第25話
「……行ってきます」
いくら俺の両親が寛容といっても夜に出掛けるなんて許すほど放任主義でもない。だから、俺はこっそりと家を抜け出した。
結局、バレないようこっそり出るしかない。戻ってくるときのために部屋の窓は開けておいたけど二階にどうやって上がろうか……。その時はコンビニに行ってたことにして堂々と帰ったほうが良いか。
家を出るとき、ロビーのほうで家族三人の笑い声を聞こえていたので俺はすっかり油断しきっていた。
※※※
「今日は遅れなかったわね」
さすがに学校集合をするわけにもいかないので、駅前を待ち合わせ場所にしていた俺は今日はさすがに電車ではなく自転車で来たので痴漢扱いもされることはなく無事に
「それはそうと、今更だけど夜の学校って見守りとか警報とかあるんじゃねえの?」
夜の学校で戦うなんて言うのは、漫画のなかだけであり現実はどこまでいっても現実なのだ。不審者が入れないようにしっかりセキュリティがされているものだろう、令和の時代。
「呼び出したのは向こう。そんなことはこちらが考えることじゃないわ。最悪、私たちは忘れ物を取りに来たとか言うだけよ」
「そうだけど」
「それにおそらくだけど……」
「うん?」
「なんでもないわ。行くわよ」
スタスタと歩き出す彼女に、これは何か聞いても無駄だと分かったので俺は付いていくだけにした。
なにか思うところはあるみたいだけど、きっと向かえば分かることだろうしな。
※※※
「……ンだよ、これ」
向かえば分かるだろうと思ってはいたけれど。
「行くわよ」
「ちょ、ちょっと待った! これも相手の仕業なんだよな!? じゃあどうして!」
見慣れた学校。
見慣れた校舎の見慣れた校門が。
「警報もなにも鳴ってねえんだよ!」
バラバラに切り刻まれていた。
校門は鉄製であり、それもかなり太い鉄格子だ。何度か門を閉めるところを見たことがあるが下に車輪がついていてもそれはそれは重そうで苦労していたんだ。
それがバラバラに壊されるのではなく斬られている。そんなことが可能だと言うのか。
「警報を遮断することも出来る能力なんでしょ。それかもしくはどちらかは素の人間として能力なのかもね」
「そんな馬鹿な……」
「言ってても仕方ないわ。夜で人通りが少ないとはいえこの門の状態を誰かに見られて警察が来たら、確実に死人が増えるわよ」
「そうだけ、……え?」
増える?
普段より眉間の皴が深い緑苑坂の視線を追う真似をしなければ良かった。校門の傍には守衛室がある。いつも登校する時、下校する時、笑顔で俺たちを見守ってくれていた守衛さんが、
モノ言わぬ姿となって無造作に投げ出されていた。
「んごげェ!!」
夕食が吐き出される。
なんだよ、アレ。なんだよ、アレ!!
胃の中のもの全部吐き出しても吐き気が止まらない。気持ち悪い、嘘だろ、だって、今までの二人は、緑苑坂は、どこまで戦っていても! それに! 少年漫画じゃそんな簡単にッ!!
「漫画やアニメじゃないの。……もっとも、最近の漫画じゃ簡単に人は死んでいるけどね」
「言っているンガッ!?」
「いい加減に黙りなさい。関係ない人間をこれ以上巻き込みたいというの?」
胸倉を掴まれて、彼女の顔で視界が埋め尽くされる。
変わらない冷たい瞳。
どうしてこいつはこんなにも落ち着いてられるんだ。
人が、人が死んでいるんだぞ!? 死んでいる姿なんて、誰かが死んでいる姿なんてテレビのドラマくらいでしか見たこともないものがそこに……ッ! それに、何度も顔を合わせて、いつも優しそうに笑ってッ!!
緑苑坂に能力を使ってくれと言うこともない。
救急車を呼ぶこともない。
そんなことをしても、首と胴体が離れている状態から助からないことは分かり切っている。それでも。
「行くわよ。今回の相手は、いままでみたいにしていたらこっちが殺されるわよ」
「げほッ……、くそ!」
あとで、ちゃんとします。
犠牲になった守衛さんに手を合わせて、俺は彼女を追いかけた。
夜の学校というのはどこか不気味だ。
昼間はあれほど通い慣れている場所なのにまるで別世界へ舞い込んだようである。月明かりのおかげで電気をつける必要はないけれど、それでも前へ進むのが怖い。
この先に、守衛さんを殺した相手がいるとなるとなおさらだ。
「校門は切り刻まれ、守衛も切られていた。それに、警報も切られている。そこに関係した能力なのかもしれないわね」
「最後だけ、切るの種類が違わないか?」
「異能力バトルに何を常識をぶつけているのよ。それじゃあ貴方や私の能力を現代科学で説明出来るというの?」
「出来ないけど……」
「それにこれは言之葉遊戯。つまりは、言葉遊びなのよ」
「……あとさ、いま俺たち普通に歩いて向かっているけどこれ良いのか?」
「さぁ……? 不意打ち厳禁なルールがどこまで適応されるかは分からないわね。でも、一週間も焦らした上に
「どうして?」
「なんとなくよ」
それこそ何となくではあるが、どこかしら前を歩く緑苑坂の機嫌が悪くなっている気がする。
昼間に別れた時はようやく相手をぶっ殺せるとむしろ機嫌が直っていたはずなのに。
「座標からすると……、ここかしらね」
三年二組。
二年である俺たちが普段来ることもない廊下、その一番奥から二番目にある教室。
「来たわよ」
躊躇なく、彼女はその扉を開けた。
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