第17話 白衣の死神


 廃墟裏の2人の遺体を埋めた場所をみにいく。


 まだ微生物による分解は行われていた。


「ふむ、理論値とおおむね一致してるな。1時間と20分……くらいか。悪くない」


 メモにデータを記録して、今後の遺体処理に関して考えながら廃墟をあとにした。



         ⌛︎⌛︎⌛︎ 



 黒づくめの男とマスターから聞いた情報を頼りに、夜の路地裏をぬけると、そこは川に面した港となっていた。

 

 息を殺し、足音を無くし、気配を消す。


 もはや襲撃のときには意識せずともできる襲撃者としての振る舞いで、港の8番倉庫に足を踏みいれる。


 すると、中に数十人もの怪しげな男たちがいるのをを見つけた。


 二つの勢力に分かれて、何かしているようだ。


 情報通りなら……これは例の取引現場だろう。


「金はしっかりあるな。……よし」


 いかめしい男が、箱を開けて中身を確認して言った。


 一方、彼と相対する、痩せ、メガネをかけた男は、近くの木箱から袋を取りだして、なかから乾いた葉っぱをひと掴みして取りだす。


「ほう、これが新しい調合ですか、どれどれ……う〜ん、パーフェクッ!」


 何やら気持ちよさそうに、両手の指でマルを作っている。


 どうにも、あれは″危ない葉っぱ″のようだ。


 もはや言葉にするまでもなく、どこからどう見ても違法薬物の取引現場だな。


 俺は迷いなく、集団のもとへ姿をさらした。


 すると、男たちはすぐに俺の姿に気がついた。


 皆、俺のいる物陰へ注視している。


「あ? なんだ、てめぇは?」

「こんな夜更けに迷い人……ってわけじゃ、なさそうですね」


 痩せた男は指を鳴らして「殺せ」とつげると、巨漢がひとり進みでて来た。


 巨漢はニヤりと微笑み、拳をコキコキならしながら寄ってくる。


 俺は彼ら全員にちゃんと姿が見えるよう、物陰から完全に姿をさらして見せた。


「ッ!」

「嘘だろ……」


 倉庫内の空気が一変する。


 二つの勢力の構成員のうち、武装した者たちがいっせいに武器を手にとり、痩せた男といかめしい男を守るようた陣形を組む。


 彼らは皆が、顔をゆがませ、動揺を隠さないでいた。


 誰かが震える声で言いだす。


「ボス、はやく、逃げてください……!」

「白いコート、悪魔のマスク、心臓を集める箱……まずい、ファントムシティの悪魔だ」

「ついにここも『白衣の死神』に嗅ぎつけられた……! まずい、逃げないと、逃げないと……ッ!」


 口々に叫びだす者たち。


 俺は首をかしげ、一歩と動かずにただ待つ。


 痩せた男は顔をしかめ「はやく殺せ……ッ! 全員でかかれッ!」と叫び、彼だけ倉庫の出口へむかって急いで逃げはじめた。


 誰もこちらへ、踏みこんではこない。


 犯罪組織の間じゃ、いささか有名になりすぎて、力量の差がバレているらしい。


「日が昇るのを待ってみるか? 俺は一向に構わないぞ」


 ひとこと告げて肩をすくめるが、それでも最初に動きだす勇気があるものはいなかった。


「ぁ、がああぁあ……ぁ、ア!」


 ふと、倉庫内、出口の方から苦しむ声が聞こえた。


 すぐに声は小さくなり聞こえなくなる。


 どうやら、効果が現れはじめたようだ。


「な、なんだ、お前たちどうしたってんだ!」


 いかめしい男が冷や汗を滝のようにかくまわりで、数十人いた犯罪組織の者たちが次々に膝を折って倒れていった。


「倉庫内、風がなく、攻撃性の細菌の散布するにはとても良い環境だ」


「ぁ、うがぁあ、な、んだ、これは……! 息が、でき、ァアア! いだ、ィ、痛ィッ?!」


 いかめしい男は倒れて、黄色いよだれを垂らしながら、体を丸めて痙攣けいれんしはじめる。


「悪党がたかる場所というのは、決まって細菌を扱いやすい環境なんだ。湿っていたり、暗かったり、狭かったり……。お前たちは細菌に殺されることが、運命づけられていると言ってもいいのかもしれない」

 

