令和四年七月場所の言葉にできない展開

 令和四年の七月場所は逸ノ城が十二勝三敗で優勝しました。この人は優勝できないのではないか、と思ったりもしましたが、巡ってきましたね。それにしても、重い。この人ほど重い力士はなかなかいない。

 この場所の逸ノ城の相撲で凄かったのは、照ノ富士との一番でしょう。左上手を引いたのがまず良かった。その後すぐに照ノ富士が右を抜いて極めにいきましたが、これはだいぶ際どかったかもしれない。逸ノ城の腕が。ただ照ノ富士からしても、逸ノ城を極め出したり、極め倒すのは難しかったのでは。この辺りは素人にはわからない。それこそ照ノ富士が逸ノ城の腕をへし折るつもりで本気で極めれば、あるいは変わるかもしれない。非常に難しい、答えの出ない応酬でした。

 この場所の逸ノ城は、後半に運が向いてきた感じはありましたね。前半が横綱、大関、三役とかとでしたが、ここをねじ伏せて行った後、後半は休場者が出て、手強い相手が減ったのでは。ただ、この場所の逸ノ城は誰が相手でも容易に土俵を割らない気もしましたが。覚醒した、という表現で良いのかな。いやはや、お見それしました。

 この場所は大関二人がカド番で、御嶽海は途中で新型コロナで休場したのですが、正代が何とも言えない形になった。序盤は一勝四敗。解説の人、北の富士さん辺りも言ってましたが、土俵下に負け残りになると、顔も虚ろなら、目も虚ろ、戦意喪失、意気消沈、もはや諦めたか、と見ていて思いました。そしたら六日目から千秋楽まで、九勝一敗の結果になり、終わってみれば十勝五敗です。訳わからないですが、相撲ってこういうものなんですよねぇ。うーん、六日目に良い相撲で勝ったのを見た時、変わったかな、と思ったりしましたが、本当に別人になった。この人はちょっと、変わった人です。

 今場所の相撲で印象深い相撲を挙げると、霧馬山と若元春でしょうかね。取り直しの相撲の攻防が凄かった。まぁ、取り直しになる同体の相撲も、最後、霧馬山が謎の粘りを見せたわけだけど、この二人の足腰の強靭さは凄いものがある。こういう相撲が見たいんだけど、最近はなかなかありませんね。今の相撲は今の相撲で面白いですが。

 僕が注目している中では、豊昇龍が惜しかった。千秋楽、翠富士に勝てば三役で十番でしたが、負けてしまって九勝六敗。まぁ、勝ち越してますし、こんなものでしょう。あと二場所か三場所、上位で揉まれていれば、また変わると思います。しかし、この人は最初、右下手で力が出そうでしたが、ここのところは右上手でも取りますね。これは良い変化です。バリエーションができるのは良い。立ち合いの当たりも悪くないのでは。非常に楽しみになってきた。相撲とは関係ありませんが、この人はものすごく怖い顔をするので、それも好きだ。やはり気迫がある力士、殺気のある力士は何か違う印象がある。

 この場所の相撲で驚いたのは照ノ富士と宇良の相撲で、宇良が双差しになって、照ノ富士が抱える姿勢になったところで、素人の僕でさえ、ここで宇良が肩透かしにくる、と分かりました。なので、照ノ富士は逃さないように体を寄せていくだろうと思って見ていたら、照ノ富士が想像の斜め上をいった。なんと、宇良が左の差し手を抜きながら肩透かしに行こうとするのを、宇良の左腕、肘より少し上辺りを抱えたまま強烈に締め付けて、差し手を抜かせない。宇良は肩透かしに行ってるので自然と後退して、しかしもちろん、肩透かしの形にならないので、照ノ富士が寄り切った。こんな肩透かしへの対応は初めて見た。ちょっと、絶句というか、愕然としたな。力でねじ伏せたというか、うーん、凄かった。

 照ノ富士といえば、若元春との難しい相撲もありました。あれは行司が悪いと僕は思っている。筆舌に尽くし難い、不可解なやり方だった。しかしもう終わったことです。しかし悔しい。

 さて、今場所は、場所中に新型コロナ陽性者が出て、部屋ごと休場になるので、最終的には数えられないほど関取も休場する事態になった。一番難しいのは来場所の番付で、負け越してから休場した人はともかく、七勝で休場した人とかはどうするんだろう。個人的には、御嶽海が休場になった時は、もはや御嶽海は来場所は関脇で良いのでは、と思ったりしましたが、場所が終わってみると、どうも御嶽海は来場所も角番が妥当かな、と思い始めてます。しかし御嶽海は、正しい表現かは微妙ですが、幸運だった。二ヶ月あれば怪我も治るでしょうし、負けが混んでいたのを解消できたのも幸運。しかし、来場所はどうなるんだろう。国技館でやるのかな……。

 あまり話題に上がりませんが、貴景勝は一応、今場所の結果は準優勝なので、来場所は綱取りになりそうだけど、どうでしょうね。貴景勝の安定感が信用できないのでうまくイメージできないですが、十四勝、もしくは十三勝くらいで優勝すれば、横綱になるのだろうか。照ノ富士に勝つことは絶対条件になりますが、七月場所の千秋楽みたいなこともある。貴景勝の相撲も、最初に見た時は謎しかない変な突き押しの相撲でしたが、大関に相応しい人になりました。ここでもう一度、爆発して欲しい気もしますね。

 というわけで、令和四年の七月場所はなんとか、千秋楽を終えました。完全なる脱線として書いておくと、北の富士さんのトークショーがあったら面白いのになぁ、としみじみ思った。このお爺ちゃんは非常に面白い話をする。長生きして欲しいです、心の底から。

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