新6話 魔族の助力
ミシェーラとルーゼは、再び森の泉で落ち合った。
今回は、ピピィとゴゴも一緒だ。
「ルーゼ、どうだった?」
「ああ、ミシェーラ、町長には認めてもらえたよ。そっちはどうだい?」
「うん、反応は微妙だったけど、皆、きっかけさえあれば、やってくれそうな雰囲気は感じられたよ」
「微妙か……なら、どうしようかな……」
ミシェーラの言葉に、ルーゼが何か悩み始めてしまった。ミシェーラは、自分の言い方が、まずかったと理解する。
微妙というのを、ルーゼはネガティブに捉えてしまったようなのだ。
「大丈夫、ピピィ達は協力するよ」
「ゴゴー!」
その時、ピピィとゴゴがフォローしてくれた。
それは、ミシェーラにとって、とてもありがたいものである。
「そうそう、だから、私含む三人にできることをまずしたいと思うんだ。そうしたら、他の皆も続いてくれると思う。つまり、心配はいらないってこと!」
「そういうことか……なら、大丈夫か」
ミシェーラの言葉に、ルーゼは納得したようだ。
そこで、ルーゼは懐から一枚の紙を取り出した。
何やら、色々と記されている。
「ルーゼ、それは?」
「うん、町長から早速、依頼をもらったんだ。どうやら、瓦礫の処理らしいんだけど、力と体力に自信がある人を探しているみたいなんだ」
「瓦礫の処理……力なら、ゴゴが最適だと思う」
「うんうん、ゴゴは力持ちだもん」
「ゴゴ!」
ゴゴは、ゴーレムだ。
ゴーレムは岩石でできており、体が丈夫で力強い。
そのため、瓦礫の処理には適任であるといえる。
「それじゃあ、善は急げだ。依頼主は、今日も作業しているらしいから、今から行って手伝おう。ゴゴは大丈夫かな?」
「ゴゴ!」
「よし、それじゃあ、行こうよ!」
「あっ、二人とも、ルーゼに聞かなきゃどこに行けばいいかわからないよ!」
ピピィとゴゴが張り切って、声をあげ駆けだしてしまった。
追いかけようとしたミシェーラだったが、ルーゼがそれを呼び止めてくる。
「ミシェーラ、ちょっといいかな?」
「えっ? 何? ルーゼ」
「君やピピィって、ゴゴの言っていることが、理解できるのかな?」
「あ、うん。言葉としてわかる訳じゃないよ。ただ、一緒に過ごしていると、なんとなくわかるようになったんだ」
「なんとなくわかる? それはどういうこと?」
「ルーゼもきっと、すぐにわかると思うよ。それより、二人を追いかけなきゃ」
そう言って、ミシェーラは駆け出す。ルーゼは少し固まっていたようだったが、すぐに追いかけてきた。
◇◇◇
ルーゼは、ミシェーラ達三人を連れて、依頼主の元に来ていた。眼前には、瓦礫の山があり、そこに一人の中年男性が立っている。
「おお、ルーゼか。町長から話は、聞いてはいたが、早速来たのか」
「はい、急ですみません、カーターさん」
「いや、俺としちゃ、早い方がありがたいけどよ。こいつらが魔族か……」
カーターは三人を見て、少々怯えているようだった。
魔族を見て、こういう反応は珍しいものではない。しかし、ミシェーラ達もここで引くはずはないだろう。
「あの、よろしくお願いします」
「ゴゴは、すごい力持ちなんだよ!」
「ゴゴー!」
ルーゼの予想通り、三人は引かなかった。
その力強さこそが人間の認識が変わると、ルーゼは信じている。
「ふう……」
三人の言葉で少し冷静になったのか、カーターは深呼吸した。
さらに、頭を掻きながら、ゆっくりと口を開く。
「……まあ、いいや。そのゴゴってのが、手伝ってくれるのか?」
「ゴゴ!」
「何言ってるかわからんが、その気持ちは理解できたぜ。よろしく頼む」
カーターは、意外にもすぐにゴゴを理解したようだった。
これなら、問題もないはずだろう。
ルーゼは、とりあえず安心する。
「よおし、それで作業なんだが、先の戦いで壊れた家の瓦礫が、片付けられないまま放置されててよ。それで、町長に頼んで人員を募集してるのさ。まあ、今日は細かいのから撤去しようと思ったんだが……」
「カーターさん、細かいものの撤去なら、僕も手伝いますよ」
「それじゃあ、私達も」
「うんうん、手伝おうよ」
ルーゼ、ミシェーラ、ピピィも手伝いを申し出たが、カーターは少し渋い顔をした。
三人が疑問に思っていたが、カーターがすぐに語り始める。
「いや、ルーゼはともかく、嬢ちゃん達はな。細かいといっても、結構重いからな。特に、鳥の嬢ちゃんなんて、その羽じゃ持つのも難しくないか?」
「ピピィなら大丈夫だよ」
そう言って、ピピィは少し浮いてみせた。
そして、足の指を広げる。
