第22話
「気分悪くならないのか」
「どうして?」
たとえイケメンだからといって昼飯を食べている所をずっと見つめられていて気にならないわけがない。
「俺の顔だぞ」
「それこそ意味が分からないんだけど」
それでもようやく視線を俺から自分の弁当へと移行させたイケメンこと
「……気にはなるよな」
「そりゃね」
あの
「これで
「ハハ……」
「
「はァ……」
昨日も帰宅してから大変だった。
言葉にすれば一行だけど、鬼か阿修羅かはたまた邪神か。牙を剥き出し事の次第を聞き出そうとする直から逃げ続けることにどれだけ苦労したことか。
浮気は駄目よ、と両親も直の味方で助けてくれないし。
「良い傾向だとは思っているんだけどね」
「どういう意味だよ」
「勇気ってあんまり友達作ろうとしないじゃん? だから緑苑坂さんをきっかけにもっと交友関係広げてくれればなって」
「お前は俺の母親か」
「どっちかと言えば、心配性の弟かな」
高望みはしない。
例えば、これが日常系漫画であるような特殊な部活での出来事であればどれだけ良かったことだろう。緑苑坂の女王様の性格も、安全を考慮された上であれば耐えることが出来るかもしれない。
でも、同じ漫画的展開といっても俺のはバトル漫画だ。怪我もするし痛い目にも会うしで碌なことがない。
せめて勝者に与えられる願いを叶える権利が俺にももらえるならやる気も起こるけど、結局のところ俺が頑張る理由は、緑苑坂が能力を解除して俺が死なないようにするためだけだしさ……。
「聞いても良いか?」
「なんだい、お兄ちゃん」
どっちかと言えばお前は兄貴だと思う。いや、でも優秀なのは弟だったりするのか……?
「お前とか、緑苑坂とか。なんつーの? すげえ奴らってさ」
「うん? うん」
「もしもなんでも望みが叶うって言われたらどうする?」
緑苑坂が言之葉遊戯に参加する理由がどれだけ考えても分からない。
あれだけ他人が羨むものをなんでも持っていて、その上で死ぬかもしれない目に会ってでも手に入れたいモノって何だ?
「いきなりだなぁ」
「例えばだよ」
前報酬として勉の弁当箱に卵焼きを放り込むと、すぐさまそれを口に入れて勉は難しい顔をする。
「なんでもってなんでも?」
「多分……?」
「モノじゃなくても良いんだよな」
「多分な」
「曖昧だなァ」
こんな意味不明な質問にもしっかり答えようとしてくれるこいつはどれだけ中身もイケメンなのだろうか。やっぱり直の彼氏はこいつじゃないと駄目だな、うん。
「もうちょっとだけ」
「おう」
「勇気みたいになりたいかな」
「…………」
「予想通りの顔するなぁ」
苦笑する勉には悪いが、それはそれは目の前の俺の顔は醜いものになっていることだろう。いや、元から醜いか。
じゃあ、あれだ。より醜いモノになっているだろう。すごいだろう、醜さに限度はないのかもしれない。
「勇気が顔に悩んでるのは知っているし、それで色々苦労しているのも知っているから簡単に言えないけど」
ああ、あれか。
こいつはこいつでイケメンだから苦労しているもんな。そりゃ知りもしない連中から告白されるのは怖いこともあるか。
「外見の話じゃなくて、中身の話だよ。……、いや、顔」
こいつのせいで俺の顔の醜さは下限突破を繰り返してる。
「中身までスーパーイケメンのお前の言われるとなんか腹立つんだが」
「勇気を怒らせるとか光栄なことだね」
「おぅけい、分かった。喧嘩売りたかったんだな?」
人をおちょくって笑う顔すら絵になるのだから心底羨ましい限りである。やっぱり彼らみたいに恵まれているとそれこそ命を懸けてまで手に入れたモノはなかなかないんじゃなかろうか。
「で? その質問が緑苑坂さんとのことに関わっているのか?」
「ん? んー……」
「勇気がそこまで話さないとなるとよっぽどのことなのは分かるけどさ。……怪我とかしてないよな?」
「し、してねえから触るな気持ち悪い!」
あとお前から過度なスキンシップを受けるとあとでファンクラブの連中が煩いんだよ。直が入学してから逆にあいつがファンクラブの連中を監視しているとかで大人しくはなったけど!
「ひどい! やっぱり僕とのことは遊びだったのねっ」
「お前が言うと洒落にならないからやめろッ」
よよよ、と泣き崩れながらしっかり弁当食べているこいつはどこまで芸達者なのか。いや、そんなことよりもだな。クラスメートは良いとしても、こんな場面を
「何を気持ち悪い行為をしているのかしら」
ほぉら、見られたよ。
向けるまでもなくゴミムシを見る目をされているのがよく分かる。だってもはや物理攻撃に発展している視線がびしびし俺の背中に当たっているんだから。
「確かに貴方の顔では生殖行動が臨めないのは理解できるから、初めから生殖行動にならない恋愛に走るのは納得できる行為ね。だからと言って周囲に人が居る場所で」
「おおっと、そうだな! この前の話の続きだよなッ!!」
「ちょッ!?」
終わりを見せない彼女の悪態をいつまでも聞いている気はない。それこそ人の目が集まるだけである。
お前や勉と違って俺は他人の視線が苦手なんだよ。基本的に悪意とか籠った視線しか向けられてきてねえんだから!!
「気を付けてなぁ」
さすがに三度目になると見送る勉の表情も明るいままであった。
……あいつ、マジで変な勘違いしてないだろうな。
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