第10話 緊急治療


 広いホールに立ち並ぶ巨漢たち。


 いずれも濃厚な暴力の香りがする。


 俺を倒す気なのならば、こちらもやるしかない。


 俺は右手を白衣のポケットに突っ込んだまま、左手は露天病院を畳んで入れてある大きめカバンをもち、なかなか踏み込んでこない男たちを観察する。

 

 怖気付いているのか。

 先ほどの身のこなしから勝てないと察したことで、俺に近づけなくなっている。


 ただ、それではらちが開かない


「どうした。一晩中立ってるつもりか? 時間を無駄にするなよ」


「っ、舐めやがって、おらぁあ!」


 一言煽ると、すぐに男たちはかかってきた。

 わかりやすい奴らだ。


 では、さっそく緊急治療を開始しよう。


 まずはひとり目。

 右の大振りを上体をそらして避ける。

 ガラ空きのボディに膝蹴りを打ち込み、手に持つカバンでひるんだ男の側頭部をぶっ叩く。

 これで鼓膜が破壊された。

 戦闘継続能力は失われただろう。

 治癒霊薬なしの治療として全治3週間。


「さあ。次は誰だ?」


 俺は小首をかしげて、男たちを煽る。


「ぶっ殺してやるっ!」

「次はお前だな。さあ、試してみるといい」


 ふたり目。

 ボディを狙った、下方からのアッパー。

 俺は一歩後退して避けて、股間に素早くかるい蹴りを打ちこむ。ただ急所ゆえこれだけでも十分だ。男は真っ青な顔で、膀胱ぼうこうをおさえて倒れ伏した。

 2、3日、自慰行為すらできないだろう。


「てめぇ!」

「次は刃物か」


 さんにん目。

 短剣を取りだし向かってくる。

 突きをよけ、膝蹴りで刃をもつ手首を骨折させ、武装解除。これで全治2ヶ月。

 続いて、トーキックでスネを割り、回し蹴りで胸骨を正面からたたき、あばらを数本を骨折させる。

 自然治癒頼りなら、全治6ヶ月といったところか。

 刃物を使うってことは、これくらいされてもなんの文句も言えないよな?


「ひぃい!? な、なんなんだ、てめぇは?!」

「医者だ」


 怯えるマスターに端的に答えながら、さらに向かってくる3人のボディガードをそれぞれ打撃で沈めて、合計6人を床のうえにころがした。


 これで全員だな。


 俺はおびえるマスターに近寄り、彼の手をふみつけ、顔を近づけた。


「お前らのやってることはレイプと何も変わらないだろうに。暴力と恐怖で女に言うことを聞かせるか、金と契約で女に言うことを聞かせるか。心を売買する手段が違うだけだ。何もしてないウジ虫が偉そうな口を叩くな」


 ーーバギバギィッ


 腰を抜かすマスターの手を靴底で踏み砕き、叫ぼうとする喉をポケットから右手をだして締めあげる。


「ぐ、ぃ、わ゛か……だ、ずま、ない……っ!」


 顔色が悪くなったあたりで、手を離してやる。


 咳き込み、苦痛に顔をゆがめるマスターは壁を背によろよろと立ちあがった。


「俺は病気を治しに来た。患者のもとへ案内しろ」


 滝のように汗をかくマスターは、首をカクカク縦に振って、俺を奥へ案内しだした。


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