新25話 もっと強く

 竜が倒れ、町には平和が戻っていた。竜が町に着く前に倒せたため、町に被害はない。

 皆、元通りの日常に戻っている。ただし、ドレイクは事件の後、どこかに消えていった。


 ルーゼも、いつも通りの日常に戻っていた。それも、魔族と人間の橋渡しをする必要がなくなったため、ミシェーラ達と出会う前の日常にだ。


 ただし、一つだけ変わったことがあった。ルーゼは、森の泉であることをしている。


「ガルスさん、お願いします」

「ああ」


 ルーゼは、ガルスに弟子入りしていた。今後、町に脅威が訪れた時に、もっと強くなっておかなければ、町を守れないと感じたのである。

 かつて、竜魔将として魔王軍幹部を務めていたガルスなら、自分をもっと強くしてくれると思ったのだ。


 ガルスは、竜との戦いが終わった三日後に町に帰ってきた。

 そこで、ルーゼは戦いを教えてもらえるように頼んだのだ。


 そして、ルーゼと同じような考えをした者が、他にもいた。


「ルーゼ、頑張ろうね」

「へへ、腕が鳴るぜ」

「チャック、調子に乗っちゃダメよ」


 ミシェーラ、チャック、シムアの三人である。

 ミシェーラは、ルーゼと同じく、先日の戦いで、思うところがあったらしく、ルーゼと同じ時に弟子入りを志願した。


 チャックは、どこかから弟子入りの話を聞き、シムアはチャックから聞かされて、弟子入りを志願したらしい。それぞれ、町を守るものとして、もっと強くなりたいようだ。


「さて、始めるか」


 ガルスは、何人来ようと構わないらしい。

 という訳で、四人はガルスの元で修業を始めるのだった。




◇◇◇




 ガルスの特訓が終わり、ルーゼはミシェーラに話しかけていた。


「ミシェーラ、お疲れ様」

「はあ、はあ、ルーゼ、お疲れ様」


 ミシェーラは、かなり疲労しているようだ。

 ルーゼは、少し心配になってしまう。


「ミシェーラ、大丈夫?」

「うん、大丈夫……それにしても、ルーゼは、すごいね。息一つ切らしてないし……」

「ああ、いや、闘気の特訓で成果を出せなかっただけだから、疲れないのも当然なんだ」

「けど、あれ、すごく疲れそうだけど」

「まあ、多少は疲れるけど、ミシェーラのように、実際に体力を消費する訳ではないからね」

「そうなんだ」


 ルーゼとミシェーラが行った特訓は、違っていた。

 ルーゼはチャックとシムアと闘気の特訓をしており、ミシェーラは一人で魔法の特訓をしていたのだ。

 ただ、ルーゼ達は特に闘気を使えるようになった訳ではないので、あまり疲れていない。

 それに対して、ミシェーラは魔法を撃ち特訓していたので、疲労が高いのは当然だろう。


「ミシェーラ、本当に大丈夫かい?」


 そう言って、ルーゼはミシェーラに顔を近づけようとした。

 少し、顔色が悪そうなのだ。


 しかし、ミシェーラは半歩下がって、ルーゼから離れる。


「ミ、ミシェーラ?」


 流石に、近づいて離れられると、ルーゼもショックだった。

 そんなルーゼに対して、ミシェーラは慌て始める。


「あ! ごめん、違うの。今、私、汗かいているし」

「え?」

「その、匂いとか……」

「あ、ああ、そういうことか。ごめんよ、僕が無神経だったね」


 ルーゼとミシェーラは、お互いに顔を赤くしながら、黙ってしまった。

 なんだか、とても恥ずかしかったのだ。




◇◇◇




 そんな二人の様子を、ガルス、チャック、シムアの三人は離れて見ていた。


「なあ、シムア、あの二人なんか……」

「チャック、茶化したらダメよ……」


 チャックは、かなりそわそわしている。

 二人の関係が、気になって仕方ないのだろう。

 それに対して、シムアは冷静だ。二人を静かに見守ろうとしているのだ。


「ガルスの旦那、どう思う?」

「……こういうのは、本人達に任せるべきだ」


 そこでチャックは、ガルスに聞いてきた。

 ガルスは、恋愛事など本人に任せるべきだと思っている。それに触れても、碌なことがないのをわかっているからだ。


「それにしても、いつの間にあんな関係になったんだろうな……」

「さあ、それは私も知らないわ……」

「……」


 ガルスはドレイクの件で、二人の距離が近づいたと推測していた。だが、それを言うつもりはない。


「俺、ちょっと、ルーゼに聞いてみるぜ」

「あ、チャック! それはダメよ!」


 余程気になったのか、チャックが、ルーゼの方に駆けていってしまった。

 その様子を見て、シムアが明らかに怒っていることに、ガルスは気づいてしまう。


「ガルスさん」

「な、なんだ」

「ああいうのって、死んでも治らないのかな?」

「いや、落ち着け、シムア」


 シムアが弓を構えたので、流石にガルスも止めた。

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