新12話 助け合い

 ピピィは、町でリネという少女と出会っていた。どうやら、リネは猫のテールを探しているようだ。

 困っているリネを、ピピィは助けることにしたのだった。


「それで、テールの特徴とか聞いてもいいかな?」

「えっと、白い猫で、所々に黒い模様が入っているの」


 ピピィはリネから、テールの特徴を教えてもらう。

 探すためには、どんな特徴があるかが大切だ。特に、ピピィは猫のことを知らないので、よく聞いておかなければならない。


「何か、確定できる特徴ってないかな?」

「あ、目と目の間に丸くて黒い模様があるの」

「よし、わかった。それじゃあ、探しに行ってくるね」


 そう言って、ピピィは外に出る。目と目の間に黒い模様。とりあえず、それを手がかりとするのだ。


「お姉ちゃん!」

「ピピィさん!」


 ピピィの後ろから、リネとリネの母も続いて外に出てきた。

 それに対して、ピピィは大きく翼を広げる。


「少し、離れていて……」

「あ、はい。リネ、じっとして」

「あ、うん……」


 あまり近づかれると、ピピィとしてもやりにくい。そのため、離れてもらう必要があるのだ。

 ピピィは大地を大きく蹴る。すると、その体が空へ飛び立つ。


「わあ! すごい!」

「本当に飛べるのね……」


 リネと母親は、ピピィが羽ばたく様に驚いているようだ。

 人間に羽はないため、それも当然だろう。


「よし……」


 ピピィは、町全体を見渡す。

 町の人々から視線を向けられているが、今はそれを気にしない。

 ハーピィにとって、空を飛ぶことは当たり前のことだ。そのため、何もおかしくない。今はそう思うことにする。


「全速力でもいいんだから……」


 ここには、ピピィとともに飛べるものはいない。つまり、全力で飛んでも問題ないということだ。最近はあまり飛び回れていないため、丁度いいだろう。


「さてと、どこにいるのかな、猫、猫、猫」


 ハーピィの視力は、人間よりもはるかに高い。空から、獲物を探すのは得意分野だ。

 よって、町の全域が見えていく。その中には、猫も何頭かいる。


「もっと、近寄ろうかな」


 ピピィは空を移動しながら、地面を見ていく。

 速度を上げても、ピピィの目は全てを捉えられる。


「この子じゃない……この子でもない」


 猫を見つける度に姿を確認するが、どれも特徴が異なっていた。


「あの子でもないか……うん?」


 町の中を探しても、見つからない。ならば、リネの予測通り、町の外にいるのだろうか。

 そう思ったピピィだったが、目の端で白い何かが動くのが見える。白い猫、それは特徴の一つだ。


「あれは……?」


 すぐに、ピピィはその方向へ体を向ける。

 白い猫で、体には黒い模様が見える。これだけでは確信できないが、可能性は高そうだ。

 ピピィは高度を下げながら、一気に近づいていく。


「ニャー!」


 猫はピピィが近づいてくるのに驚いたのか、逃げ出してしまった。


「うんうん、間違いないね……」


 その一瞬で、ピピィには充分だ。目と目の間の黒い丸模様が確認できたのである。

 逃げていく猫をピピィは追う。

 猫の足もかなり速いが、空飛ぶハーピィの速度はそれの比ではない。


「ピピィからは、逃げられないよ」


 ピピィはその足で猫を掴もうとしたが、そこで気がついた。

 その捕まえ方は、獲物を狩る時の方法だ。だが、それでは猫を傷つける可能性がある。


 先程までは、獲物を狩りの要領で、行動してしまっていた。

 だが、ここからは他の方法に頼らなければならないのだ。


「ど……どうしよう」


 ピピィは、悩んでしまった。このまま追いかけても、捕まえられなければ意味がない。


「あれ……?」


 そこでピピィは、初めて気がついた。猫の逃げている先に、人だかりができていることに。


「ニャー!」

「えっ?」


 まっすぐ進んでいた猫は、方向転換した。しかし、その先にも人だかりがある。

 猫は、地面を蹴り、第三の方向へ向かう。だが、そこも封じられている。


「何が起こっているの?」


 ピピィは疑問に思っていたが、とりあえず着地する。

 猫の逃げ場は、どこにもない。そのため、ピピィはゆっくりと近づいていく。


「ニャー」


 ピピィが歩いて近づくと、猫は声をあげる。だが、その場を動かない。


「大丈夫だよ」

「ニャー」


 ピピィは、翼を広げて猫を包み込む。猫は、抵抗なくピピィに持ち上げられた。恐らく、脱走や今の逃走などで疲れてしまっているのだろう。


 猫を捕まえた後、ピピィは周りを見渡す。

 人間達がピピィを見ていた。ピピィは、そのことに困惑する。


「あの」


 そんな中、一人の人間が喋りかけてきた。

 ピピィは、少し驚いてしまう。人間が魔族に話しかけてくるのは、とても珍しいことだからだ。


「あなたが、その猫を追いかけるのを見て、何かあるのかなって思って」

「それで、手伝おうって」

「そうそう、皆で相談してさ」


 さらに、周囲の人間が次々と声をあげ、ピピィに話しかけてきた。

 始めは困惑していたピピィだったが、なんとなく状況がわかってくる。


「ま、魔族の人達が、町の人のために働いているって聞いていたから……」

「そうだよ。それで、俺達もな」

「ああ、そうだよ」


 ピピィは、嬉しかった。

 魔族の自分に、人間達が協力してくれたことがとても嬉しいのだ。


「ありがとう、皆!」


 ピピィが笑顔でそう言うと、周りの人々も笑顔で応えてくれた。




◇◇◇




 町の人と別れてから、ピピィはすぐにリネの元へ向かった。

