第27話


 ただしイケメンに限る

 相手を弱体化させる俺の能力は、俺の実体験から生み出された力。


 どれだけ良いことをしようとも、どれだけ努力を積み重ねたとしても、結局他人がまず見るのはその人の外見だけで。

 見た目が破綻している俺がどれだけ何をしようともそれを評価してくれる人なんているはずがない。


 そんな俺の卑屈さが生み出した能力が、まさか俺を助けてくれるなんて思ってもいなかった。

 緑苑坂りょくえんざかは意味が分からないと斬り捨てて、ブランは愉快と笑い捨てた。それでも二回の戦いで俺が生き残れたのは間違いなくこいつがあったから。


 これでコンプレックスが治ったわけじゃない。

 今でも俺は俺の顔に思うところしかない。血が繋がっているとかいないとか、そんなことに関係なく家族だと胸を張れもしない。


 それでも、せめてそれが役にたっていることがほんの少しだけ嬉しかった。

 そんな俺の能力が、


「嘘だ、ろ……」


 まったく意味をなさない相手がこんなにも早く現れるなんて。

 これが娯楽なのだとすれば、俺は間違いなくやられ役で決定していることだろう。


「嘘? 嘘じゃないさ! 戦いを再開させることは嘘じゃないよ! どうしても僕が君に嘘をつかないといけないんだ! 失礼だな、君は!」


 勝手に勘違いして憤慨している白鳥しらとりは、まさしく正しいイケメンだった。つとむとはまた違ったタイプのイケメン。

 日本人離れした彼は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のようであった。


 どんな行為もイケメンでなければ意味がない。

 だから相手を弱体化させることになる俺の能力は、言い換えれば、イケメンであればどんな行為も許されるんだ。


 俺の能力では、白鳥を弱体化させることは出来ない。

 俺がこいつをイケメンだと確信してしまった。その前から弱体化が意味をなしてないということは、こいつは俺の言葉に納得したその上で、自分がイケメンであることを理解しているんだ。


「もしかして僕が僕の能力を黙っているから教えてくれないのかな。君は我儘だ! でも僕は優しいからね、その君の要望に応えてあげようじゃないか!」


 まずい。

 このままじゃあいつのなんでも斬れるペーパーナイフを防ぐ術がない。いや、でも緑苑坂の硬球は確かにこいつに当たっていたわけだから攻撃がまったく通じないわけじゃない……?


「僕の能力『弘法筆を選ばず』は僕の才能に合わせてすべて道具が最高のパフォーマンスを示してくれるんだ! まさしく才能にあふれた僕に相応しい能りょケプラ」


「わざわざありがとう、行くわよ!」


 自信満々に敵に手の内を明かす白石の美しい顔が歪む。

 硬球が彼を吹き飛ばしたのだ。


 また辞書にない新しい言葉を彼が生み出している間に、俺は先に逃げ出した緑苑坂に続いて教室を飛び出した。


「これでこちらは攻撃に使える能力がなくなったわけね」


「で、でも緑苑坂のボールは当たってたわけだから」


「あの馬鹿の言っていることが正しいなら能力は道具の効果上昇。それを用いる本人の能力は素のはずよ」


 嬉しい話であるけれど、それはつまり俺の鉄の棒を捌いていた白鳥の動きは元々彼が持っている才能ということだ。


「でもあれだけ動けるくせにどうして簡単にボールが当たったんだ?」


「馬鹿だからでしょ」


 あんまりな言い分だが、なんとなくそれが答えな気がする……。


「貴方の能力が効果が出ない以上、私の能力で隙を作って攻撃を叩き込むしかないわ」


「……腕が簡単に斬られたんだけど」


「他に方法があるなら言いなさい」


 あと、それって結局いつもの手段なんじゃ……。


「分かったよ……」



 ※※※



「すごく痛い……、もぉ!! いったいどこに隠れたんだい! 正々堂々と戦うのが筋というものだろう!」


 一週間もこちらを監視していたくせに何を言うんだ。

 それにしても、こいつは一週間いったい何を調べていたんだろう。


「おい!!」


 階段の踊り場で声を掛けた俺に、警戒心を見せることなく白石は階段をのぼってくる。よし、いいぞ。


「あ、そこに居たんだね! まったく、君たちは人の話を聞かな……、あれ? 女の子のほうはどこへ行ったんだい」


 さらに上に隠れている、と素直に言うわけがないだろうが。


「あー、帰ったんだ」


 とはいえ、こんな言い訳しか思いつかない俺も馬鹿で


「そうか! それは仕方ないな、まずは君を倒すしかないということか!」


 信じたァ!!

