新11話 散歩中の発見

 魔物討伐から、一同は町へと戻るため歩いていた。

 ミシェーラは、体力をかなり消費しており、歩くのも辛い状態だった。

 そのため、ミシェーラはルーゼに、おんぶされることになったのだ。


「うう、ごめんね、ルーゼ。重くない?」

「うん、大丈夫だよ、ミシェーラ」

「まさか、魔力を全力で放つと、こんなことになるなんて、思ってなかったよ。ルーゼも、疲れているのに、本当にごめんね」


 ミシェーラは申し訳なさや、気恥ずかしさなどでいっぱいになっていた。


「ああ、大丈夫だよ。僕は、剣を振っていただけだからね。攻撃を受けたチャックさんや、一人でタイラントベアを倒したガルスさんに比べれば、大した疲れじゃないよ」


 それに対して、ルーゼは笑顔である。

 しかし、本当はどう思っているかはわからない。


「ルーゼ、ありがとう」


 ただ、ミシェーラはルーゼの言葉に甘えることにした。

 どの道、動けそうにないので、そうするしかない。そのため、感謝の言葉をかけることにしたのだ。


「あ、そうだ。ルーゼって、強いんだね。私、驚いちゃったよ」

「それを言うなら、ミシェーラだって、すごい魔法だったよ」

「あれは、全ての力を込めたからね。当たってよかったよ」

「そうだね。あれがなければ、僕も危なかったよ」


 二人がそんな会話をしている中、一人悩んでいる者がいた。

 ミシェーラの意識が、少しだけそちらに向く。


「うーん、ピピィは何も……」


 ピピィは、今回の戦いであまり活躍できていないように感じているようだ。

 ただ、ミシェーラが励ましても効果はないだろう。それは、ピピィが自分で解決するしかないのだ。


「ピピィちゃん、どうかしたのか?」

「さっきから、顔が強張っているように見えるわ」


 そんなピピィに、隣を歩くチャックとシムアが話しかけた。

 それにより、ピピィも心配させてしまったことに気づいたようだ。


「ううん、大丈夫だよ」


 そう言って、笑ったピピィだったが、恐らく心中は穏やかではないだろう。




◇◇◇




 魔物の討伐が終わった後日、ピピィは町を歩いていた。

 今日は、ゴゴはカーターの元へ行っており、ミシェーラは昨日の疲れから、宿舎で寝ている。

 ルーゼからは、今日は休みにするということを聞いていた。そのため、今日ピピィは暇なのだ。


「うーん?」


 町を歩いているだけで、ピピィは今までとの違いに気がついていた。

 周りの人間が、ピピィを見てもあまり気にしていないのだ。


 今までは、魔族を見ると、嫌がったり、怖がったりと、色々な負の感情を向けられていた。だが、今はそれがないのである。

 それは、ルーゼとミシェーラの計画が、上手くいった証拠のようにも思えた。

 そのことに、ピピィは少し嬉しくなるのだ。


「多分、もうちょっとで、魔族と人間が仲良くなれるよね……」


 そんなことを考えながら、ピピィは歩いていた。

 気分転換のためでしかなかったので、目的地は考えていない。


「あれ?」


 そこで、ピピィはあることに気づいた。

 いつの間にか、町の出入り口まで来てしまっていたのだ。


「うん?」


 そこで、ピピィはさらに驚いた。

 町から、人間の少女が一人で出て行こうとしていたからだ。

 その先は、先日魔物が出ていた街道である。まだ安全であるとは、言い難い場所だ。


「うーん? 小さい女の子一人で外に……危ないよね?」


 少女は、まだ七歳か、八歳くらいの女の子である。町の外に、一人で出かけるなど、普通ではないだろう。


「待って!」


 ピピィは飛び上がり、すぐに少女の前に着地した。


「ええっ!」

「危ない!」


 女の子は、突如現れたピピィに驚いたようで、後ろに倒れそうになる。

 ピピィは咄嗟に、羽で少女を包み込み、倒れるのを防ぐ。


「だ、大丈夫?」

「う、あ、あの……だ、大丈夫……」


 少女は、ピピィにまだ驚いているようだ。

 ピピィは羽に力を入れて、少女をきちんと立たせる。


「ピピィは、ピピィだよ。あなたは?」

「え? あ、リネ」


 ピピィは、笑顔で話しかけた。

 それが伝わったのか、少女も少し落ち着いてきたようだ。


「こんな所に、一人でいると危ないよ?」

「でも、テールが」

「テール?」

「うん……」


 ピピィの質問に、リネはそう答えてくれた。

 それは、誰かの名前を言っているようだ。


「テールって、誰なの?」

「私の猫……」

「猫? 猫がどうしたの?」

「いなくなったの……」

「それで、外に?」

「うん……」


 ピピィは、そこで理解した。

 飼っている猫がいなくなったから、探すために町の外に出ようとしたのだろう。なんとも危険である。


「それは、大変だけど、最近は悪い魔物とか出たから、お外は危ないよ」

「でも……」

「落ち着いて、とりあえず、ピピィと一緒に一旦、お家に帰ろう」


 ピピィは、少女を引き寄せ抱きしめる。

 これで、安心してくれることを、ピピィは期待した。ハーピィにとって、その体勢が最も他者を安心させられるものなのだ。


「……わかった」


 少女は、なんとか納得してくれたようだった。

 そのことに、ピピィもそっち胸を撫で下ろす。

 

