クエスト用紙を手に受付へ向かった。


 もろもろの手続きを済ませて、クエスト受注を完了する。


「えっと、アレックスさんたち、もしかして、このまま行く気ですか?」

「ああ」

「ポルタ討伐は、本来なら数日かけて罠をしいて、追いかけて、体力をけずって、最後にとどめを刺す……そんな大型クエストなのですが……準備は大丈夫ですか?」


 受付嬢は心配そうに聞いてきた。


 彼女はわけあって、俺のスキルのことを知っている人物だが、それでもポルタの討伐と聞いて不安なのだろう。


 まわりで聞き耳を立ててる冒険者たちも、なんだか俺たち疑いの眼差しで見ている。


 俺は安心させるべく、彼女を顔を見つめて答えた。


「夜には帰ってくる」


 俺の言葉に、ざわめくギルド。


「けっ、アレックス・アルドレア……ドッジ様に追い出されたと思ったら、いきなり調子乗ってんじゃねーか!」


 俺の宣言が気に入らないのか、冒険者のひとりが声をあげた。


「なにか文句があるのか?」


 俺は聞き流さず、男のまえに立った。


 その冒険者は俺が言葉を間に受けるとおもっていなかったのか、動揺を隠さずに唇を震わせた。


「て、てめぇは、しょせんドッジ様に捨てられた負け犬冒険者だろーが! 治癒霊薬かけるしか、能のないくせに、粋がってんじゃねぇって言ってんだよ!」


 男は立ちあがり、木の机を拳でたたいた。


 その一撃で、机には小さなくぼみが出来る。


「粋がっているだけか。そうでないか、試してみるか?」


 俺は男に詰め寄り、顔を見下ろした。


「ひっ、ヒィ……ッ」


 俺が男の目を間近で睨みつけると、男は喉を引きつらせて、腰を抜かして倒れこむ。


「アレックスさん……かっくいい……!」


 ルミリアが熱っぽい視線を向けてくる。


「死神、いこう。夜には帰るんでしょ?」

「ああ」


 レイスへ返事をし、俺は男に背を向ける。


「ああ、そうだ。ひとつ聞いておかないと」


 思い出したことがあり、俺は荒ごとにならずホッと胸を撫で下ろしてる受付嬢へ振りむいた。


「ポルタは″捕獲してもいいのか?″」


 俺の問いかけに、冒険者ギルド内はふたたびさわめきたった。

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