第27話 それからそれから(2)

「ねえ……シンゴ? シンゴったら。」


「……はっ!?」


「ボーっとしてどうしたの?」


「うぉお!?」

「きゃっ!」


サクラの声が近くで聞こえたと思ったら、目の前に顔があって、めちゃくちゃビビったし!


……間近で見ても可愛いな……


「急にどうしたのよ! ビックリするじゃない。」


「あぁ、すまんすまん。まさかサクラが卵から出てくるなんて全く思ってなかったからな。」


「まぁ、いいけど。シンゴはこれからどうするの?」


「……そうだな。」


ダンジョンに潜れって言われてるからなぁ……


……ん?


俺、ダンジョンに潜ってたのってサクラを仲間にするためだったよな……サクラが仲間になったよな? ……なったんだよな?


「なぁ、サクラ?」


イスにもたれ掛かっていたサクラは呼び掛けに反応してこちらを向いた。


「ん? 何?」


「サクラってこれからどうするの?」


「私? 私はせっかくシンゴに呼ばれたから、しばらくはシンゴと旅をするよ? そう言う約束だったでしょ?」


「……覚えていてくれたんだ。」


「約束したんだから、当たり前じゃない!」


笑顔で話すサクラに嬉しさが込み上げてくる。


「え、ちょっとシンゴ……泣いてんの?」


「な、なぃでなぃ。ズズッ……グスッ。なぃでなぃ。」


「いや、それ完全に泣いてるから。え? 何処に泣く要素あったの?」


「うるしゃい。」


……俺の心が落ち着くまで、静かな時間を過ごした俺たちは向かい合って座り、先程の今後どうするかについて話し合う。


「ギルドや教会にこのダンジョンを潜れと言われてるけど、サクラが仲間に加わったから、ぶっちゃけ、ここのダンジョンを潜る必要性が無いんだよな。」


俺は死に戻れるが、サクラは分からないしな。そうなると他の冒険者達と変わらないはずだ。


「ギルドや教会に正直に言ったら?」


「でも、正直に言っても聞いてくれないだろうしな……」


サクラに、昨日会議室で行った話し合いの内容を伝え、あの雰囲気と話しぶりから無理だと伝える。


「……じゃあさ。」


サクラが笑顔を近づけてくる。


「この街を抜け出してみない?」


「抜け出す?そんなんしたら、ギルドと教会から指名手配されてしまうぞ?」


サクラの提案は悪魔の提案、まさかの逃走だった。


「大丈夫。私に秘策があるの。任せて。」


サクラが悪い笑顔で話してくる。そんな顔も可愛いな……いやいや、それよりもだ。


俺は顔を振って話しを戻す。


「いや、大丈夫って……失敗したらおたずね者だぞ。」


「秘策はあるわ。でもその前に。」


「その前に?」


「ギルドに行って2人分の装備をもらってきましょう。あと、可能なら道具屋で、野宿できる装備も欲しいところね。」


腕を組みながら着々と街からの逃走を検討しているサクラ。頭の中で考えているのだろう。天井を見ながらブツブツと考え込んでいる。


「上手いこと行くのか?」


心配になる俺はサクラに声をかける。サクラは考えるのを止め、こちらを見つめてくる。


「ダメそうなら別の方法を考えるわ。せっかくなんだから、楽しいこと考えて楽しい旅にしましょ。」


そう言って笑顔で話してくるサクラに俺は頷くしかなかった。


サクラを宿に残して、俺は冒険者ギルドに足を運ぶ。

ギルドは約束通り武器と防具を用意してくれていた。


俺は接近戦用のショートソードと小型の盾、そしてナイフと鞭。防具には急所部分を金属等で覆っている革の鎧とローブをもらう。


また、ダンジョンでの野宿に必要な道具はあるかと尋ねると、道具屋を紹介してくれ、必要なものを積めたリュックを提供してくれた。


俺は武器と防具、それとリュックを背負って宿に戻ってくる。部屋にはふてくされたサクラが待っていた。


「おそーい。」


「ごめんごめん。武器を選ぶのに時間がかかって……」


「お土産は?」


サクラは手を出してくる。


「……えっとね、約束通り武器と防具がもらえた。それとリュックに必要なものを積めてもらった。」


「で? ……お土産は?」


サクラは両手を出してくる。


「……ごめんなさい。」


「はぁ~……女の子待たせて置いてお土産忘れる~?」


サクラはベッドに横になって、うつぶせの体勢で足をバタつかせて訴えてくる。


「つ、次からは必ず買ってくるから。」


「本当に~?」


顔を上げてジト目で睨んでくる。


「本当、本当だから信じて。」


「……仕方ないなぁ。」


サクラはベッドから顔を上げて、ベッドに腰掛ける。


「それで、これからどうするの?」


「武器と防具を装備してダンジョンに行くよ。」


「え? ダンジョンに行くの? この街から抜け出すんじゃないの?」


「抜け出すためにダンジョンに行くのよ。さぁ、準備して。」


サクラはそう言って俺に武器と防具をつけるように促してくる。


「……あれ? サクラはどうするの?」


俺が革の鎧を着こみ、サイズ調整をしていてもベッドに腰掛けたままで動かないサクラを見て声をかける。


「あ、私?こうするのよ。」


そう言うとサクラは目を閉じて魔力を集めだす。


「え? 何するの?」


サクラに聞くも返事がなく、やがてサクラの全身が淡く光ったと思ったら……


サクラの姿が消えた。


猫を残して。


「にゃ~ん。」


足元にスリスリしてくる猫を抱きかかえる。サクラの髪の毛と同じ色の毛並みで、尻尾が2つ生えている。


「……サクラ、お前って猫又だったのか!?」


「そうにゃ~ん。」


「え、話せるの?」


「当たり前だにゃ。猫又をなめるにゃ。猫又の私は人化の術を使えるのにゃ。ダンジョンに入る時はシンゴのままで入るにゃ。そして人化の術を使ってシンゴを別人にするにゃ。そしたらダンジョンから出ても問題ないはずにゃ。」


