新26話 二人の距離は

 ドレイクの出来事によって、ルーゼとミシェーラの距離は、以前よりも縮まっていた。

 周囲の人々も、それには、薄々は勘づいているのだろう。それは、ルーゼもなんとなくわかっている。誰も口にしようとせず、成り行きを見守ってくれているのだ。


 それは、ルーゼにとってとてもありがたいことだった。

 だが、ここに一人、無粋な男が一人いた。


「それで、どうなんだ、ルーゼ」

「どうもしないですよ」


 酒場にて、ルーゼはチャックに問い詰められていた。


「どうもしないことはないだろう」

「はあー」


 チャックは、明らかに結論ありきで話をしていた。その結論が当たっているため、質が悪いのだ。


 ルーゼは何を言いたくなかった。

 そのため、ルーゼもチャックにとって嫌な質問をすることに決める。


「チャックさんこそ、シムアさんのこと、どう思っているんですか?」

「は、はあ! それは今、関係ないことだろう……」

「自分が言われて嫌なことを、人に言わないでくださいよ」

「別に、俺は……」


 ルーゼは、怒っていた。

 このように質問をされるのは、非常に不快なのである。


 そんなルーゼに、横から声がかけられる。


「二人とも、落ち着きなさい……さあ、これでも飲んで」

「マ、マスター、すまねえ」

「……すみません、マスター」


 声の主は、マスターだ。

 空気が悪いことを察して、飲み物を差し出してくれたのだ。


 ルーゼは冷静になって、飲み物を口に含む。

 少し、熱くなり過ぎたことを自覚しているからだ。


「あれ? おい、マスターこれって……」

「うん? どうしたんだい? チャック」

「いや、これ、酒……」

「え?」


 その瞬間、ルーゼの視界が回っていった。

 それに対して、チャックとマスターは困惑しているようだ。


「はあ、まったく……ひっく」


 ルーゼは、自身がおかしいことに気づきつつも、どうすることもできなくなっていた。




◇◇◇




 ドレイクの出来事によって、ルーゼとミシェーラの距離は、以前よりも縮まっていた。

 周囲の人々も、それには、薄々は勘づいているのだろう。それは、ルーゼもなんとなくわかっている。誰も口にしようとせず、成り行きを見守ってくれているのだ。


 それは、ミシェーラにとってとてもありがたいことだった。

 だが、ここに一人、何もわかっていない少女が一人いた。


「ねえ、ミシェーラ、最近、ルーゼの話ばかりだね」

「え?」

「ゴ、ゴゴ!」


 ピピィの質問に、ミシェーラは目を丸くした。

 ピピィは、純粋な言葉を口にしたまでだとはわかっている。だが、これはミシェーラにとっては厳しい質問だった。

 ゴゴは、必死にピピィを止めようとしてくれている。

 だが、もう遅いのだ。とりあえず、ミシェーラは誤魔化すことにする。


「別に、ルーゼのことなんとも思ってないよ」

「なんとも思ってない!? そんなこと言ったら、ルーゼが可哀そうだよ!」

「ゴゴー」


 ミシェーラの言葉に、ピピィは怒ってしまった。

 どうやら、捉え方を間違えているようだ。ミシェーラも、自身に言い方が悪かったことを自覚する。少し、過激に言い過ぎてしまったのだ。


「あ、いや、気になってないといえば、嘘になるけど……」

「うん? 気になってない? どういうこと?」

「あ、えっと……その……」

「ゴゴ……」


 ミシェーラは、再び自身がミスをおかしたことに気づいた。

 言い方が、恋愛的意味になってしまっていたのだ。

 ピピィに対しての正しい回答は、こうではない。


「ピピィ、ルーゼは大切な友達だから、安心して」

「そうだよね! よかったー」

「ゴゴ……」


 ミシェーラの言葉に、ピピィは笑顔になる。