 その間、猫はすっかりと大人しくなっていた。ピピィの羽の中が、思ったより快適だったのだろうか。


「リネ! おまたせ!」

「お姉ちゃん! あ!」

「ニャー!」


 リネを確認すると、猫はピピィの元からすり抜けていく。

 そして、リネに飛びついた。


「ニャー」

「もう、テール! 脱走しちゃだめでしょ!」

「ニャー?」


 猫は、リネにかなり甘えていた。

 やはり、この子がテールだったようだ。


 それにしても、テールはかなり甘えている。その様子は、とても家に帰らないような子には思えない。

 そのことから、ピピィはあることを予測する。


「多分、迷子になってたんだろうね……」

「テール! 迷子になるくらいなら、勝手に出て行かないでよ!」

「キュー……」


 リネが怒っているので、猫は落ち込んでしまった。

 ただ、リネも、かなり心配していたのだ。これくらいは仕方ないだろう。


「まあ、まあ、無事に見つかってよかったよ」

「ピピィさん、今回は本当にありがとうございました」


 リネの母は、ピピィに向かって大きく頭を下げた。

 それに対して、ピピィは首を横に振る。なぜなら、その感謝は、自分だけが受け取っていいものではないと思ったからだ。


「ピピィだけの力じゃ、テールを捕まえられなかったよ。町の人が、協力してくれたんだ」

「えっ? そうだったんですか」

「うん、だから、ピピィ一人の手柄じゃないよ」

「……それでも、ピピィさんへの感謝の気持ちは変わりません。本当にありがとうございます」

「お姉ちゃん、ありがとう」


 二人のお礼は、ピピィにとって嬉しいものだった。

 それに、ピピィの自信にも繋がった。自分でも人間を助けることができる。それがわかったのは、ピピィにとって喜ばしいことなのだ。


「ううん、ピピィは、当たり前のことをしたままだよ。困ってる人を助けるのは、当然だもん」


 ピピィは、素直にそう思えた。人間でも、魔族でも困っていたら助ける。それが、どちらの種族でも変わらないのだと、今日の出来事で理解できたのだ。


「それじゃあ、ピピィは、そろそろ帰ろうと思うから、元気でね」

「ピピィさん、このご恩は必ず……」

「そんなのいいよ。ピピィはピピィのしたいことを、しただけだもん。あ、でも、もしよかったら、魔族への目線を変えてくれると嬉しいな」

「……はい、わかりました」

「お姉ちゃん」


 ピピィは、それだけ言って去ろうとした。

 しかし、それをリネが引き止めてくる。


「どうしたの?」

「また、遊びに来てね……」

「あ……」


 その言葉に、ピピィはにっこりと笑う。

 答えは、簡単だ。


「うんうん、絶対、遊びに来るよ」

「うん、絶対だよ」

「ニャー!」


 そう言って、ピピィは二人と一匹と別れるのだった。




◇◇◇




 ピピィが宿舎に戻ると、マリッサが迎えてくれた。

 マリッサは、何やら慌てた様子だ。


「ピピィ! 驚いたよ、本当に! 買い物に出かけていたら、あんたが、空を飛んでいたかじゃないかい!」

「あ、見ていたの?」

「ああ、それで話を聞いてみたら、町の人とあんたが、協力して猫を捕まえたって聞いてね……私は、理解が追い付かなかったよ!」

「あはは、ピピィ、かなり目立っちゃったかな……」


 どうやら、マリッサはピピィを見ていたらしい。

 あれだけ派手に飛んだので、それも当然だろう。


「それで、今、町長達に連絡しに行こうと思っていたんだけど……」

「そ、その必要はないよ。ピピィ、なんともなかったから……」

「そ、そうなのかい……」


 ピピィの言葉に、マリッサは困惑していた。

 だが、とりあえず、意図は理解してくれたようだ。

 ピピィとしては、これ以上話を大きくしたくない。何より、今日のことは問題という訳でもないのだ。


「それじゃあ、ピピィは行くね?」

「あ、ああ……」


 マリッサに羽を振り、ピピィは食堂に向かう。


 とりあえず、喉が渇いていたので、

 水でも、飲みたいのだ。


「あっ……」


 食堂について、ピピィは声をあげた。

 ミシェーラを発見したからである。


「ミシェーラ、もう大丈夫なの?」

「ピピィ、おかえり。うん、かなり良くなったよ」

「そうなんだ。それなら、よかったね!」


 どうやら、ミシェーラは回復したらしい。

 それならよかったと、ピピィは明るくなる。


「あ! あのね、ミシェーラに聞いて欲しいことがあるんだ」

「うん? 何かな?」


 ピピィは、今日の出来事をミシェーラに打ち明けた。

 ミシェーラには、話さなければならないと思った。なぜなら、彼女の働きが人々の行動を引き起こしたからだ。


 話をしている内に、ミシェーラは笑顔になっていた。

 やはり、嬉しいのだろう。


「それは、よかったね。人間達が、私達魔族を認めてくれて証拠だよ」

「うんうん、ピピィもとっても嬉しかったよ」

「ふふ、ピピィ、元気になったね」


 その言葉に、ピピィは目を丸くした。

 なんのことだが、わからないからだ。


「ピピィ、元気がなかったかな?」

「うん、魔物討伐の後、 なんとなく落ち込んでいたような気がして……」

「あ、そうだったね。なんだか、忘れちゃってた!」

「ふふ、今日の出来事で、ピピィの心の迷いが晴れたってことだね」


 ピピィとミシェーラは、お互い笑い合った。

 今日の出来事は、ピピィだけでなく魔族全体にとって、いい影響を与えることは間違いないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る