新9話 魔物と対峙して

 ルーゼ、ガルス、ミシェーラ、ピピィの四人は、町の出入り口付近に来ていた。

 ここで、魔犬討伐に参加する人間と、合流するためである。

 少し待っていると、人間の男女が二人、歩いて来た。


「おお、ルーゼ……ってなんだ! そいつらは?」

「落ち着きなさい、チャック」


 驚いた男はチャック。

 槍の名手であり、魔物討伐によく参加している。


「だけどよ、シムア。これは驚くぜ」

「大丈夫よ、ルーゼに事情を聞きましょう」


 冷静な女はシムア。

 弓の名手であり、彼女も討伐によく参加している。


「チャックさん、シムアさん、こんにちは。申し訳ないですが、まず、事情を話させてもらいますね」


 現れた二人に、ルーゼは早速話を始めるのだった。




◇◇◇




 ルーゼの説明で、チャックとシムアは状況を理解したようだ。

 すると、二人も口を開き始める。


「なるほど……それっていいのか?」

「ルーゼがそう判断したのなら、いいと思うわ。魔族のことなら、ルーゼの方がよく知っているもの」

「まあ、魔犬以上の魔物もいるとしたら、やばいしな」


 チャックは疑問に覚えているようだが、シムアはすぐに納得してくれたようだ。


「しょうがないか。まあ、さっさと行って、さっさと帰ろうぜ」


 シムアが納得したためか、チャックも納得したらしい。

 この二人は、いつもそのような感じなので、ルーゼもこうなることは予測していた。


「チャック……気楽すぎるわ。もっと危機感を持って」

「はは、二人とも変わりませんね。まあ、気をつけて行きましょう」


 そこで軽くなるチャックを注意するも、いつもの光景だ。

 ルーゼは、変わらない二人に少し安心するのだった。


 こうして、計六人は魔物退治に向かうのだった。




◇◇◇




 目撃者の証言から、街道を沿って歩いていれば、魔物の方から襲いかかってくることが予測できた。

 そのため、六人は街道を沿って進んでいる。街道の周りは、森に囲まれており、魔物は森の中に潜んでいるはずだ。


 道中、チャックは、魔物達三人に目を向けた。

 やはり、魔族のことが気になるようだ。


「魔族ってのは、強いんだよなあ。けど、俺も負けないと思うぜ。何ってたって、俺の槍はこの町一番だからな」

「チャック、適当なこと言ったらだめよ」


 チャックの軽口を、シムアが諫める。

 これが、一連の流れだ。ルーゼにとっては、見慣れた光景である。


「槍ってどうやって使うの? ピピィは、武器とか使えないから羨ましいな」

「私は、槍も一応使えるよ。悪魔にとっては、一般的な武器だからね。まあ、名手とかではないけど……」

「へえー、魔族も色々あるんだな」

「チャックは、本当にお気楽ね……」


 ミシェーラとピピィは、一応答えのようなものを返したが、ガルスは周りを見渡しており、答えなかった。どうやら、周囲を警戒しているようだ。


 ルーゼも、周囲を警戒していた。ガルスの言葉が、気になっていたからだ。魔犬以上の魔物が、潜んでいるかもしれないと思うと、気になってしょうがない。


「ルーゼ、お前の剣も中々だよな」

「え? まあ……」

「なんだ? 反応薄いな」

「チャックと違って、ルーゼは謙虚だもの。自分の力を、誇示したりしないわ」


 急に話しかけられたため、ルーゼの反応は淡白なものになってしまう。

 そのことに、ルーゼは少し罪悪感を覚えた。そのため、何か言葉を返そうとする。


 その時だった。


「……来るぞ!」


 ガルスの言葉で、ルーゼは反射的に構えをとる。

 チャックとシムアも、それに遅れて続く。

 さらに遅れて、ミシェーラとピピィが構える。


「ガウッ!」

「グルルッ!」


 近くの茂みから、魔犬が二匹現れた。

 魔犬はルーゼ達を見て、威嚇している。


「報告通りって訳か。それなら、俺に任せな」


 そう言って、チャックが魔犬に飛びかかった。


「チャックさん、焦ってはいけない!」


 ルーゼの静止も虚しく、チャックは槍を掲げ、魔犬目がけて突き刺す。


「ガウッ!」


 魔犬は、軽く身を躱した。

 身軽い魔犬に、正面から向かうのは迂闊である。


「ちぃっ!」

「チャック!」


 チャックの槍は、地面に刺さった。しかし、チャックも戦闘経験は積んでいる。すぐに、槍を引き抜き、後ろに飛ぼうとしていた。


「ガガッ!」

「なっ!」


 しかし、そんな彼は驚く。

 茂みからもう一匹魔犬が、飛び出してきたからだ。


「ふん!」

「キャウンッ!」


 魔犬がチャックに噛みつく寸前、その横腹にガルスの右手が叩きつけられた。

 ガルスはそのまま、下方向へ力を入れ、魔犬を地面に押さえ込んだ。


