第32話 今後について(2)
「勇者が私たちと同じ……」
ナミからの言葉にファミルは驚いてしまう。
「そう。私たちと同じようにこの世界とは別の世界から来た人物。そして、この世界がゲームの世界と似ていることを知っている。それが勇者よ。だから王家から口出しがあったんでしょうね。」
「……このダンジョンには王家が口出しする何かがあるんですか?」
「あっ、そっか。ファミルはゲームの世界をあんまり知らないんだったね。」
「そうです。すいません。」
ナミとファミル、シロガネは10階層のゴブリンナイトもあっさりと倒し、11階層へと向かう階段で座り込み、休憩を取りながら話し合いをしている。
「ゲームの話しを元に考えると……このダンジョンの良さは、ファミルも知っている祝福された卵がたくさん集まることよ。」
「そうなんですか?」
「5階層で出てくるのはここだけね。他のダンジョンだと20階層ぐらいから出てくるかしら。強い魔物を仲間にしようとすると数を集めないといけないから、ここのダンジョンは人気があったわ。」
「ゲームでは皆さんどれくらい集めていたんですか?」
「そうね……運がよければ500個くらいで欲しい魔物を仲間に出来るかしら。1000~2000個は当たり前って感じよ。運の悪い人は10000個ぐらい行くし。レアな魔物を狙う人はどれくらいか分からないくらいね。」
「えぇ! そんなにも必要なんですか!?」
「強い魔物を狙うとそれぐらいは必要だったわ。」
「……勇者さんも強い魔物を求めているってことですかね?」
「たぶんそうね……。ゲームの時に使っていた魔物を手に入れようとしているんじゃないかしら。」
「他にもこのダンジョンの良いところってあるんですか?」
「なにかあった気がするんだけどなぁ……。分からないわ。」
ナミは首を傾げながら悩んでいるが出てこないようだ。シロガネもナミを見ながら同じように首を傾げている。
「考えても仕方ない。その内、思い出すでしょ。さて、今日のところはここまでにしておきますか。」
「ナミさん、いいんですか?」
「ピィ?」
「何が?」
「攻略ですよ。攻略。」
「ピィピィ。」
シロガネが羽を広げてナミへと何かを訴える。ナミはそれを見て笑顔でシロガネの頭を撫でながら話す。
「真面目ね。ファミルにシロガネは。でも、今日は一旦お開きにしましょう。これから定期的にダンジョンに行かないといけないのは決まっているんだし、初日くらいはのんびりとしましょう。第一、様子見のつもりで軽装だしね。」
ナミがファミルとシロガネに話しかける。
「それに、ダンジョンを進めるにしても今の私たちだけだと厳しいわ。仲間を募ってもダンジョンの特性上、難しいし。なので、祝福された卵を孵化させて魔物を仲間にする一択。そのためにも祝福された卵を集めて使いたいんだけどね~。自由に使わせてもらえないし。」
ナミは顔を上げながら話し、ダンジョンに来る前のことを思い出していた。
ナミとファミル、シロガネはダンジョンに来る前に、今後のダンジョン攻略についてギルドと教会の三者で打ち合わせをしていた。その中で、卵を孵化させて仲間にする案を提案していた。卵から孵化する魔物はランダムなので、色々と手当たり次第に孵して、強い魔物が出るのを待つのが望ましい。そのため、手当たり次第に数千回程度の卵を孵化させることを伝えていた。
しかし、ギルドと教会からストップがかかった。それは今回の事件で目をつけられている状況では、さすがに許容できないとのこと。また、王家からの注文で祝福された卵を回収してある程度の個数を用意しておくようにと言われているからだそうだ。
強い魔物がいないと攻略など無理だと伝えても、ギルドも教会も聞く耳を持たず、今の戦力で攻略を目指すように言ってくる。
すったもんだの話し合いの結果、ナミの考えていた個数よりもはるかに少ない、10個までなら卵を孵化させてもいいとギルドと教会から許可を取ったが、ナミとしてはギルドと教会はダンジョンの攻略に本腰を入れて取り組むつもりがないのだと判断していた。
「ファミルも感じていたと思うけど、私たちの攻略にそこまで協力的ではないのなら、無理をしないのが一番よ。それに、勇者が卵を集めているってことは、勇者も私たちと同じ考えのはず。そのため、孵化させずに卵を集めて自分たちで強い魔物を孵化させるつもりだと思うわ。」
「……勇者が孵化させる必要があるんですか?」
「私たちがやっても同じよ。勇者が孵化させる必要はないわ。だから、他に何かこのダンジョンに来ないといけない理由があるんだと思ってる。何かは分からないけどね。」
……
座っていたナミは立ち上がり、お尻についた汚れをパンパンと軽くはたく。
「とりあえず一旦戻って10個の卵を孵化させましょ。無理をしても私たちに得はないし。出来る範囲でやっていくに限るよ。攻略を考えるなら、数年はこのダンジョンに潜らないといけないし。そこまでの覚悟ある?」
「……そうですね、そうしましょう。今回は軽装で様子見でしたもんね。帰りましょう。」
ファミルもそう言って立ち上がり、忘れ物がないか荷物の点検を始める。シロガネも一緒に荷物の忘れがないか確認している。
「さて、祝福された卵でどんな魔物が出るかしらね。」
「シロガネと同じ魔物が出てくれると嬉しいですね。ナミさんはどんな魔物が仲間になって欲しいですか?」
「ピィピィ!」
「そうね……」
三人は話しながらダンジョンの外へと出ていくのであった。
ヒロインがドブ掃除をして、皆から白い目で見られています。でも、ヒロインは気にしていません。誰かヒロインを止めて下さい。 くじら時計 @k2kujiratokei
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