なるほど。俺がダンジョンに挑戦したままにしておくと、追手も来ないだろう。


「さすが、サクラ。」


「当たり前にゃ~ん。」


尻尾を振りながらニコニコとしている猫のサクラに癒されながら俺は全ての荷物を持ってダンジョンへと向かう。ダンジョンの前には教会の衛兵が門番としており、数名の冒険者がダンジョンへと向かう姿が確認できた。


「これなら、サクラの作戦も上手くいきそうだね。」


「上手くいくに決まってるにゃ。」


俺は教会の衛兵にギルド証を見せて、中へと入る。衛兵にはその猫が武器なのかと言われ、ずっと抱いていたのを思い出し、直ぐにサクラを下ろす。サクラは華麗に着地し、そのままダンジョンへと入っていく。俺も杖を持ち、ダンジョンへと入っていく。


「ダンジョンに入ったけど……どうする?」


「人気のないところに行って、人化の術を使うにゃ。そしてすぐに出るにゃ。」


「……怪しまれない?」


「策は考えてあるにゃ。怪しまれても大丈夫にゃ。」


自信満々のサクラの言葉を信じ、俺たちはダンジョンに潜る振りをして、人気のない場所を探した。しばらくすると2階層で人気のない袋小路を見つけた俺たちは、サクラは猫又から人間へと、俺は人化の術で別人へと変身した。


「……うん。これならシンゴってバレないね。」


「サクラはその恰好しかなれないのか?」


宿屋の時と同じ服装のサクラに確認する。


「まだ無理ね。今はローブがあったからローブを被って誤魔化すわ。杖を貸して。こうしたら、剣士と魔法使いのパーティーみたいじゃない?」


「まぁ、たしかに。それで?この格好でダンジョンから出るの?」


「そうよ。しかも走って。」


「絶対に怪しまれるよ。」


「任せてよ。言い訳も考えてあるし、策もあるから。それから衛兵さんが呼び止めても絶対に止まらないでね。」


胸を叩くサクラに不安もよぎるが、任せてみよう。


「了解。じゃあ、行きますか。」


タッタッタッ……タッタッタ……


駆け足よりもジョギングのような足取りでダンジョンから出る。


「……おい! お前たち! どうしたんだ?」


ほら、衛兵さんが声をかけてきたじゃないか、どうするんだ?


「私たち、アイテムを買い忘れたんです! すぐに戻ってきます!」


サクラはそう言って足を止めることなく通り過ぎる。


「あ、おい! ちょっと! ……」


衛兵さんが止めたそうにするが、持ち場を離れられないのか、結局は追ってくることはなかった。


タッタッタッ……トコトコトコ……


「あれ?門に向かうんじゃないのか?」


ジョギングから歩きに変わって、街の中を歩いているが、あきらかに門とは別の道だぞ。


「策をしとかないとね……あ、あの冒険者とかいいかも。」


そう言ってサクラは道具屋にいた冒険者に声をかけにいった。


「おい……サクラ……どうしたんだ?」


サクラに話しかけられた冒険者は怪訝な顔つきをしていたが、サクラから何かをもらうと喜んで走り去って行った。


「よし、これでいいよ。おまたせ。」


「何したの?走って行ったけど。」


「え?下水道のダンジョンって知ってるか聞いたのと、走って行けばお金あげるって言ったのよ。たぶん、これで衛兵さんもさっきの連中かと思うはずよ。」


「え? 人数増えてるし間違わないでしょ。」


「チッチッチ……甘いなシンゴ君。甘々だよ。冒険者は見栄を張る生き物だよ? 道具を買いに行くなんて嘘だと思われているさ。どうせ、自分たちのレベルに合わなかったのか、人数が増えたのを見て、仲間を連れてきたと思うさ。」


「そんな都合よく思ってくれるかなぁ。」


先ほどの冒険者を目で追うが、その姿は遠くなっていた。


「時間が稼げたらそれでいいんだし、そこまで深く考えなくていいよ。ダンジョンの衛兵さんの記憶だとシンゴは探索しているままなんだし。」


「……まぁ、そうだな。」


「とりあえず、門から出てどこの町に向かう?」


「……それ、まったく考えてなかったわ。」


「しっかりしてよ。」


サクラが腰に手をあてて、呆れた表情を見せる。


「へい。すんません……それじゃあ、海にでも向かおう。」


「どうして海に向かうの?」


「海の中に町があるからさ。せっかくだし、行ってみたいと思ってね。」


「へぇ! そんな町があるんだ。いいね。行ってみよ!」


俺たちは門を出て、寄り合いの馬車に乗り、海沿いの町を目指すことにした。


少しずつ離れていく街に別れを告げる。城壁に囲まれた街が少しずつ木々の向こうへと消えていく。


いつ、戻ってくるか分からないが、それまで元気でな。


ナミ、ファミル、シロガネ。


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