 ピクピク震える男を横目に、俺は白い粉と金を確認する。


 凄まじい大金だ。


「これは正義のために有効活用させてもらおう」


 一応、断りをいれたが、もう倉庫には俺へ答えられる者は残ってはいなかった。


 細菌たちを出来るだけ回収して、俺は倉庫から逃げた者がいないか確認する。


 よし、間違いなく全員殺した。


「では、本命に移るか」


 黒づくめの男から聞きだした入り口である、木箱をずらすと、床に地下空間へとつづく階段を発見した。


 アジトからの緊急脱出用の出口らしい。


 だが、今回は『白衣の死神』を迎え入れるための侵入経路として使わせてもらおうか。


 

         ⌛︎⌛︎⌛︎



 アジトのなか。


 俺はブリーフケースから汚れた瓶を取りだして、それを床に叩きつけて中身を解放した。


 『人喰いバクテリア・βベータ

 俺がつくりだした最悪の生物兵器。

 複数の細菌を配合・調合・改造して掛け合わせており、人を殺害することに特化。

 操作性が非常に悪く、またその致死性の高さから俺自身もペストマスクをしてないと、安心して使用できないのが欠点。

 ただ、それをおぎなう破壊力を持ち、感染したら最後、1分以内に75%の人間は全身の細胞を壊死えしさせられ、人生で味わうなかで最高の苦痛に悶えながら死亡し、3分以内なら98%の人間が同様に死亡する。

 10万人に1人の割合で抗体をもつ人間がいると理論上は考えられるが、今のところこれに感染して生き残った者を俺は知らない。

 注意事項として、人間を殺したらそのまま細胞を喰い散らかして増殖・拡散を繰り返すので、放って置いたら一晩で街すら破壊してしまう。

 そのため、使用後は漏れなく〔細菌碩学さいきんせきがく〕で、菌に自殺させることが必須である。


「逃げろォオ! ヤツが来たぞ!」

「殺される、殺される……ッ!」


 目に見えない恐怖から、無様にも騒がしく逃げ惑うクズども。

 

「ハハ……ハハ……っ、無駄に決まってるだろ……正義の執行からは逃れられない……」


 俺はそれがおかしく仕方がなかった。


「笑ってる……死神だ、あいつは、死神なんだ……!」


 呑気に廊下を歩き、殺人細菌撒きちらす。


「ん?」

「ひ……っ!」


 ふと、物陰で頭をかかえる男を発見した。


「た、たた、頼む、お願いだ、見逃してくれ……! 俺には家族がいるんだ……っ、仕方なく、そう、仕方がなくーー」


 ペラペラと喋る口にメスをいれて、適当に横に引っ張って頬を切り開く。


「アガァァァァァ?!」


 蹴りで頭を弾き、頭蓋を割って黙らせた。


「悪党は嘘が大好きだよな……ハハ」


 それを見ていた他の男たちは、腰を抜かすが、すぐに『人喰いバクテリア・βベータ』が発症し、皮膚を斑点状に赤黒く壊死させながら死んでしまった。


 今日はたくさん殺した。

 まだまだ、聞き出したアジトは残ってる。


 もっと綺麗にできる。

 世界の悪性細胞をひとつ残らず切除して、俺の『正義の施術』完遂にまた一歩近づく。


 俺はアジト内のクズがひとり残らず死んだのを、細菌による生体サーチで確認して、次のアジトへと向かった。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 この晩、俺は合計して4つのアジトを殺人バクテリアの海に沈めた。


 外がうっすら明るくなったきた頃。


 俺は『百面』の犯罪組織が所有するアジトのうち、俺が把握してるものの最後にたどり着いていた。


 廃墟街となった一角。

 かつては芸術街などと呼ばれて、ファントムシティの繁栄に一役かっていたらしいが、それももうずっと昔の話である。


 寂れた街を歩いていくと、大きな建物を発見した。

 

 と、同時に声が聞こえてきた。


「もう来た、早いよ……『白衣の死神』」


 アジトの隠れ蓑になっている、廃墟となった音楽ホールの前の広場。

 

 中央の銅像の裏から姿をあらわす人影。


 黒髪の少女は眼帯をつけながら、不満そうにそう言った。


「お前は誰だ」


 俺はたずねる。


「知る必要ないよ。その首置いてけ、死神」


 彼女は答えず。

 稀有な強者の気配を持つ少女は、静かに微笑み、″銀に輝く剣″をそっと抜きはなった。


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