第12話 加護の話し


…ハッ!


ガバッ!


「あ、目が覚めた?」


ナミの声がする。


「ここは?」


「ダンジョンの入り口だよ。」


俺は気がついたら、ダンジョンの入り口にいた。


たしか…毒をくらったはず…あっ!!


「ナミ!なんで俺を殺した!?」


「え?死んでないじゃん?」


「ダンジョンの中でだよ!」


初めての死に戻り。


あれが死に戻りか…もぅ、味わいたくない。


首もとを手で触り、繋がっていることを確認する。


「え?でもシンゴが頼むって言ったじゃん。」


キョトンとした顔でナミが言う。


「頼むって言ったけど!あれはポーションをかけてくれって意味だよ。」


「何で?」


「ん?何が?」


「何でポーションが欲しかったの?使っても死にかけてたら意味ないじゃん。」


「でも、使ってたら死ななかったでしょ?」


「…そうね…たぶん、死ななかったかもね。」


「じゃあ、普通ポーション使うでしょ!?何でいきなり首を斬るかな?」


「え?普通使わないよ。」


「え?」


「普通はあんなところでポーションなんて使わないよ、もったいない。」


「もったいない!?人が死んだんだぞ!」


「生きてんじゃん。」


「それはダンジョンだからだろ!」


「…そうだよシンゴ。ダンジョンだから使わなかったんだよ。」


「あ?何で?」


「ダンジョンでは私達は死に戻りが出来るの。意味分かる?」


「何度でも挑戦出来るってことだろ?」


「そうよ。だから、ダンジョンでポーションを使う時は、死に戻りが出来ないダンジョンか、死に戻りすると再度ダンジョンを攻略するのに時間がかかりすぎる時のどちらかしかないわ。」


「…じゃあ、強い中ボスがいたらどうするんだ?」


「勝つまで続ける。」


「…負け続けたら?」


「勝つまで。何度でも。」


「…ずっと勝てなかったら?」


「…その時は諦めて違うダンジョンをクリアするわ。」


「何でそんなにストイックなの?」


「それはね、加護がそうなってるから。」


「加護が?」


「私の加護は『聖戦』なの。」


「『聖戦』?ナミの加護ってそんな名前だっけ?」


「元々は『戦いの女神』って加護だったの。」


「あぁ!たしかにそんな名前の加護だったな。じゃあ、加護の名前が変わったのか?」


「そうよ。」


「何で?」


「…まぁ、色々とね。」


「…ふ~ん。」


「ふ~んって…興味ないの?」


「今すぐに聞かないといけない話しって訳ではないんだろ?『聖戦』の加護でストイックになっている。それだけ分かればいいよ。」


「まぁ、そうね。」


「加護の話しで気になったのが、聖女様の加護なんだが…」


「聖女様の加護?」


「冒険者と握手すると、冒険者が加護を期間限定で手に入るんだと。」


「…?握手するだけで?」


「そう。握手だけで。」


「…それは不思議ね…。加護ってそんな簡単には付与できないはずなんだけど…」


「それはですね、私の加護がそうだからです。」


「聖女様!」

「ファミル!」


「私の加護は『どぶ掃除の聖女』と言います。」


「「……?」」


俺とナミは顔を見合せ、そして首をかしげる。


「冗談ですか?」


「冗談ではありません。教会で奉仕として炊き出しを行っていた際、何となくではありますが、ここに来なければいけないと思ったのです。」


「真の黒幕現象ね。」

「そうだな。」


「黒幕現象…ですか?」


「ファミルが分からなければいいわ。それで?」


「この下水道で何かを見つけなければならない。そんな気がしてきて、1週間ほど探し続けました。」


「それで?何か見つかったの?」


「はい。この卵です。教会からは霊獣が生まれる卵と聞いています。私はこの卵を見つけた時に今の加護が手に入ったのです。」


「祝福された卵か…この下水道でも拾えるんだね。知らなかったわ。」


「普通はムリだぞ。」


「そうなの?」


「この下水道で拾える確率は天文学的な数字だったはずだ。」


「何それ…ファミルはむちゃくちゃ運がいいってこと?」


「それもあるが…なるほど…」


「シンゴ、1人で納得してないで理由を教えなさいよ。」


「いや、俺も確証がないんだが…レアな魔物やレアなアイテムってあるよな?」


「あるよ。私の装備もそうじゃんか。」


「そうだな。でもその上にシークレットってあるの知ってるか?」


「シークレット?何それ?」


「この下水道だと、色んなアイテムがある一定の確率で落ちている。クエストを受けるてクリアをすると、その確率に応じて抽選されアイテムが手に入る。そうだよな?」


「それぐらい常識よ。同じクエストを何度もやってレアなアイテムを手に入れたりするでしょ。」


「その中に天文学的数字でシークレットがまぎれているんだ。」


「それが、下水道だと祝福された卵ってことよね?」


「あぁ。だが、シークレットはそれだけじゃないらしい。」


「…だけじゃない?らしい?」


「俺はシークレットを引いたことがないが、引いたというヤツが言うには称号が手に入ったと言っていたんだ。」


「称号…それが『どぶ掃除の聖女』ってこと?」


「あぁ。『聖女』は元々だったから『どぶ掃除の…』というのが称号じゃないか?」


「そうです。祝福された卵を手に入れた時に称号を手に入れたと神託が下されました。」


「『どぶ掃除』の称号はどういった効果が?」


「はい。自分と他者のアイテム獲得率が向上するというのが称号のチカラです。」


「…どれぐらい上がるか、にもよるけど強力なチカラだな。」


「そうね。レアなアイテムを獲得するには使えるわね。」


「そうみたいですね。」


「…ところで聖女様はどうしてここに?」


「はい。私もダンジョンに入ろうと思っています。」


え?なんで?


「ファミルもダンジョン行くの?いいね! 行こう行こう!」


ナミがファミルと手を繋いでダンジョンに入っていく。


「シンゴ行くよ!」


「嫌だ!」


「一回死んだだけでワガママ言わないの!」


ナミが手をつないで俺を引っぱっていく。


いやぁ~~


た~す~け~て~


俺は引きずられる形で再びダンジョンへと入ることになるのであった。


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