一人称視点

 小説を書き始めるときに、最初に書きたいと思う形式が「一人称視点」という人は多いのではないかと思います。ライトノベルでは一人称で話が進むことも多く、書き始めると自然と一人称視点の書き方になっている、という人もいると思います。

 今回は、一人称視点とはどういうものなのか、メリットやデメリットにはどういうものがあるのか、どういう話に向いているのか、について自分なりの考えをまとめたいと思います。


【そもそも一人称視点とは?】

「一人称視点」は、語り手が周囲の状況はもちろん、自分の考え、心情などを話すという形式で、地の文がまるで会話文のように進んでいきます。地の文での語り方が「俺は……をした」「私は……だと思った」という、一人称を用いて話を進めるので「一人称視点」となります。


【一人称視点のメリット】

 一人称視点のメリットとしては、

・語り手(主に主人公)の心情・考えをダイレクトに書くことができる

・それにより、語り手に対する共感性が高くなる

・情報を制限することにより、読者の想像力を働かせたり、解けない謎を作りだしたりできる

 といったところです。

 また、自分の考えを語り手の考えに反映させやすく、書きやすいという点も挙げられるのではないかと思います。

 語り手といっしょに話を追いかけていくため、語り手への共感性が非常に高くなります。

 情報が制限されるという不自由さはあるものの、逆にそれを利用して事件を追って行く、といったストーリーの広がりを作ることもできます。

 なお、語り手は主人公になることがほとんどだと思いますが、別に主人公を追いかけるヒロインとか、物語とはあまり関連性がない第三者とかが語る、という形でも問題ありません。


【一人称視点のデメリット】

 一方で、デメリットも存在します。

・語り手の見たことしか書けない(見ていないことは「伝聞」という形で書く必要がある)

・語り手の知っている情報しか書けない

・客観的な意見を反映しづらい

「語り手が見ている情報、知っている情報を話す」というスタイルの性質上、語り手が見ていないものや知りえない情報を書くのは非常に不自然です。また、語り手の考えに基づいて話を進めなければならないため、基本的に主観的に話を進めるといった注意深さが必要になります。


【一人称視点が有効なジャンル】

 語り手が主観的に話し、語り手に共感性を求める話であればどんなジャンルでもよいのですが、とりわけ主人公の気持ちに共感してもらいたい恋愛ものや、自ら探偵になった気分になれる推理もの、恐怖体験を共有できるホラーなどは相性がいいのではないかと思います。

 ライトノベル、とくに異世界転生・転移ものも一人称で語られることが多いですが、これも「転生・転移した主人公の不安や葛藤、考え方を共有できる」という点では相性が良いと思います。

 逆に多方面の視点、多角的に物語をとらえる必要がある話は不向きになるのではないかと思います。

 とにかく「語り手に共感しやすい」という最大の武器をどう生かすかを考えながら書く、というのが重要になってくるのではないでしょうか。


【一人称視点を使う上での注意点】

 一人称視点で話を書く上で、読者視点からすると以下のことについては注意した方がよいと思います。


・語り手の知識をきちんと把握し、語り手の知識のレベルに合わせて書くこと

 一人称で書くと決めたなら、まず語り手のプロフィールについてはしっかり決めた方が良いでしょう。特に性別や年齢、知識量や性格はしっかり決めないと、同じ話の中で書き手の像がぶれてしまいます。

 例えば一般的な中学生の設定なのに難しい言葉を多用していると、キャラがぶれてしまいます(結構普通の中高生なのに「一瞥した」とか書きがちです)。


・地の文と語り手の会話文の人称は合わせるようにする

 例えば普段「○○さん」と呼んでいるようなタイプの語り手であれば、地の文も会話文も「○○さん」で統一した方が、キャラがブレなくてよいでしょう。

 ただし本音と建て前をしっかり使い分けている場合は別です。


・視点変更はできるだけ使わないようにする

 一人称視点で視点切り替えをする人は結構います。それが必ずしもダメというわけではないのですが、最大の利点である「共感性」が薄れてしまいます。また、語り手

以外の情報が入ってしまうため、語り手の知識・情報量がどうなっているのか分からなくなってしまいます。結果として書く方としては語り手の知らない情報を書いてしまったり、読む方としてはこの語り手がどこまで情報を知っているのか分からなくなってしまったりします。

 視点切り替えを多用する人は、とにかく自分の考えた設定を全部出し切りたいと考えているのではないかと思います。その場合、特に深く考えず、「やりたいからやっている」ということが多いでしょう。

 特に初めて一人称小説を書く人は、「絶対に視点切り替えをしない」というつもりで書いた方がいいでしょう。視点切り替えをしたければ、三人称一人視点にした方が良いです。

 ただ、前述の通り「絶対視点切り替えをしてはダメ」というわけではなく、場合によっては視点切り替えをせざるを得ない・した方がよい・した方が有効という場合もあります。


【一人称視点は制限が多い?】

 一人称視点は共感性が高まりやすく、書きやすいと思われがちなのですが、しっかり書こうとすると意外と制限が多く、三人称よりも少し難易度が高いのではないかと思います。

 ただ、語り手と共に話を進められるという魅力はあるので、初めてでも是非とも挑戦してもらいたいと思います。

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