ヒロインがドブ掃除をして、皆から白い目で見られています。でも、ヒロインは気にしていません。誰かヒロインを止めて下さい。

くじら時計

第1章 長い長いプロローグ

第1話 異世界にきました。

 異世界ってのは、あればいいなと思っていた。


現実が辛すぎたのではなく、異世界には夢があって、

冒険があるから、自分もゲームや小説の世界のように、

異世界に行けば夢が叶うと人生が成功すると思っていたんだ。


でも、これは自分の中で絶対に降りかかることのない火の粉のように、


他人事でいれたから異世界に憧れを持つことが出来ていたんだと気づいたんだ。


寝ている間に終わる映画のようだと分かっていたから幸せを感じていたんだろう。






 俺は


 ある日


 異世界へと


 飛ばされたんだ





 

 

さわ……わ………さわ…さわ…


 好きな人が自分の頬を撫でてくれるように心地よい風が吹いている。


もしくは、フサフサの犬がじゃれてくるかのようだ。


さわさわ…さわさわ…


 顔がにやけてしまう。


この起きているのか寝ているのか分からないまどろみの時間は何て幸せなんだろう。


この瞬間は多くの人と共感できるのではないだろうか。


あぁ、


このまま時が止まればいいのにと何度も思う。


だが、思うたびにアップデートが進むかのごとく、意識が身体全体に張り巡らされてオールグリーンの指示が出るとともに、まどろみから押し出されてしまう。


 





目を開けると草原でした。

草原です。

寝転がっていても気持ちいいほどの草原です。


顔に当たっているのは草でした。


キャンプしてた訳でもないですよ。

自分の部屋でスマホ見ながら寝落ちしたよ。

なのに何でこんな所にいるんだろ…


寝起きのせいか、頭が回らず寝転がっていると顔に何かがあたる。


こそばゆい。


影が頭を覆ってきた。何だろうと上を見上げると目が合いました。逆光で見にくいが、どうやら女の子っぽい何かがこっちを見つめている。


うーん、どこかで見たことあるような。ないような。


考えていると顔に何かが当たってきた。頻繁に。

柔らかいブラシのようなもので顔を撫でられているのが気になって掴んでみた。


「ひゃぁっ…!」


女の子っぽい、かわいい声が…。


ビックリして強く握る。


「…っ…あの、そん…なに、握られると痛いです。」


握っていた物を確認すると、尻尾みたいなものを握っていたようだ。


「あ、あぁ、ごめん。」


とっさに謝って握った手を離す。


ん?尻尾だと?


起き上がって女の子を見ると…あれ?コスプレ?

犬とか、猫の耳が付いてるよ?


つい、手を伸ばして頭を撫でる。心地よい手触り。

耳も触ってみる。


「あ、あの、く、くすぐっったい、です。」


「あ、ごめん。」


赤い顔をした女の子を見て現実に戻る。

知らない女の子の頭を急に撫でるとか、警察案件じゃないか。やべぇ。


「あの、本当にごめんね。何か現実なのか分からなくて」


そう現実…そうだ!ここはどこなんだ?


「ねぇ、ここってどこ?知ってる?」


「…お兄さん…ここがどこって…ここはデオガルド。勇者の国だよ。」


「デオガルド!?

それって俺がハマってたゲームに出てくる国じゃないか!?」


嘘だろ…


「今年は前の勇者様が亡くなってちょうど100年。今は国を挙げて次の勇者様が現れるのを待ってるのよ。」


「…君の名は?」


「私?私はサクラ。お兄さんの名前は?」


「そうだ!サクラだ!」


「きゃっ!お兄さんどうしたの!?」


そうだそうだ!サクラだ!チュートリアルに出てきて、その後のストーリーに出てきそうな名前と演出だったのに、ストーリーに関係ないサクラだ!


一応、仲間になるけれど、ラスボスの前ってタイミングで、他のキャラより弱くて、何でも出来るけど、その分威力が弱くて、器用貧乏なキャラだったなぁ。キャラが好きな人か縛りプレイの人が使ってたイメージだな。


「え?マジでデオガルドなの?」


「だから、そう言ってるじゃん。それで?お兄さんは誰?」


「俺は…臣吾、小鳥遊臣吾(たかなし しんご)だ」


「そう…じゃあ、シンゴって呼ぶね。」


「あぁ。」


「じゃあシンゴ、取りあえず街まで行かない?草原で何してたの?」


「いや、気がついたらここに寝てて。何が何だか良く分からないんだ。」


「へぇ~そうなんだ。でも、こんなところで寝てると魔物に襲われるよ。」


「魔物!?やっぱり魔物って出るの?」


「当たり前じゃない。え、何?そんなことも知らないの?」


「だから、気がついたらここに…」


「任せて!なら、私が色々と教えてあげるわ。取り敢えず、街に向かって歩きましょ。」


そう言ってサクラは手を出してきた。俺はその手を取って立ち上がる。


「ここはデオガルド。勇者の国。

勇者様は100年毎に現れるの。

理由?分からないわ。

でも、昔からそう決まっているの。」


「へぇ~。」


「昔々、この世界に魔王が出現したの。魔王はこの世界を滅ぼそうとした。多くの人類が亡くなったと聞いてるわ。人類が滅ぼされそうになった時に、勇者様が現れたの。勇者様は魔王に立ち向かい、魔王を倒したの。でも、倒しきることは出来なかった。100年後に復活する魔王に対抗出来るように勇者様が作ったのがこの国、デオガルドなの。それでね…」