「足で掴んで、運ぶから」
「私も大丈夫です。魔法で運びますし、そもそも、人間よりは力が強いですよ」
「へ……へー、そうなのか」
カーターは、少し驚いているようだ。
ただ、魔族の力に期待しているようにも見える。
ルーゼは、とりあえず大丈夫だと判断するのだった。
「じゃあ、早速だが、よろしく頼むぜ。瓦礫は、この先の瓦礫置き場に持って行くんだ。荷車も用意してあるぜ。岩の兄ちゃんは、でかいやつを頼むぜ」
「ゴゴー!」
ゴゴは、手始めに目についた大きな瓦礫を持ち上げる。普通の人間には、到底持ち上げられない瓦礫を軽々と持ち上げる様に、ルーゼとカーターは驚いてしまう。
「おお、お見事だな……」
「ええ、あんな大きな瓦礫を軽々と……」
「言ったでしょ、ゴゴはすごいんだから」
「よし、私達もいくよ。ピピィ」
こうして、作業が始まるのだった。
◇◇◇
五人は、作業を進めていた。
その中でも、ゴゴの活躍はすごかった。次々と瓦礫を持ち上げて、運んで行ったのだ。
「やっぱり、ゴーレムの力って、すごいんだね」
「うん、私もそんなに見たことないから、やっぱり驚くな」
これには、ルーゼとミシェーラも驚いていた。
それ程に、ゴゴの力は迫力があるものなのだ。
「岩の兄ちゃんって、ゴーレムってのでいいのか?」
「そうだよ。ゴーレムだよ」
「ゴゴ―!」
「へえ! いいねえ、俺もそれくらいの力が欲しいぜ」
カーターは、早くも魔族達を認めているように見えた。カーターは、元々細かいことを気にする人間ではない。そのため、その面でも最初の依頼に適していたと、ルーゼは思うのだった。
そんな風に作業を続けている内に、だんだんと日が暮れてきていた。
しかし、瓦礫はまだ残っている。
「これだけやっても、中々片付かないね」
「昔は、結構大きな家だったんだよ。だから、瓦礫も大量にあるんだ」
「そうだよね、荷車とかで、運ぶ時間もあるし、大きなのはゴゴしか運べないから、結構、大変だね」
「まあ、何はともあれ、皆のお陰で瓦礫を大分始末できた。これなら、後は大丈夫だ」
「ゴゴ」
とりあえず、作業はこれで終わりらしい。
カーターは、魔族の三人を見据えて、笑顔になる。
「いや、魔族ってのも、話してみれば、人間と変わらないもんだな。俺も認識を改めないとな」
「カーターさん……ありがとうございます」
「そう思ってもらえると、ピピィ達も嬉しいな」
「ゴゴー!」
カーターの言葉に、魔族の三人は嬉しそうにしていた。
その言葉が聞きたいために、三人は行動してきたのだ。それも当然だろう。
「おうよ、今日はありがとうな。俺の仲間内に、今日のことを伝えておくからよ」
「カーターさん。そのことなんですが、できるだけたくさんの人に伝えてもらえませんか?」
そこで、ルーゼは言葉を放った。
そこは、とても重要な部分なので、念押ししなければならないのだ。
そんなルーゼの肩に、カーターは手を置いてくる。
「ああ、もちろんだ。他ならぬお前が、魔族と歩み寄ろうとしてるんだ。俺達大人が、もっと気張らないとな」
「カーターさん、ありがとうございます」
その会話に、ミシェーラ達は不思議そうな顔をしていた。
ルーゼの事情を、三人は知らないので当然だろう。ただ、会話の流れ的にも内容的にも、三人に話せるようなことではない。
「それじゃあ、ピピィ達は、宿舎に帰るね」
「ゴゴー」
「おうよ、気を付けてな」
そんなことをルーゼが考えていると、ピピィがそう言った。
これで、解散となるようだ。
「あ、そうだ。ミシェーラ、明日も森の泉に来てくれないかな? これからのことについて相談したい」
「うん、いいよ。今日のことも帰ってから、他の魔族に話して、どんな感じかも報告するね」
「ああ、ありがとう。よろしく頼むよ」
ルーゼは、ミシェーラに明日のことを伝えておいた。
この活動は、これからも続けていかなければならない。
そのため、ミシェーラと話し合う必要があるのだ。
こうして、ルーゼは、三人の魔族達とわかれるのだった。
◇◇◇
人間達と別れた後の帰り道、ピピィがミシェーラに話しかけてくる。
「今日は上手くいってよかったね」
「うん、これで、少なくともカーターさんは、魔族への認識を改めてくれる。これを続ければ、きっと、人間と魔族が手を取り合うことができると思うよ」
「ゴゴー」
「うんうん、明日からも頑張ろう!」
今回の成功で、三人のやる気は高まるのだった。
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