令和四年十一月場所における、ある種の運命

 令和四年十一月場所は貴景勝、高安、阿炎の優勝決定巴戦の結果、平幕の阿炎が優勝しました。令和四年は毎場所、違う力士が優勝し、さらにここまでの三場所は平幕優勝ということで、さて、どういう時代だろう。ちなみに年間最多勝は若隆景です。

 まずは十一月場所を振り返りますが、はっきり言って、僕の中では十中八九、豊昇龍が優勝すると思ってました。なので終盤、ガタガタっと星を落とした時は、まさかと思いましたね。相撲が乱れましたが、豊昇龍という力士は負けん気が強いし、緊張とか重圧に乱されるとは思えなかった。しかしさすがに人間でしたね。優勝の意識がまとわりついたのでしょう。それはともかく関脇で十一番勝ったので、大関には一歩前進です。来場所も頑張って欲しい。

 というわけで、終盤に豊昇龍、王鵬が星を落としたことで、にわかに高安が優勝する未来が見えてきた。解説で北の富士さんが「宿願」と表現していたけど、これほど運に見放される宿願もない。終盤では上位との割が全部終わってるのに、千秋楽の本割が終わってみれば二人に追いつかれている。そして決定戦で負けた。僕は運命論者ではないつもりですが、高安が戦っている相手は力士ではなく、自身の「宿命」なのでは、と思ってしまう。相撲を見ていると感じるけど、おかしいほど勝てる人がいたり、どうしても大きな一番を落とす人がいたりする。大関になれそうなのになれない、とか。高安はそういう、なんというか、悪い流れと戦っているように見えた。それはもう、相撲の技術とか、体の状態とか、精神的なものではなくて、もはや、運、運命、としか言えない。すごく残酷なことに。ただ、最後の最後までは上り詰めている。あと一歩で優勝できそうではある。高安は僕はあまり応援してないんですが、大関にもなった人ですから、神様が微笑んでもいいと思っています。

 阿炎に関しては、あまりにもダークホースだったので、僕はチェックが追いついてなかった。終盤になって名前が上がってきて、気付くと巴戦で、勝って、うーん、高安とは反対にこの場所は阿炎が神様に祝福されていた。師匠も嬉しかっただろうなぁ、と思うとちょっと感動した。錣山親方と阿炎の関係って、どことなく、ちょっと面白いんですよね。いい恩返しができてこちらも嬉しい。

 ここからは暗い話題に入りますが、角番の大関の正代は負け越して、来場所は関脇です。そして、今場所に関脇に落ちて、十番勝てば大関に戻れた御嶽海は負け越したので、大関には戻れません。なので、来場所の番付は一横綱一大関になります。まぁ、正代と御嶽海は怪我なのか何なのか、ほとんど力が出ませんね。あまり強いことは言いたくありませんが、気迫みたいなものがあまりない。淡々と取るというか。ガムシャラでもない。かなり前になりますが、貴景勝が大関に上がった時、この人は本当に大関で相撲が取れるのか? と思いました。変則的な押し相撲で、上背もないし、というようなあたりが、どうも、と思っていた。でも蓋を開けてみれば、正代よりも、御嶽海よりも、貴景勝が安定している。これはなんとも不思議ですが、これが大相撲なんでしょうね。

 三役に目を向けてみると、若隆景が少し難しかったか。しかし崩れはしない。この星を落とさない辺りが実力なんでしょう。今場所は三関脇、四小結という番付で、終わってみると三役陣は明暗が別れた。ただ、平幕上位で勝ってる人が何人もいて、来場所の番付もわからない。意外なところでは、若元春という人は場所中は上位では厳しいかな、と見えるのに、場所が終わってみるとちゃんと星を上げて番付を上げてくる。そろそろ三役に上がれるのでは。残念なところでは、隆の勝が番付を下げていて、おそらくどこかが悪いんでしょうけど、また復活して欲しい。

 この場所の後には意外な引退もあって、千代大龍、そして豊山が引退しました。どちらもまだ取れるような気がするけれど、本人が決めることですから、何も言えません。こうして少しずつ、新しい世代に場所を譲るんでしょうね。

 それにしても、この一年は正当的な相撲を取る力士より、突き押しの相撲が結果を出したのでは。これは俄然、面白くなってきましたね。突き押しが優勝するのもいいんですが、突き押しの技術は四つ相撲に応用できるので、技術がまた発見されそう。それこそ、豊昇龍がうまい突きを覚えると、もっと上手く自分得意の四つ身になれるようになるかも。琴ノ若なんかもそうですね。

 これはちょっと余談ですが、伊勢ヶ濱部屋の翠富士、錦富士という二人がいまして、タイプは違うんですが、ここからまた少し、伸びていきそうな予感がします。とにかく部屋はいいベテランがいるので、日進月歩で強くなってもおかしくない。そう、翠富士が逸ノ城に勝った相撲は凄かった。深く二本差して、しかし重くて押せないか、と思ったら左の回しを放してハズ押しにして押し出した。体は小さいけど力はあるんですよねぇ。あれはいい相撲だった。

 実は新入幕の熱海富士に期待してましたが、ちょっと厳しい場所になりましたね。まぁ、また上がってくるでしょう。二場所目の平戸海という人は有望株かも。結構、本格的です。叩き上げじゃないかな。こういうのが出てくると、相撲ファンは喜ぶものです。

 令和四年の大相撲は、乱世でしたね。この乱世を誰かが平定していくのが、令和五年の大相撲になるのでは。非常に楽しみです。

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