「はっ!」


 さらに、左手の手刀がその体を引き裂いた。魔犬の体からは血しぶきが上がり、やがて、動かなくなる。


 同じ瞬間、ルーゼも前へと駆け出していた。その手には剣を握り、動いてない魔犬の元へと飛び込んだ。

 魔犬は当然察知し、後ろに飛ぶ。しかし、これはルーゼの予想通りだ。それに合わせて、身を横に躱しながら、シムアに合図を出す。


「シムアさん!」

「ええ……」


 シムアも、それは理解していたようで、すぐに矢を放ってくれる。


「キャインッ!」


 空中で身を躱すことができない魔犬の頭に、その矢が突き刺さった。

 しかし、これは、致命傷にはならない。


「クウン?」


 しかし、シムアの矢には、毒が塗ってある。

 それにより、魔犬は少しよろけた。


「おおっ!」


 その瞬間、ルーゼの剣による一閃が、魔犬を切り裂く。

 魔犬から赤い血が流れ、やがて倒れる。


 一方、チャックは自分が取り逃がした魔犬に向かっていた。連続で槍を突き、魔犬の体力を奪っていく。


「ガッ?」


 何度も身を躱していた魔犬だったが、集中力が切れたのか、その足を絡ませ転倒した。


「やあ!」


 その隙を、チャックは見逃さなかい。

 槍を、魔犬に向かって、一気に突き刺す。


「ワオオンッ!」


 槍が魔犬を貫通し、叫びとともに動かなくなった。

 一瞬のことに、ミシェーラとピピィは困惑しているようだ。


「片付いたか……」


 全ての魔犬が活動を止めた瞬間、ガルスが口を開いた。


「いや、ありがとよ。あんたがいなきゃ、俺が噛み砕かれてたぜ」


 額に汗を滲ませながら、チャックが礼を言う。

 そんなチャックを、シムアが呆れたように見つめる。


「後先考えず飛び出すからそうなる」

「シムアさん、まあまあ……」

「ルーゼ……」


 そんなシムアを、ルーゼは諫めた。

 とりあえず無事だったので、今はそれでいいと思ったのだ。


「すごいね、皆、こんなに呆気なく倒せるなんて」

「うんうん、ピピィ、驚いちゃったよ」


 そんな四人に、ミシェーラとピピィが、称賛の言葉をかけてきた。

 ただ、本人達は、あまりいいとは思っていないので、その言葉には苦い顔しかできない。

 すると、当然二人には疑問に思われる。


「どうしたの?」

「ミシェーラ、今のは、あんまり褒められた戦いじゃないんだよ」

「主に、チャックのせいでね……」

「うぐっ! それはそうだけどよ」


 シムアの言葉に、チャックが落ち込んだような顔をした。

 ただ、本人も理解しているようだ。


「俺が輪を乱したせいで、皆を危険に晒しました。申し訳ございません、これでいいか?」

「これからは、単独行動はしちゃだめよ」

「…………むっ!」


 話が纏まろうとしていた時、ガルスが声を上げた。

 どうやら、何かを感じ取ったようだ。


「どうしたんですか? ガルスさん?」

「警戒しろ、まだ、何かいるぞ……」


 その言葉で、各々構える。

 先程の戦いで、ガルスの実力は皆わかっていた。

 そのため、その言葉は疑う余地がない。


「まだ、魔犬がいるのかよ!」

「いや、違う……それよりも、もっと巨大な気配だ」

「それは、大変そうね……」

「魔犬よりもって、どうしてここに!」

「血の臭いに誘われてきたのだろう」


 辺りには、魔犬の血が溢れている。

 飢えた魔物が、その臭いに引き寄せられてもおかしくない。


「当然、すぐに向こうもこちらに気づくだろう……」


 茂みが揺れながら、その姿が見えてくる。


「グルルルウル……」


 巨体だった。その体は、ルーゼ達よりも、一回りくらい大きい。

 その体は、黒い毛で覆われており、真っ赤な目がこちらを睨みつけている。


「熊か……」

「普通の熊じゃないわね」

「ええ、あれは、暴君……」

「タイラントベア……魔犬とは、比べ物にならないくらい、強い魔物じゃねえか!」


 タイラントベアは警戒しているのか、それ以上は近寄って来ない。

 だが、ルーゼ達はわかっていた。後退すれば、命がないということを。


「下がれば、殺されます」

「わかってるさ、どうする?」

「俺が仕掛けよう」


 動けずにいると、ガルスがそう言った。

 タイラントベアは、強力な魔物だ。そのため、かなり危険である。


「シムア」

「何かしら?」

「俺が仕掛けたら、矢を放て、その毒は奴に対して効果は低いが、少しでも動きを鈍らせるべきだ」

「わかったわ、任せて……」


 シムアにそれだけ言うと、ガルスは前へと突き進む。

 それに合わせて、各々身構えるのだった。

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