第25話 それぞれの覚悟

「……ナミもファミルも知ってたのか?」


「昨日……ギルド長からお願いされたからね……逆らえないってのが本音かしら。」


「逆らえない……何で?」


ナミが腕を組み目をつぶった後、天井を見ながら話しだした。


「……冒険者を始めた頃は多くの冒険者にバカにされ、相手にされなかった。見返してやりたくて、使える手段は使ってランクをどんどんと上げてやったわ。そうしたら、私を利用するため、パーティーに引き込もうとする冒険者が増えたの。逆恨みされたこともあったし、ひどい時にはダンジョンの中で集団に囲まれてパーティーに入らなければ殺すって脅されたこともあったわ。そんな時に助けてくれたのが今のギルド長とパーティーの仲間よ。ギルド長はランクが上がる前の、新人の頃から目にかけてくれていたし、今のパーティーは私が何よりも守らないといけない、かけがえのない仲間なの。A級に上がる時には協力してもらった恩もあるしね……そういう訳なの。ごめんなさい。」


……クソ、何も言い返せないじゃねぇか……


「ファミルは?」


「私は……」


ファミルは俺の前で跪き、両手を胸の前で組み祈りを捧げるように独白を始めた。


「……私がこの世界に来るきっかけは自殺でした。ありきたりな話しですが、学校でいじめられていたんです。学校の先生に伝えたところで変わりませんでした。明日も明後日もずっといじめられる。辛くて……屋上から飛びました。そして気が付いたらこの街に……生きる気力を失っていて……何で生きているんだろうってことばかり考えていました。その時気がついたら教会にいたんです。そして教会の中で私は女神様の像に対して叫んでいたそうです。神様死んでしまえと。何故私を殺してくれなかったのか。この世界なんて滅んでしまえと。泣きながら叫んでいたそうです。私はその時の記憶がありません。気が付いたら教会の奥にあるベットで寝ていました。その時の司祭様に『貴方に会えて良かった。この世界はまだまだ救うことのできない人々が多い。貴方もその一人だ。私は貴方も他の人も救いたい。でも、私一人のチカラでは限界がある。貴方は救いを求めてはいないだろう。でも、貴方には救いを与えられるチカラがある。貴方の時間を私たちに貸してくれないか?』と言われました。最初は何を言ってるのか分かりませんでしたが、教会で過ごす内に私でも出来ることがあると教えられました……今の私があるのは教会のおかげなのです。教会と共に。これが私がこの世界で生きる道だと信じております。ごめんなさい。」


……あぁ、重い。2人とも重たすぎる。


「……分かった。じゃあ、パーティーは解散しよう。これからはそれぞれの役割を頑張ってくれ。今までありがとう。」


俺は頭を下げる。心の中で感情が揺れ動いて今にも溢れそうだ。でも、そんな姿を見られたくない。


「シンゴ……ごめん。」

「シンゴさん……神のご加護を。」

「ピィ…ピィピィ……ピィ……」


2人が席を立つ音が響き、扉に向かう足音だけが短調のように鳴っている。


俺は、2人が会議室から出ていくまで頭を上げられなかった。

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