第9話 杖の使い方
「この世界はゲームの世界と似ているんですか?」
「そうよ、聖女様。私達2人はゲームの世界と似ていると思ってるし、ゲームの世界にあった武器とか防具を手にいれてるわ。聖女様は?」
「…私は、ゲームをしたことがなかったから、この世界がゲームの世界なのかどうかは分からないわ。」
「そう…」
「このダンジョンについても、ゲームでは出てくるのですか?」
「私が知ってるのは、ここは入るたびに、レベルが1になり、マップが変わるダンジョンよ。アイテムを持って入れるから、まだマシね。」
「全部ダメのダンジョンもあるのか?」
「そうね。いくつかあるわ。」
…それは難易度が高いな。
「ありがたいのは、死なないってことよ。」
「死なない?」
「ええ。転生者の恩恵なのか、転生した人はダンジョンの中で死んでも、入り口に戻されるの。体力は減った状態だし、死ぬのを体験する訳だから、全然大丈夫って訳でもないけどね。」
…死ぬの体験するのは嫌だな…
「私達以外の人は生き返ることなく、ケガを負ってしまいヘタをすれば亡くなるということですね。」
「さすが、聖女様。理解が早いね。」
「では、私は騎士団の治療へ向かいます。助けられる者は助けたいので。」
「そうね。なら、私達も向かいましょ。」
「え?俺も?」
「何言ってんの。その杖があれば回復なんて楽勝じゃない。」
…あ、確かにそうだな。
仕方ない、人助けをするか。情けは人の為ならずって言うしな。
聖女様に続いて負傷者のいる場所まで歩いて行く。
「そういえば…貴方のお名前は何でしたか?」
「へ?私?そう言えば、まだ名乗ってなかったね。
冒険者A級のナミよ。」
「ナミさんですか。私はファミルと言います。
ナミさんは、その杖の効果を知ってるんですか?」
「…あれ?聖女様も最初、この杖の効果を知ってるように俺に話しかけてきたけど…知らないのか?」
「えぇ。卵を孵すにはその杖がいいと神託を受けたので、何かしらの効果があるのだと思っていました。」
…そんなピンポイントな神託ってある?
神託ってもっと抽象的な感じで、良いように勇者達が解釈して使ってたような…
「ところで、あんたは何て名前なの?」
「俺か?シンゴだ。」
「シンゴね。シンゴは冒険者ランクはいくつなの?」
「…これだ。」
ピラッ
「…これって…冒険者成り立てなの?」
「そうだ。」
「王都で冒険初心者…だからその杖を狙ったのね。」
「他にいい武器は思い浮かばなかったからな。それに、俺は早くこの街を出ていきたいんだ。」
「へぇ。何で?」
「やはりシンゴさんは早く街を出たかったので、杖を貸し出すのを渋っていたのですね。」
「そうですよ聖女様。俺はこの街を出て、ゲームで言うところのラスボスまで行きたいんですよ。」
「へぇ!あいつのところまで行きたいんだ!勇者にでもなるの?」
「いやいや、勇者には興味が無いんだけどさ、サクラってキャラがいただろ?あいつを仲間にするって約束したから早く仲間にしたいんだ。」
「…サクラ?…あぁ、チュートリアルで出てきた娘だっけ?」
「そうそう。」
「惚れたの?」
「そ、そんなんじゃねぇし、仲間にするって約束したからな。俺って約束は守るタチなだけだし。」
「…バレバレだけど、そういうことにしといてあげるわ。」
「わかりやすい人なんですねシンゴさんって。」
「な、仲間って大事だしな。うん、それだけだよ。」
「…でも、それならダンジョンの方が早くない?」
「何が?」
「サクラに会いたいんでしょ?ダンジョンの中に街があって、そこにサクラがいたような気がするんだけど…。」
マジですか!?
「マジですか!?」
「たぶんそうだったような…。」
「いや、たぶんじゃ困るんだけど。」
「とりあえずダンジョンに行ってみれば分かるから大丈夫よ。違ったら正規のルートで会いに行けばいいんだし。また考えましょ。」
まぁ、そうだな。
そんなことを話していたら、負傷者のいるテントに着いたようだ。
うめき声のような声と白衣の天使が働いている。
「うぇぇ。」
「シンゴ弱すぎ。あたしはもう慣れたわ。」
「冒険初心者は弱いんだよ。」
「シンゴさん、その杖を使えばここにいる負傷者を治せますか?」
「聖女様が使えば治せるかな。俺は回復魔法を覚えていないからな。」
「では、杖を貸してもらえますか?」
「契約とは違うから、貸しにしとくよ。」
「貸しですか?」
「うん。卵を孵すのに使わない訳だし。貸しね。」
聖女様のお付きの方が睨んでくるけど、ここは貸しを作りたいからな。
少し強気で行かせてもらうぜ。
「…分かりました。杖の使い方を教えてください。」
よし。言質は得たぞ。
杖を聖女様に渡す。
「…あっさり渡してくれましたね。奪われると思わないのですか?」
「聖女様が転生者って知ったのもあるし、こんなに多くの聖女様を敬愛している人の前で聖女様がそんなことしないだろう?」
「…上手な言い回しですね。」
「私は回りくどいと思うけど。」
ナミには言ってねぇよ。
「…その杖を地面に向けて『不動』と言えばスキルが使える。『不動』はその場からサークルが拡がる。その範囲内から動かなければ自動的に魔力が回復するスキルだ。サークルは狭いからな。ほとんどその場から動けないと思ったほうがいい。」
「なるほど。魔力が回復するから魔法を使い続けることが出来るのですね。」
「そうだ。後は、1日1回しか使えないからな。間違っても途中で動くなよ。」
「分かりました。では、行ってきます。」
聖女様は杖を持ってテントの中に入っていく。
お付きの方もついて行った。
「おぉ、聖女様」
「聖女…様?」
「聖女様が来て下さったぞ。」
「今から回復魔法を使います。私はここから動けません。回復が必要な人は連れてきて下さい。いいですね。」
『不動』
お、スキルを使ったな。地面が揺れたぞ。
「ヒール。ヒール。ヒール…」
初期の回復魔法だ。様子見なのか、初期魔法しか知らないのか?
「なぁ、ナミさんよ。」
「何?後輩のシンゴ?ナミ様って呼んでもいいよ?」
「ナミ様なんて呼ぶか!」
「何でよ!ファミルのことは聖女様って呼んでるのに!」
「最初の出会いが聖女様だったからなぁ…。まぁ、いい。それよりもさ、聖女様はヒールしか使ってないけど、何で?」
「何でって…冒険に出てないからじゃない?魔法を使わないとなかなか覚えていかないからね。」
…なるほど。
しばらくすると、テントから聖女様を称える歓声が聞こえるようになった。
無事に負傷者を救うことができたんだろう。
「…次はこっちを救ってもらいましょうか。聖・女・様。」
「なぁ、それって俺のセリフなんだけど…。何でナミが言うかな。」
「言ってみたかっただけよ。後悔はないわ。」
「そりゃそうだろ。」
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