令和四年五月場所に見え隠れする「強さ」

 五月場所は横綱の照ノ富士が十二勝三敗で優勝しましたね。十五日間磐石とは行きませんでしたが、最後にきっちり仕上げてきて、さすがに横綱、というところです。

 この場所における「闇」をまず書いていきますが、大関三人はどうしてしまったのか、というのが一番気になる。とにかく負ける。終盤に大関同士が組まれても、優勝争いではなく、負けた方が負け越す、そんな変な競い方をしている。まぁ、好不調はあるでしょうが、何が原因だろう。御嶽海はどこかを痛めてるらしい。貴景勝はまだ首が悪いか。正代は何なんだろう? これは僕だけの思いじゃないと思いますが、大関っていうのは、横綱に上がる使命みたいなものがあって、三役が勝ち越すみたいに、八勝七敗でなんとかなった、みたいなわけにはいかない。横綱とは少し違った意味で、大関には優勝が求められる気がする。気がする、というのはここのところ大関が強かったことがないので、錯覚かもしれない、と疑うからですが。奮起に期待、と言いたいけど、三人がここから立ち直れるかは不明。

 さて、今場所の「光」を見ていきましょうか。僕がここ数場所、注目している辺りが頑張ってくれて、個人的には満足の場所だった。隆の勝、霧馬山、ここが強かった。隆の勝は今場所、あと一歩で賜杯に名前が残せそうだったなぁ。さすがに最終盤はプレッシャーで固くなったか。霧馬山の成績は僕としては文句なし。大栄翔も最後に顔を出して、さすがに充実している感じ。豊昇龍は勝ち越して、このまま三役で揉まれているうちにもう一皮も二皮も剥けてくるでしょう。それにしても、今場所は佐田の海が急に伸びてきて、旭天鵬を思い出しました。相撲ってこういう不思議がたまにあって、興味深い。何かの祝福みたいなもので、理屈じゃない。

 そんなところで、ちょっと照ノ富士について書いていきましょう。前も触れたかもしれませんが、この力士はセオリーを無視してくる辺りがすごい。セオリーというのは、「双差しになる」ということで、これがどうしても照ノ富士には通じない。というか、差してしまうと危ない。大半の力士のよくある形では、片方を差されても引っ張り込むとか抱えるとかして、もう一方の腕を使うことで勝負すると思われる。しかし照ノ富士は引っ張り込まず、抱えず、極めに行く。それももう一方が差されても、極めにいく。そこから寄って極め出しに行くし、極め倒してもいい。今場所は極める形で吊ったりしていた。力士の本能というか、基礎的な技の形として、双差しになるのは絶対有利なはずなのに、これが照ノ富士に通じない。そして素人の僕にはどんな対処法があるか、全く分からない。浅く差して、とか、前回しを、とか、言えるけど、そう簡単にはいかないらしい。照ノ富士の今場所の黒星は押し相撲が相手なので、四つ相撲の力士は、四つ身での攻略法を探してはいるはずだけど、照ノ富士対策は想像よりも難しいらしい。

 相撲っていうのは大概が事故だと思われる。廻しのこの場所を取れば良い、と全ての力士は知っている。知っているけど、それが出来ない。立ち合いでの、両者の当たる強さや角度、当たった後の体の不規則な動き、そんな全てが「意図的」な戦い方を否定してしまう。ただ、強い人は意図的に、管理できる形に持っていくと思う。この辺りにあるいは「後の先」に通じる何かが見え隠れする、ような気がする。極端ですが。

 それにしても、大関候補に挙げられる力士はいても、横綱になりそうな人がいないのが、なんとも虚しい。まぁ、平幕の段階で「この人は横綱になる」なんて言われる人はいないので、僕の勝手な落胆に過ぎないのですが、目が覚めるような強い人を僕は求めています。個々の技能を見ているのも楽しいのですが、何もかも根こそぎにしていく強い人が見たい。これは夢なのかもしれない。願望というか、もはや妄想というか。

 来場所は何を見ればいいのやら。大関が角番を脱出するかを見るのも、なんとも言えない寂しさがあるな。僕としてはとりあえず、豊昇龍、霧馬山を見るつもりでいます。こういうことを言うと不審かもしれませんが、モンゴル人はなんだかんだで面白い。日本人にはない身体能力が発揮される場面が多いので、相撲が面白くなる。

 やはり、モンゴル人は良い。良いぞ。

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