 こういう答えが、ピピィには正しいのだ。ミシェーラは、少し安心する。


「はあ、はあ、ここにいたのかい」

「マリッサさん? どうかしたんですか?」


 そんな三人の元に、マリッサが来た。

 マリッサは、息を切らしていたため、ミシェーラは何か問題でもあったのかと思った。


「いや、ちょっと、言って欲しい所があるんだけど」

「はい、なんですか?」

「酒場なんだけど、ルーゼが酔っ払ってるんだ」

「え……?」

「どういうこと?」

「ゴゴ?」


 三人は、マリッサの言葉に目を丸くする。

 ルーゼが酔っているとは、どういうことだろうか。




◇◇◇




 ミシェーラ達が、酒場につくと、そこには大変な光景が広がっていた。


「ルーゼ、落ち着くのじゃ」

「町長? まったく、いつも夜中に隠れて、お酒を飲むのをやめてくださいよ。体に悪いですよ? ひっく」

「ルーゼ? 知っておったのか?」


 酔っ払ったルーゼは、口々に文句を言い始めているようだ。

 恐らく、日頃のストレスを、全て吐き出しているのだろう。


「ルーゼ君、そこまでにしなさい」

「マスター? だいたいマスターのせいですよ。僕にお酒飲まして、ちゃんと確認してくださいよ。ひっく」

「ああ、それは言い返せんなあ」

「ルーゼ、落ち着けってなあ」

「チャックさんは、人の気持ちを、もっと考えるべきですよ。無神経すぎますよ。ひっく」

「わ、悪かったって」


 ルーゼは、落ち着かせようとしている人達に、牙を向けていた。

 どうやら、かなり厄介な酔い方をしているようだ。


 とりあえず、ミシェーラはルーゼに近づいてみる。


「ルーゼ、大丈夫?」

「ミシェーラ?」


 ミシェーラが近づいても、ルーゼは何も言わなかった。

 そのことに、ミシェーラは少し安心する。


「隣、座るね?」

「あ、うん……」


 ミシェーラは、ルーゼの隣に座った。

 近い方が、落ち着かせやすいからだ。


「ルーゼ、意識ははっきりしている?」

「うーん」

「きゃあ! ルーゼ?」


 ルーゼは、ミシェーラに寄りかかってきた。

 どうやら、意識が朦朧としているようだ。


 ミシェーラは多少驚いたが、すぐに体を寄せ、ルーゼが椅子から落ちないように支えた。


「ミ、ミシェーラ? 大丈夫?」

「ゴゴ?」

「しー、大丈夫。ルーゼも眠っているし、しばらくこのままにして」


 ピピィとゴゴが心配したが、ミシェーラは問題なかった。

 ルーゼが、自身を見て安心してくれたという事実が、ミシェーラにはとても嬉しいのだ。

 そのため、少しくらいの無茶は許せてしまうのである。


「なんだか、ミシェーラ、嬉しそう?」

「ゴゴ?」

「いや、別に、嬉しい訳じゃないよ」


 ピピィの言葉に、ミシェーラは首を横に振った。

 本当は嬉しいが、他人に伝えるのは、まだ恥ずかしいのだ。


 こうして、ミシェーラは、眠るルーゼを支えるのだった。




◇◇◇




 そんな風に数分過ごしていると、ルーゼが目を覚ました。


「あれ? うん? ミ、ミシェーラ?」

「あ、ルーゼ、よく眠れた?」

「ご、ごめん。すぐに離れるよ……」


 ルーゼは、顔を赤くしていた。

 恐らく、それは酔いによるものではないだろう。

 それも、ミシェーラにとっては嬉しいことだ。


「自分がどうなっていたか、覚えている?」

「なんとなくは……」

「そっか、でも、ルーゼのせいじゃないから、気にしないようにね」

「あ、うん……」


 ミシェーラの言葉に、ルーゼは笑顔になった。

 どうやら、これで大丈夫なようだ。


 こうして、今回の騒ぎは収束していくのだった。

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