第11話 雨毒の治療


 マスター率いる新たに来た数人のボディガードに前後を固められ、通されたのは個室だ。


「くれぐれも変なことは、するなよ」

「したら? どうするつもりだ」

「……二度と、このあたりを歩けなくしてやる」


 手をおさえるマスターは、歪な笑顔を作って言った。


「それは脅しか? 懲りないんだな」

「ぐっ! ぅぅ、」


 マスターの首を締めあげる。


 人は組織に属していると、その庇護下にいることで自身を権力者だと勘違いする。


 おおきな組織にいるだけで、人間の態度が横暴になるのはこれが理由だ。役人とかな。


 この男は、自分が大きな力に守られているという認識があるように見える。


 こいつとはな。


「けほっ、げほ!」


 マスターを離して、個室のなかに入る。


 部屋のなかは、奥に扉が一つだけついており、そちらで従業員などが待機する店の裏手と繋がっているようだった。


 なかには、パトリシアともうひとり少女がいた。


「あ、こんなカッコいいんだ……」

「そうでしょ? それに店の男たち全部ぶっ倒すくらい強いんだよ」


 少女はポケッとしたようすで、俺の顔を見つめていた。


 パトリシアはマスター達がいる時とは、えらく変わったようすで楽しそうに少女に話しかけている。


 年相応といった印象を受けた。


「さっき凄い物音がして、みんな表に出て行くものだから、びっくりしちゃいました」

「すみません。意見の相違を正すのに、手荒なマネを使いました」


 カバンをおいて、少女の隣に腰掛ける。


「それで、君はどこが悪いんですか?

「実は、ぶつぶつしたのが、体に出てきてて……」


 少女とパトリシアは顔を見合わせる。


 どういう事なのか、首をかしげると、どうやら″股の間″の問題らしかった。


「えっと、お医者様、診ますか……?」

「……抵抗があるならそのままでいいですよ。陰部の発疹ほっしん。環境を考えればだいたい予想はつきますから。すこしだけ手をかしてもらっても?」


 少女の手をとり〔細菌碩学さいきんせきがく〕を発動させる。


 なんだが、少女がそわそわし始めたが気にせず分析する。


 ああ、やはりそうか。

 事態は予想通りであった。


「『雨毒うどく』ですね。『ハイドロ・リベントニス』という名前の細菌が体内に侵入して引き起こされる性の病気です」


 細菌『ハイドロ・リベントニス』を感知したら、十中八九、性感染症『雨毒』で間違いない。


 今は陰部での発疹にとどまってるが、そのうち範囲はひろがり、最後には免疫能力を喪失させて、人を死に至らせる病だ。


「う、うどく、ですか? それって、治るんですか?」

「もちろん。この場で治せますよ」


 俺は少女の手をすこし強めに握り、彼女から『ハイドロ・リベントニス』を取り除く。

 続いて『雨毒』の症状を緩和かんわさせた。


「どうですか? かゆみがひいたと思いますが」

「っ、か、かゆくなんて無かったですよっ! 全然、掻いてなんかないですからね?!」

「?」


 頬を赤らめ、少女は上目遣いで抗議してくる。


 とても必死な様子だった。

 16歳の少女にとっては、ややデリケートすぎる話題だったのか。


「すみません」


 一言答え、少女自身に、症状を確認してもらうため、後ろをむく。


 パトリシアに目隠されるなか、「うわ! 治ってる!」と元気な声が背後から聞こえてきた。


 治療に成功したらしい。


「商売にならなくて、困ってたんです! ああ、本当にありがとうございます。お医者様、なんてお礼したらいいか……」

「銅貨2枚、いや、結構歩いたので3枚くらい貰えれば十分です」

「銅貨3枚なんて……そんなはした金額でよろしいんですか?」

「構いませんよ」


 報酬を受け取り、立ちあがる。


「最後にひとつ。この病気は不特定多数の人間と性行為をすると感染する確率が飛躍的にあがります。可能ならば、働く場所を考え直したほうがいいです。……いつまでも、この街はいないので」


「……忠告ありがとうございます。でも、たくさん、お金が必要なので……」


 少女は目元を伏せて、小さい声で言った。

 

 困窮……。


「……そうですか」


 俺は一言言い残し、部屋を出ようとする。


 他人には、他人の人生がある。

 ムチや剣で脅されてるわけではない。

 ここにいる少女たちは、少なくとも彼女らの意思でここにいるのだ。


 その理由を無闇にせんさくし、勝手に助けるのは、俺の領分ではない。


 求める者に、求められる救済を配分できたらいいが……世界はそんな簡単じゃない。


 でもーー。

 

「…………ああ、そういえば、まだ『雨毒』が発症してない可能性の人間がたくさんいますね。ちょうどいい機会です。銅貨2枚で診察します。よかったら、お友達を集めてきてくれますか?」


「あ、それもそうですね!」

「わかりました、お医者様!」


 少女とパトリシアは、嬉々として裏手へ引っ込んでいった。


 世界のすべてを助けることは出来ない。

 ただ、今この手が届くのなら、助けよう。


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