第2章 下水道ダンジョン改め、聖女様のダンジョン

第28話 動かされる2人と1匹

「あっ、ファミル。久しぶり。」


「ナミさん、ごめんなさい。おまたせしました。」


「いいよ。早く着いただけだし。シロガネちゃんも久しぶり。大きくなったねぇ〜。」


「ピィッピピィ〜♪」


「……この場所も何だか懐かしいわ。」


「……そうですね。あれからしばらく経ちましたから。」


「そうよね。ファミルなんか『聖女様と3匹の聖獣』って劇にもなってるし。」


「は、恥ずかしいので止めて下さい! そ、そう言うナミさんだって『戦場の女神ナミ』って二つ名がここまで聞こえてきてますよ。」


「……お互い恥ずかしいだけだから止めましょ。」


「そうですね。」


あの会議室の話し合いから数ヶ月が経過したある日、2人と1匹は再び、あの会議室に呼び出されていた。


「待たせたな。」


前回の話し合いと同様に、ギルドから2名、教会から2名の代表者が会議室へと入ってくる。


前回と違うのは、シンゴの席が空いている。それだけだった。


「今から2人に問うぞ。あれからシンゴと連絡は取っているか?」


ギルド長の質問にナミは立ち上がり、剣に手をかけた。ファミルは目を見開いて驚いている。そのファミルの前にはシロガネが仁王立ちして睨みを聞かせていた。


「……その質問の意図は? それと、何故教会の方々は我々に真偽の魔法を使うわれるのか。しかも聖女であるファミルに対しても。説明が先じゃないかしら?」


「……お二人を疑うような行為をしてしまい、申し訳ありませんでした。特にファミル様に真偽の魔法をかけてしまい、申し訳ありませんでした。」


教会の司祭クーリアはそう言いながら、イスから下りて膝をついて謝ってくる。


「ク、クーリア様。お顔を上げて下さい。私は気にしていません。」


ファミルは慌てて司祭のクーリアに近づき、クーリアをイスに座らせる。


「ナミもとりあえず座れ。」


ギルド長のガンプが声をかけるが、ナミはそのままの体勢から動かない。


「ナミ。私からもお願いするわ。説明するから、今はこらえてくれないかしら?」


副ギルド長のスミナがナミに声をかけると、


「……分かったわ。次は無いから。」


そう言ってナミも椅子に座りなおした。ナミが座ったのを見て、ギルド長のガンプが話し始める。


「すまんかったな。疑うようなことをして。これには理由がある。」


ギルド長が話し出した後に副ギルド長、教会の司祭たちも頭を下げてくる。


「……」


ナミもファミルは何も話すことなく、ただ見つめることで続きをせかす。


「……あの会議の後、翌日にシンゴはギルドに寄って装備を持ってダンジョンへと入っていった。卵から孵った魔物を連れていたそうだ。」


「……それで?」


「……それだけだ。」


「は?」

「え?」

「ピィ?」


「……それ以降、誰もシンゴに会っていない。ギルドにも戻ってきていない。」


「まだダンジョンに潜っているんじゃないの?」


「可能性はゼロではないがゼロに近い。ナミも自分で言ってて分かっているだろ?」


「ナミさん、そうなんですか?」


ファミルに説明するようにナミはファミルの顔を見て話しをする。


「……あそこのダンジョンを攻略するには2つの方法があるの。1つは運任せでダンジョンで使えるアイテムを拾いながら進んで行く方法。もう1つは強い武器や防具を手に入れて何度も進んでは戻る方法。後者の方が確実に進んでいけるから、だいたいは後者を選ぶわ。」


「でも、前者でも進めるんですよね?」


「少しはね。でも、運がよくないと食料と水が足りなくなるから、現実的にはクリアは無理じゃないから。初見でクリアでしょ……確率で言うと0.1%かな?」


「……え? じゃあどうやってクリアするんですか?」


「何度も死に戻りを繰り返して武器と防具を鍛えて、攻略に必要なアイテムを揃えて万全の体勢で挑むのよ。それでもクリア率は40%ぐらいじゃないかな。」


ナミはあっけらかんと言っているが、ファミルは顔をしかめる。


「その、死に戻りを何度もしないといけないんですか?」


「……」


ファミルはギルドや教会の代表者を見つめるが、何も話してこない。


「そうよファミル。他の冒険者だと死に戻りなんて出来ないけど、シンゴはそれが出来る。だからダンジョンの攻略に抜擢されたのよ。」


「でも、死に戻りって何度も死なないといけないんですよね?」


「そうよ。あそこでシンゴが毒を受けた時は苦しそうだったから、私が首をはねてあげたわ。」


「え?」


「ん? そんなの当たり前よ。どうせ生き返るんだし。痛みは少ない方がいいからね。」


ゴホン。


ギルド長のガンプが咳をする。


「話しがずれてきたから戻すが、シンゴが戻ってきていない。だから君達を呼んだんだ。」


「要するに、私達にシンゴの代わりにダンジョンに行って何度も死んで来いってことね。」


「そんなことは言ってない。」


「……本気で言ってる?」


「……」


ナミが座ったまま、ギルド長を睨む。


「私もですか?」


ファミルがそう言って、教会のクーリアを見る。


「教会からは聖女様が『聖女のダンジョン』を浄化してもらうことが多くの民を救済するのに必要だと判断しました。」


「そうですか……」


ファミルは小声でクーリアから視線を下に落とす。


「ねぇ、ギルド長。」


「……何だ。」


「私は嫌だから行きたくない。」


ナミは腕を組みながら話しをする。


「駄目だ。」


「……A級は仕事を選べるはずだよね?」


「指名依頼だ。」


「指名依頼だろうが何だろうが断るわ。」


「駄目だ。命令だ。」


「……馬鹿にしてるの? それとも、年で耄碌しちゃったのかな?」


「ナミ。聞いて。」


「スミナさんも分かってるよね? ……それなのに言ってきてるってことはケンカを売ってるってことだよね?」


「……? ナミさん?」


ナミがフラフラと立ち上がる。以前の明るいナミとは違い、暗い表情のままで目だけが爛々と輝いている。


「最後に聞くけど……理由は教えてくれないの?」



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