第4話 どぶ掃除…することない
夜が明けていく。それに合わせるかのように、街がまるで生き物の如く脈打ち、呼吸を始めたようだ。人が、さながら全身を巡る血液のように街の目覚めを促している。
シンゴは遠足を楽しみにしている子供のように、昨日はなかなか寝れず、寝不足だ。
初めて宿に泊まったからなのか、これから冒険者として活躍する自分を妄想したからなのか、寝ようと思えば思うほど、あれこれと色んな思いが浮かんできた。
気がつけば空が白み始めてきたので、ベッドから飛び起きてギルドへと向かった。
昨日はギルドを出た後に、どぶ掃除に必要なものを揃えようと、街を散策した。
だけど、武器屋や防具屋、魔法屋等を見て回ったが、これといった物は手に入らなかった。
価格が高過ぎたのもあったが、これから手に入る予定の封印された杖よりも弱かったのだ。そうなると買う必要がない。
魔法についても、封印された杖があれば魔法を覚えていなくても魔法が使える。使い続ければ覚えることが出来るので、高い魔道書を買う必要もなかった。
下水道の魔物も強くないので、俺は宿屋で薪にする予定の材木を頂戴し、道端等に落ちている手頃な石を持てるだけ集めた。
準備はできた。さて、いよいよだ。成り上がっていく俺の冒険がここから始まるんだ…
待っていろよサクラ…
前回は騎士団の所で止められたが、今回はクエストを受注しているので、無事に下水道の中に入れたぞ。
1番乗りかと思ったが、すでに作業をしている人がいるな。汚れないためか、頭からローブを被っており、顔が見えない。
「…絶対、絶対あるはずだし。あれがいるのよ…早く出てきてよ…どこ、どこにあるの?」
…1人で脇目もふらずに作業してるから、邪魔すると悪いな。立ち去ろう。
しかし、どぶ掃除にあれだけの熱意があるとは…たしかに、どぶ掃除クエストで、たま~に珍しいアイテムが拾えることはあるけれど…
…そこまで必要なアイテムって無かったはずだけどな…
う~ん、まぁいいか。放っておこう。俺は材木と、石ころを十個ほど握りしめて下水道へと入っていく。
聖女様の顔を見たいところだが、それよりも封印された杖だ。これがないと始まらないからな。
ゲームの下水道は薄暗く、ひんやりとして悪臭がする記述があったが、
今は騎士団が管理しているおかげか、松明が至るところにあり、明るい。
臭いもほとんどしないので、本当に下水道かと思ってしまう。
しばらく歩いたが、魔物の姿も見当たらない。…これ、クエスト受けたけど、何もすることがないよね?
まぁ、おかげで自分のやりたいことに集中出来るからいいか。
俺は突き当たりの壁に向かって石を投げる。
石は壁に当たり跳ね返る。
別の壁に向かって、石を投げる。跳ね返る。
別の壁に向かって、石を投げる。跳ね返る。
別の壁に向かって…
しばらく色んな壁に投げていると、ついに石が壁をすり抜けた。
「お!?」
もうひとつ石を投げても、壁をすり抜ける。
「ここかぁ。…よし、行くぞ。」
気合いを入れて俺も壁をすり抜ける。
そこは人工の下水道とは違い、自然を活かした洞窟が続いている。
ここは、ゲームの世界と一緒だな…
石を拾って。しばらく進んでいく。
ピシッ
空気がきしむように、張りつめたのを感じた。
…結界の中に入ったな。ここまでは予定どおりだ。
杖に近づいてきた…足取りも慎重になり、緊張感が身体を覆ってくる。
頼む。ゲームの通りであってくれよ…
角を曲がったところに杖があるはず…
あった!
ゲームと同じだ。俺くらいの長さの杖が円形の広場の真ん中に刺さっている。
ということは…
杖の頭上を見上げる。
天井が見えないほど高い。
だが、そこからアイツがやってくるはずだ。
「ふぅ…」
ゲームで出来たんだ。きっとうまくいく…
やり直しの効かない勝負…絶対勝ってみせる!
「…よし!」
右手に杖を握りしめ、気合いをいれる。
「うぅ……おぅ~~りゃぁ!」
杖を引っこ抜く。根が地面を掴んでいたが、
揺すりながら抜くことで抜くことが出来た。
引っこ抜いた杖を掲げる。形もゲームと一緒だな。
…地震だ。天井からパラパラと石が落ちてくる。
ついには天井が落ちてきた。そう思えるような黒い塊が俺に向かって落ちてきた。
…
……ここ!
「不動!」
杖が光り出したと思ったら、黒い塊とぶつかる。
黒い塊は弾みながら、俺を押し潰そうとする。杖に重さが加わり、両手で支えようとするが、徐々に押し込まれていく。
「がぁっ!」
このまま押し潰されると思い目をつぶる。
…生きている。
杖にかかっていた重さが無くなり、弾力のあった黒いものは、壁のように固まっている。
「はは…、勝った…勝ったぞ。」
黒い壁が目の前にまで迫り、周りを覆われている。
「こっからは時間との勝負だな。」
封印された杖が固定した黒い塊は、スライムだ。
杖を手に入れたとたんに天井から落ちてくる、いわゆる初心者殺しだ。
初心者が倒す唯一の方法が、これだ。
「おらぁ~!」
杖に寄りかかり、魔法をぶっぱなす。杖を背中にして両手から魔法を使う。ダブルで魔法を放つことで、この黒い壁を徐々にだが壊していける。
「…後はどれだけかかるかだな。」
両手で魔法をぶっぱなしているけど、まだまだかかりそうだ。
「さっさと倒して、チートしまくってやるぜ!」
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