「それじゃあ、一旦、リネの家に行こう? リネのお母さんとか、きっと心配しているよ」

「うん……」

「よし、それじゃあ、家に行こう」

「うん……」


 リネは、ピピィの羽の先を持ち、それを軽い力で引っ張ってくる。

 どうやら、案内してくれるようだ。ピピィはある程度、リネが自分に心を開いてくれたのだと思った。


 こうして、二人は歩き出す。

 リネに合わせて、ピピィも進んで行く。


「あ……」

「うん? どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ……」


 そこで、ピピィは気づいた。

 リネに案内されているためか、周りのピピィを見る視線が痛いのだ。人間の子供と魔族が一緒にいるのは、異様に思えるのかもしれない。


「ここだよ。リネの家」


 ピピィが、そんなことを思っていると、リネの家に着いていた。

 リネはそのまま、ドアを開ける。


「ただいまー」

「リネ? どこに行っていたの? え! あ、ど、どちら様でしょう?」


 リネの母らしき人物が、驚きの声をあげた。

 突然の訪問者を見つめ、かなり動揺しているようだ。

 魔族のピピィを娘が急に連れて来たのだから、それも仕方ないだろう。


「お母さん、私、このお姉ちゃんに助けてもらったの」

「助けて……もらった?」


 リネの一言で、母親は少し安心したような表情になる。

 とりあえず、危険ではないと理解してもらえたのかもしれない。


「お母さん……ごめんなさい! 私、一人で町の外に出ようとしたの」

「ええ! 町の外に! なんてことしているの!」


 次に、リネは謝罪の言葉を口にした。

 そのことに、母親はかなり怒っているようだ。


「あ! 町の外に出て、すぐにピピィが止めたから大丈夫だよ」

「リネ、町の外は危険なのよ! 最近、魔物が出たくらいなんだから、あまりお母さんを心配させないで!」


 ピピィの制止も聞かず、リネの母は怒り続ける。

 これは、魔族だから無視されたという訳でもなく、単純に怒っているからだろう。

 どうやら、ピピィは縮こまっていることしかできないようだ。


「ご、ごめんなさい。でも、テールが……」


 しかし、その言葉で、母親の表情が少し変わった。

 その名前は、母親にとっても特別であるらしい。


「……それは、お母さんだって、心配よ。けど、あなたまでいなくなったら……」

「うん、ごめんなさい」


 二人は抱き合いながら、落ち着き始めた。

 そのことに、ピピィは少しだけ安心する。重い空気は、ピピィの望むものではないのだ。


 そこでリネの母が、ピピィの方に目を向けてくる。


「……ピピィさんで、いいのでしょうか? 娘を助けてくださり、ありがとうございます」

「えっと、ピピィは別に何も……」


 母親は、ピピィに対して頭を下げてそう言ってきた。

 その態度に、ピピィは少し困惑してしまう。このように、深く感謝されるとは思っていなかったのだ。

 

「いえ、あなたが止めてくれなければ、大変なことになっていました。本当に、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 ピピィは、二人から感謝の言葉に照れてしまう。

 ただ、自身が役に立てたことは嬉しく思った。今のピピィにとって、それはとても重要なことなのだ。


「でも、お母さん、テール、どうしよう」

「テールのことなら、今日、町長に頼んで、町の人達に伝えてもらえることになったから、情報を待ちましょう」


 ピピィへの感謝も終わったからか、リネは母親にそう聞いていた。

 そこで、ピピィはあることを思いつく。


「ねえ、猫を探すんだったら、ピピィが探すよ」

「え? ピピィさん?」

「ピピィ、探すの得意なんだ。だから、猫の特徴を教えて欲しいな」

「お気持ちはありがたいのですが、私達で町の中は、かなり探しました。今更、探し直しても……」


 リネの母は、ピピィの提案に乗り気ではなさそうだ。

 当然、リネも母親も探したのだろう。それで、見つからないのだから、ピピィが探しても変わらないと思っているのかもしれない。

 

「ピピィは、空から探せるから、普通に探すよりも、見つけられると思う」

「えっ? 空ですか?」


 ただ、ピピィの探索は普通と違うのだ。

 なぜなら、空から探せるのである。

 地上か探索するのと、空から探索するのでは、まったく効率も見え方も変わるだろう。


「空? 確かに……それは違う探し方になるのでしょうか……?」


 ピピィの言葉に、母親は悩み始めた。

 ただ、ピピィの力は理解したようだ。


「お姉ちゃん……」

「リネ?」


 母の言葉で、希望があることがわかったのか、リネはピピィの羽を持つ。

 それは、期待の表れだろうか。


「お姉ちゃん……テールを見つけられるの?」

「うん! ピピィに任せて!」


 ピピィの言葉に、リネは顔を明るくする。

 その笑顔に、ピピィもやる気が出てくるのだった。

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