令和四年九月場所の結末と番付大渋滞

 令和四年の九月場所は玉鷲の平幕優勝でした。この人は本当に歳を取らない、鉄人です。まだ頑張れそうで、見ているこちらが励まされる、良い力士です。

 さて、この場所の一つの特徴が、三関脇、三小結という番付を作ったところです。これが場所が終わった時、とんでもない苦渋を番付編成に強いるとは、なかなか予想できなかったです。今回は三役の星勘定について書きましょうか。

 場所が終わってみて、まず負け越したのは、関脇の大栄翔が一点の負け越し、小結の阿炎は休場、逸ノ城は大きく負けました。つまり小結は二人が平幕に落ちて、大栄翔がおそらく小結に落ちる、となるのが今までのイメージ。で、ここからがややこしいのは、三役で勝ち越したのは関脇の若隆景と豊昇龍、小結の霧馬山です。関脇の地位はほぼ上がないので、勝ち越してもそのままですが、さて、霧馬山はどうしたら良いのか? さらに問題をややこしくするのは、大関から陥落した御嶽海で、次の場所は関脇です。あれ? おかしいな? 関脇がまた三人になる? 霧馬山は小結に据え置き? これが三役の地位の大渋滞とでも呼ぶべき状態なんですが、驚くべきは平幕で翔猿が大勝ちし、玉鷲が優勝して、玉鷲は他の力士との兼ね合いで東筆頭でも良いかもしれないけど、翔猿が東筆頭で二桁勝ったので、どう考えても三役に上げる必要がある。あれ? 霧馬山が小結に据え置きで、大栄翔が小結に下がって、翔猿が上がって、小結も三人になる? もう、まったく分からない。どうやら来場所も三関脇、三小結がありそうな空気ですが、何が何やら……。誰が本当に強いんだ?

 この場所で若隆景が二桁勝ったのは、かなり明るい出来事でしたね。三連敗から始まってどうなるかと思いましたが、安定を取り戻した。この人はあるいは大関に上がれるかもしれない。今回が最大のチャンスでは。兄である若元春も力が伸びていて、この二人は部屋の稽古場で高め合えるのではないだろうか。良い環境です。それはそうと、玉鷲の若い衆と二対一で稽古をするのは凄いな。謎な稽古ではあるが。話を戻して、豊昇龍はこの場所は少し苦労したかな。終盤、もう、一点の負け越しくらいでなんとか、などと見ていて思いましたが、なりふり構わずに勝ちに行きました。まぁ、まだこれからです。この辺りが次の場所の焦点になるんじゃないかと個人的には思います。霧馬山も強くなってきた。

 ここらで暗い話題に触れざるを得ないですが、今場所は大関の正代と御嶽海は、驚くほど相撲にならなかった。ここまで崩れるか、と思うほど、すごい崩れ方だった。どこかを痛めているにせよ、何とも言えない、言葉がないほどでした。大関昇進の伝達式で、使者の人に力士が口上を述べるけど、大抵は「大関の地位を汚さぬように」という趣旨のことを言います。今までそれをただ聞き流してきたけど、正代、御嶽海のこの場所の相撲は「大関の地位」に対する印象をガラリと変えた。僕の中では良くも悪くも変わった。これは今の相撲オタクがみんな陥ってしまうし、容易に抜け出せない事態で、魁皇とか千代大海は大関に長くいたし、琴奨菊、豪栄道も短命ではなかった。何より、ものすごい負け方はしなかった。おそらく、しそうになったら休場したのでは。大関で八勝七敗という成績はだいぶ渋いところですが、今場所の四勝十一敗は、理解不可能な星と言っても良い。僕がここ十年に見てきた大関のイメージは、どうやら完全に崩れ去った。大関とは何なのか、と考えさせられたのが、今場所の負の側面です。

 横綱の照ノ富士は途中休場で、さて、次はどうなるのだろう。これもやはり難しい認識の問題で、照ノ富士に白鵬と同じものは求められない。では、見ている側は何を見れば良いのか。もちろん、勝つところは見たい。では、勝てなくなったら? 横綱の引き際がまた話題になるのでしょうけど、どんな身の引き方が良いかは、ちょっと分からないし、これは本人が決めるしかない。と言いながら、僕は白鵬が、怪我から立ち直れずに休場を繰り返してずるずる相撲を取るのかな、と思ったこともあった。けれど、それは現実にはならず、まさか全勝優勝で引退するとは、全く思わなかった。なので照ノ富士ももしかしたらまた回復するかもしれない。これは信じて待つ、信用する、しかない。ただ、照ノ富士について回る「復活」とか「不死鳥」みたいな印象は、かなりな重荷なんじゃないかな、と想像したりもする。すっぱりやめることが、さて、許されるのだろうか。もっとも、許すも許さないも、本人が許せるか許せないか、でしかないのですが。

 最後にこれは記録しないといけませんが、高安はこの場所も一歩、賜盃に届かなかった。この人は優勝できそうでも、どうしても最後の一歩が出ない。幕内最高優勝はこの人のまさに「宿願」でしょうが、これからどうなるのだろう。僕は何となく「白鵬史観」でここ十五年の大相撲を見ちゃうけど、「高安史観」で大相撲を見るのも面白いかもしれない。そんなことを思ったりしました。

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