一人称視点の視点変更について

 共感が得られやすい、語り手(主人公)視点で書くので書きやすいことから、地の文を一人称視点で書く人は多いと思います。

 ただ、いろんなネット小説を読んでいると、特に書きなれていないと思われる人は一人称で視点変更を多用することが多いように思えます。

 小説を読んで読みやすいか、あるいは面白いか、といったことは読者が判断することですが、私は一人称の視点変更は読者視点から推奨しません。

 理由は以下のデメリットがあるからです。


【一人称視点の視点切り替えのデメリット】

・共感性が得にくくなる

 一人称視点の一番のメリットと言ってもよい語り手の共感が、視点を変えることによって大きく減ってしまいます。今までの語り手から別の語り手になるため、そこで今までの語り手の共感度が一気に下がるわけです。


・情報が混在してしまう

 基本的に一人称視点では、語り手と情報を共有して話を進めていくことがメインとなります。

 ところが、視点変更をしてしまうと、視点変更した語り手の情報が入ってしまうため、「語り手との情報の共有」という点で支障を来してしまうことがあります。その情報を持っているか持っていないかで、読み手はその物語の状況のとらえ方が変わってきてしまいます。


・誰が主人公か、誰が話しているのか分かりにくくなる

 主人公以外へ視点変更した話が長引くと、「誰が主人公だっけ?」という状況に陥りやすくなります。結果的に、主人公の影が薄くなりがちになります。

 また、頻繁な視点切り替えをしていると、今誰の話で今の語り手がどういう状況になっているのか分かりにくくなります。これを解消するためには、かなりの工夫が必要となります。


・いらない感情情報まで入ってしまう

 前述の「情報が混在してしまう」と同様ですが、一人称視点では主に語り手の主観で物語を進めるため、語っている登場人物の考えが反映されてしまいます。その結果、語り手の気持ちまで分かってしまうことになります。

 エスパーとか、心が読めるとか、そういった能力でもない限り、基本体に人の心は読めません。そういった他の登場人物の感情情報まで入ってしまうと、メインの語り手である主人公に感情移入しにくくなります。


【視点切り替えをしたいなら三人称一人視点という手も】

 物語の都合上、どうしても視点切り替えが必要な場合は、三人称一人視点を利用した方がよいでしょう。三人称一人視点は、三人称でありながら今追っている登場人物の心情も描けるため、一人称視点に近い働きをします。また、三人称であれば、視点変更をしてもあまり違和感は残らないでしょう。


【視点切り替えをせざるを得ない・した方がいい・した方が有効な場合】

 上記のデメリットより、一人称視点での視点変更は、特に書き始めたばかりの時はやらない方がいいでしょう。

 ただ、場合によっては視点変更をせざるを得ない場合もありますし、視点変更をした方が物語がわかりやすい、映える場合もあります。

 私が考える以下の場合は、視点変更をしても問題ないと思います。


・語り手が死亡するなど、物語から退場する場合

・語り手が他の登場人物の昔話を聞くという形で、その登場人物に視点が移る場合

・他の登場人物の視点からの方が、もともと語り手だった登場人物の行動が映える場合

・メインの語り手と視点を移した登場人物が同一人物で、考え方を共有した方がいい場合

・主人公が二人(もしくはそれ以上)で、それぞれの視点から物語を楽しんだ方がよい場合

・他の登場人物の感情情報が、メインの語り手の主観を妨げない場合


【視点変更する場合は「誰が話しているのか」を明確に】

 一人称視点の視点変更は極力避けるべき、と私は考えていますが、どうしても使いたい場合は「誰が話しているのか」を明確にすることを心がけましょう。

 特に地の文は、語り手が変われば話し方も変わるはずなので、明確な変化を付けると良いでしょう。ただ一人称が「私」から「俺」に変わっただけでは、気が付きにくいと思います。

 タイトルに「○○視点」などとつけて区別する人もいますが、ネット小説でタイトルを読んでいる人がどのくらいいるかは疑問です。タイトルで視点変更があったことを知らせた場合でも、必ず区別がつくようにしておきましょう。


 一人称視点の視点変更については、恐らくいろんな意見があると思います。私は書き始めの時は視点切り替えをしないように、する場合はわかりやすく、を心掛けた方がよいと考えています。

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