 決定だ、こいつは本当に本気で馬鹿だ!?


 構えているのがただのペーパーナイフでも、切れ味はまさに漫画のソレである。加えて彼自身の腕前も相当のもの。

 だとしても、


「やれる、もんならなァ!!」


 俺は適当な教室から拝借してきた箒をまっすぐ突き出して走り出した。

 戦国時代、剣よりも槍のほうが結局強かったのはそのリーチにあると誰かが言っていた! 箒といってもその固い先端を全速力でぶつければ痛いじゃすまないぞ!


 しかも避けても隠れている緑苑坂が硬球を投げてくれる。その隙に箒か、最悪蹴りでもぶち込んでやる!!


 避けれるものなら……!


「避けてみろ!!」


 体重をかけた俺の一撃を、

 白石はイケメンスマイルでふ、と微笑んだあと


「避ける?」


 腕を広げて、って、え?


「どうしてそんなことをしなければいけないんだい!」


 彼の腹ど真ん中へ、箒の先端が突き刺さった。

 って、うぉぉおお!? さすがにこれはまずいんじゃないか!? いくら人殺しだからって俺も人殺しになりたいわけじゃ……。


「痛っでぇええ!?」


 悲鳴をあげたのは、

 俺の方だった。


 ンだこれ、固いなんてもんじゃねえ! 服の下に鉄板でも入れてるのかよ、いや、そんなもんじゃないまるで鉄の塊にぶつかったみたいだ……!


「言ったじゃないか、僕の能力はすべて道具が最高のパフォーマンスを示してくれると!」


「ま、さか!」


「僕の服はいま、まさしくどんな攻撃からも僕を庇ってくれるほど頑丈になってくれているのさ!!」


「そんなのありかよ!?」


 ただの服でも防御力を持っているゲームは存在しているけど、その拡大解釈だとでも言いたいのか。そんなの間違ってるじゃねえか!!


 駄目だ、つまり今のこいつは肌が露出しているところしか攻撃が通じない。緑苑坂もあの位置からじゃ頭を狙ってボールを投げるのは難しい。


「僕は賢いからね! なにも準備しないで追いかけるわけないだろう? ちゃんと能力を発動させてから追いかけてきたのさ!!」


 逃げる? 階段を上がっていくのは緑苑坂までバレてしまうから却下だ。いまのこいつを倒すには緑苑坂が居ないと信じていることを隠さないと。

 じゃあ、こいつの隣を通り過ぎて下へ……。


「分かるよ、きっと君は逃げるつもりだね! でもそうはいかない! さあ、僕の攻撃を受けると良い!!」


 白石の動きに身体が動かない。

 腕の痺れがまだ取れないせいで、思うように動かないんだ。


 あいつのペーパーナイフは鉄製の椅子も机も簡単に切り裂いた。箒なんかじゃ防げるものじゃない。

 校門近くに転がっていた守衛さん。俺も彼みたいに……。


勇気ゆうきッ!!」


「あれ?」


「痛ッ!?」


 緑苑坂じゃない。

 階段を駆け下りて来た誰かが俺の腕を掴んでそのまま走り出す。掴んだ俺の腕を離すことなく。


 思わずあげてしまった悲鳴は別に斬られたせいじゃない。腕を引っ張られれば誰だって痛いものだ。思わず文句も言いたくなるけれど、あのままだったら俺も悲鳴をあげることすらできずにいたかもしれない。


 俺の腕を引っ張って走るこの後ろ姿は、

 それに俺の名前を呼んだあの声は、


つとむか!?」


「良いから走って逃げるぞ!!」


 どうして勉がこんなところに居るんだよ!?

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言之葉遊戯 @chauchau

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