令和五年十一月場所の新たなる希望

 令和五年の十一月場所は十三勝二敗で大関の霧島が優勝しました。先に星を落としたので、勝手に「これは無理か」と思っていたのですが、安定して星を積み重ねてするするっと優勝しましたね。この優勝によって来場所は文句なしの綱取りの場所で、この場所の安定感が続けばうまく行くのでは? と思ってます。あとは相撲の神様次第です。

 この場所は全場所に優勝した大関の貴景勝が、綱取りなのか、そうじゃないのか、分からないままスタートしましたが、この貴景勝の夢は儚く散りました。精彩を欠くというほどでもなかったと思うのですが、万全なら、あるいはもう一段階、強い相撲が取れたかもしれません。綱取りってやっぱり難しいのかも。しかし貴景勝はよく頑張っていると勝手に思っています。大関の地位を守っているし、力があるのは間違いない。なんとかもう一つ、大輪の花を咲かせて欲しい。

 この場所の三人目の大関、豊昇龍は、終盤までいいところにつけていましたが、もう一歩、足りなかったですね。僕が見た中でこれはと思ったのは、翠富士との相撲です。当たって、右で下手を引いて、巻き替えられて上手に変わっても強引に投げましたが、これが豊昇龍の強さです。とにかく右でまわしを引く、これが豊昇龍の必勝の形でしょう。そこから逆算すると、豊昇龍は何らかの形で右でまわしを引けるようにしていけば良いわけですが、さて、どんな方法があるか。最初からの右差し、張り差し、突いてからまわしを求める、おっつけ、と幾つかバリエーションがあるように思えますが、どれかに突出して上手くなった時に、豊昇龍の型が出来上がるのかもしれません。そしてその型が生まれた時に、もっと強くなるし、もう一つ上の番付に上がれるかもしれない。いずれにせよ、この人はやはり面白い。

 さて、この場所では平幕の熱海富士が先場所に続いて躍動しました。不意に力がついてきて、驚きますが、実はかなり前に熱海富士の体を見た時、感じたことがあった。その時は熱海富士が新入幕の頃で、あけすけにいうと、「おっぱいが垂れてるな」という感想でした。そういう体型なのかな、と考えてたんですが、この場所の熱海富士はそのおっぱいが少し張るようになっていて、少し体型が変わってきた。相撲では「体が張っている」ということが、その力士の仕上がりの判断基準であるんですが、まさに熱海富士は体が張ってきた。まだ若いし、ガンガン稽古すればもっと体が仕上がって、力が出せるのでは。二場所連続で優勝に手が届きそうで、しかし届かなかったのは悔しいだろうけど、まだ終わっていないので、稽古に励んで欲しい。まだ型とかはどうでも良いからがむしゃらに行け! というのが僕が言いたいことです。

 三役では、若元春が脱落してしまい、どうやら足首が悪い様子。なんとか頑張って欲しい。弟に負けないように、とか付け加えてしまうと違う気もするけど、とにかく頑張れ。これはテキトーな意見ですが、豊昇龍と若元春で稽古していればかなり良さげ。そこに霧島とか参加すれば、面白くなりそう。琴ノ若とかも参加して欲しい。夢の稽古場、ですね。関脇の琴ノ若は少しずつ力がついてきたようで、大関になる未来もぼんやりと見えてきたかも。とにかく怪我をしないように、稽古に励んで欲しいところ。とにかく大相撲は怪我が怖い。

 この場所において僕が見ていて一番元気が良かったのは豪ノ山です。この人は本当に元気いっぱいの相撲をとっていて、見ていて面白い。押し相撲ですが、安定していて非常に良い。他では、平戸海も頑張っていて、見ていて嬉しい。一年後には三役にいて欲しいかな。三役といえば、来場所にはあるいは宇良が新三役に上がれるかもしれない。これは北の富士さんも嬉しかろう。そう、北の富士さんが姿を見せてくれないので、大相撲ファンとしては心配しながらヤキモキしてます。また解説に戻ってきてくれ。

 これはちょっと脱線しますが、錦木という人が意外に強い。ベテランですが、見ているこちらが力をもらえる。玉鷲もまだまだ元気で、いつの間にか僕は長く相撲を取っている人が好きになってきたかも。若くて溌剌としているのも良いけど、百戦錬磨のベテランも面白いです。僕も頑張ろうと思わせる、そんな魅了がやっと分かってきたかも。

 この話題はあまり触れたくないのですが、横綱の照ノ富士はこの場所も全休でした。さすがに次に土俵に立つ場所は進退が問題になる場所でしょうけど、かと言って、個人的な印象だと来場所は出てこないのでは。とにかく治るまで、万全になるまで、出てこない気がする。それじゃあ困るんだけど、いや、僕は少しも困らないけど、僕としては強い照ノ富士をもう一度、見たいと思っている。この辺りはもはや個人の価値観次第です。横綱審議委員会は激怒するかもしれないけど。

 十両では、大の里は来場所、新入幕でしょう。この人は番付を駆け上がりそうで、注目です。かなり充実しているので、幕内力士も圧倒しそう。蓋を開けてみるまで分かりませんが、来場所の注目点の一つです。

 そういえば、この場所は十四日目と千秋楽の割が前の日の取り組みが全部終わってから組まれました。その結果、十四日目に霧島と熱海富士という実質的な優勝決定戦が組まれて、千秋楽の結びが霧島と貴景勝という大関同士になりました。たぶん、誰も明言していませんが、おそらく千秋楽の結びを大関同士にするための苦肉の策なのでは。これは判断が難しいところで、千秋楽に優勝をかけた相撲を見せるか、それとも伝統に従って番付の最上位の力士同士の千秋楽の結びにするか、というところで、どうするのが正解かは分からない。僕は千秋楽の結びは今の番付でいえば横綱と大関、もしくは大関同士の相撲であった方が良いと思う。ただこの場所みたいな展開になると、千秋楽の相撲、割が少し微妙にはなる。この辺が伝統と興行のせめぎ合いなんでしょうね。

 そんなこんなで、令和五年のお相撲も終わってしまいました。来年を展望すると、もしかしたら横綱が生まれるのでは、と思ったりするし、まったく新しい顔ぶれで大関争いが展開されるかもしれない。とにかく楽しみが尽きないのが、大相撲のいいところ。今年もお疲れ様でした。

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