おっふ。チュートリアルが始まってしまった。


リアルだからスキップできねぇけど、どうやら、マジでゲームの世界に転生?転移?したみたいだな。


…どうしたらいいのか。ゲームと全く同じなのか?そしたら魔王も復活してるはずだし…


そもそも俺が魔王を倒しに行くの?

俺って勇者なの?

え?俺いろんな街に行ってトラブル解決していかないとダメなの?


たしか途中に負け確イベントとかあったけど、

どうなるんだ…俺死にかけるの?


「…あの、聞いてる?」


「うん?あぁ、もちろん聞いてるよ。それで、街に着いたらどうしたらいいか教えてよ。」


草原から、土むき出しの道を歩いて少し経った頃、石の壁が見えてきた。


あれがきっと最初の街、イルハーンの街だろう。

ここから冒険が始まると思うとワクワクしてくる。


イルハーンの街に入る。

門番がいたが、サクラのおかげか、すんなりと入ることが出来た。


「サクラ、あれって何?あの建物って武器屋だよね?あっちは魔法屋さん?ちょっと寄ってかない?」


おのぼりさんの様に、見るもの全てが新鮮で、ワクワクが止まらない。だが、サクラによって止められる。


「シンゴ、街を見るのは後で。とりあえず冒険者ギルドに行かないと行けないから。」


一人だとフラフラ歩いては立ち止まるを繰り返しているので、サクラに腕を引かれて冒険者ギルドまで連れていかれる。


サクラに腕を捕まれてドキッとしたし、人の体温を感じて照れと恥じらいで頭の中がいっぱいになっている間にどうやら冒険者ギルドに着いたようだ。


冒険者ギルドで…テンプレが…起きませんでした~。


粛々と手続きが終わる。まぁ、名前を伝えて終了だったしね。紙みたいな用紙に名前が書いてあるだけのものだしね。あと、何故か文字は日本語。流石ゲームって感じ。ご都合主義万歳。


「無事に冒険者登録出来たね。」


「あぁ、サクラのおかげだな。ありがとうサクラ。」


「どういたしまして。じゃあ、後は頑張ってね」


そう、ゲームの世界では、サクラはここで別れて結局最後まで出てこない。理由も分からないままだったな。


「サクラはこれからどうするの?」


「私?うーん…とりあえずこの街を出て、別の街にでも行こうかな。」


「良かったら仲間になってくれないか?」


最初からサクラがいるとぬるゲーになるじゃないだろうか…器用貧乏だったら、最初から使ってオールラウンダーにすることも出来るはずだし。


「……私が…仲間に?」


お、サクラが考えてる。脈アリかこれは!?


「ごめんなさい、今すぐはムリなの。でも、誘ってくれて嬉しいわ。」


あらら。やっぱりね。でも、なんかチャンスはありそうな感じだな。


「そうか…じゃあ、俺が強くなって再会した時にまた誘うよ。」


「また誘ってくれるの?でも、その時シンゴが私なんか要らないくらい強くなってるかもしれないよ?」


「どうだろう…もし、そうなってても俺はサクラを誘うよ。サクラと旅がしたいんだ。」


「旅かぁ…分かったわ。その時を楽しみにしてる。」


サクラが近づき

「じゃあね」

そう言って、そっと頬に触れ合った。


俺は電気が全身に流れたように動けなくなってしまった。


サクラは顔を赤くして照れたような顔で消えた。

そう、まるでそこにいなかったかのように消えてしまったんだ。


やられた。

やられてしまった。

心を鷲掴みされてしまった。


あぁ、こんなことなら無理やりにでも捕まえておくんだった。

次会うのってゲームの世界だと最後の最後だ。

そこまで会えないのか。


俺は頭をかきむしった。


「クソー!なんで最後まで出てこないんだー!!ラスボスまで進むのに、どれくらいかかるか分からねえじゃねぇかー!!」


頭からサクラが離れない。何とかして会う方法はないのか?そればっかり考えるがいい案が思い付かない。冷静に考えようとするが、サクラの顔がチラチラと浮かんでは消えていく。あぁ集中できねぇ。


「何処かで頭を冷やすか…」


ポンポン


「はい?」


「頭を冷やす場所を提供しますよ」


笑顔で連れていかれたのは独房だった。


「道の真ん中で大声を出して暴れてるって通報があったからね。今晩はここで大人しくしてなさい。」


頭を冷やすには最適の場所を提供してもらえたようだ。

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