令和五年九月場所の夢と苦闘

 令和五年九月場所は全休から土俵に戻った、大関の貴景勝が十一勝四敗で、平幕の熱海富士との決定戦の末、優勝しました。が、とにかくこの場所は誰もが苦労した場所になりましたね。

 序盤は先場所、優勝決定戦で豊昇龍に負けた北勝富士が勝って行ったので、これは今場所こそ優勝か、などと思ったりしましたが、中盤で失速。中盤は高安が来るかも、と思ったりもしましたが、その時には熱海富士が星を伸ばして、高安に勝った辺りで、主役が熱海富士だと見えてきた。かと思ったら最終盤まで高安の名前が出てくることになるわけで、なかなか、相撲は難しい。

 貴景勝が何をしていたかといえば、時々、星を落として、僕の感覚では終盤の役力士との割で優勝から遠ざかるのでは、という印象だった。しかし進んでみると、優勝争いの先頭の熱海富士と当たったりしたものの、千秋楽にはあるいは熱海富士が負ければ決定戦にもつれるか、という星だった。これは意外というか、凄いな、と思いましたね。執念というか、ありきたりな表現ですが、大関の意地、だった。

 そして迎えた千秋楽、本割りで熱海富士が負けて決定戦が決まり、巴戦になるかな、と思ったら、貴景勝と熱海富士の決定戦になった結果、貴景勝が立ち合いで引きながらの叩き込みで勝つ、という、かなり色んな意味でドラマのある終幕でした。

 熱海富士の優勝という夢は儚く消え、貴景勝の苦闘は最後の最後で相撲の神様を自分に向けさせましたね。

 この場所、新大関の豊昇龍が、この場所で一番、苦労した力士だと思う。序盤から体は動くのに白星に繋がらずに、負けが混む、かなり苦しい内容。これはちょっと、負け越しかな、と僕は悲観していた。というか、悲観しかなかった。それが終盤になると、盛り返して、千秋楽を七勝七敗で迎えて、この人は本当にしぶといなと感心したというか、もはや呆れました。千秋楽は北青鵬と当たって、北青鵬は勝てば決定戦でしたが、豊昇龍が三所攻めみたいな技を繰り出し、鮮やかに勝った。というわけで、新大関の場所は八勝七敗と、多分、本人からすれば不本意でしょうが、苦しい中でよく頑張ったと思います。褒めてあげたい。来場所、また頑張って欲しい。

 この場所は大栄翔、若元春、琴ノ若の三人が関脇で、琴ノ若が先場所、小結で二桁の星だったことで、このまま大関に近づくか、と思いましたが、この場所は跳ね返されました。大栄翔はいい具合で、若元春も悪くはないけど、あと少し星が欲しい。この辺りの大関争いは来年の半ばくらいまで続くような気がしますね。一人、誰かが上がりそう。僕としては若元春を推したい。この人の相撲はやっぱり好きですね。何がなんでも左四つになろうとして、実際、左四つになるので、見ていて面白い。相撲中継で話に上がりましたが、豊昇龍が若元春と稽古をかなりしているらしく、豊昇龍は右で回しを引けば強くて、若元春は左四つですから、いい稽古になりそう。豊昇龍の側からすれば若元春相手に右四つになる力が欲しいだろうし、若元春からすれば豊昇龍相手に左四つになってどうなるか、試せるのはかなり良いのでは。こういう相性を見ていくのも大相撲の見どころの一つです。

 この場所は十両が少し面白くて、新十両の大の里という人が九連勝くらいして、大器の片鱗というか、今後にかなり期待が持てそうです。身体が完全に出来上がってるので、来年を幕内で迎えるかも。注目です。

 話を幕内に戻すと、幕内二場所目の豪ノ山という力士がかなりよく動く。なかなか上位には通用しませんが、この人は近いうちに三役になっても良い。僕が気に入っている力士を他に挙げると、湘南乃海と平戸海です。二人とも負け越しましたが、平戸海は腰の構えがなかなか良いので、稽古次第では三役に上がれそう。いや、上がって欲しい。

 怪我人に関しては、照ノ富士はいよいよ進退が議論されるかもなぁ、と思いながら、しかしこればかりは避けて通れない、横綱の定めです。先場所、新入幕で優勝争いに絡んだ伯桜鵬は右肩の手術の影響で、この場所は全休でしたが、素人目線で見ると決断が遅かったかな、とは思います。先場所が終わってすぐに手術していれば、復帰がそれだけ早くなったわけで、しかしそれはたらればということでしょうね……。力士の難しいところは、二ヶ月に一回の本場所での結果が全てで、怪我をしてるから休ませてくれ、となっても、休むなら番付が下がりますよ、ということになるので、なかなか休めない。場所の最中に怪我をしても、やっぱり休めない。僕はあまり真剣に見てませんが、ボクシングなどでは負けると終わりみたいなところがありますが、それでも試合と試合の間はそれなりの期間がある。大相撲の過酷さは、かなり非情ですが、まぁ、ずっとそれでやってきたわけで、今更どうこうすることも出来ないのかもしれない。公傷みたいなのを復活させてもいいけど、さて、どうか。若隆景の回復状況も気になる。また三役に戻ってきて欲しい。

 そんなこんなで、令和五年の九月場所はみんながみんな、苦労に苦労を重ねた末に、様々な人の夢が消えた一方、夢を掴み取った人がいた、見ているこちらにも力が入る場所でした。最後までわかりませんでしたが、来場所は久しぶりに角番の大関のいない場所で、その来場所が貴景勝の綱取り場所になるかはかなり曖昧ですが、あるいは全勝か、十四勝一敗とかならあるのかも。しかしそうはならないと確信に近いものを持たせるのが最近の上位陣なので、また揉めに揉めそうです。個人的には豊昇龍に頑張って欲しい。何かが起こるのでは、と期待させるものを持ってます。スター性というべきか、それとも、キャラクターなのか。とにかく頑張れ。僕は今、豊昇龍に夢を見ていて、期待をかけています。

 夢とは何か? それは一つしかありません。



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