令和五年七月場所の若き主役たち

 令和五年の七月場所は終盤、あれやこれやがあった結果、豊昇龍が十二勝三敗で初優勝して、さらに大関に昇進しました。

 いや、なんというか、豊昇龍が三役に上がった時、三役の地位で揉まれているうちに力がつくだろうと思ってましたが、本当にこんなに早く優勝するとは思わなかった。もっと時間がかかるかな、と勝手に思ってました。豊昇龍は今場所、いい感じに身体が動いて、躍動、という印象でしたね。見ている側からすれば、優勝よりも大関取りに気が向いていて、三敗した時、優勝以前に、大関になるにはもう負けられない、という気持ちでした。ちょっとだけ、十一勝四敗の星でも昇進できないかな、などと思いつつ……。ともかく、この場所は豊昇龍に相撲の神様は微笑みましたね。豊昇龍のこの場所の相撲で印象的なのは、霧島と取った相撲と、若元春と取った相撲になります。霧島に対して頭をつけに行って、勝った時には大銀杏が乱れていたのは朝青龍を彷彿とさせた。若元春との相撲は変化されたけどついて行って、左四つになったところで即座に右から小手投げで転がしたのは、あれは実際のところ、決まらないと危ないというか、若元春が落ち着く前に決めにいった判断力が良かったように思う。ついに来場所は大関です。地位に見合った相撲で、頑張って欲しいところ。

 さて、この場所の優勝争いは、豊昇龍、平幕の錦木、北勝富士、新入幕の伯桜鵬という謎な展開で終盤でしたが、中でも伯桜鵬が新入幕でまだ二十歳くらいですが、驚くべきことに十一勝四敗で場所を終える、新入幕優勝までにあと星二つというところだった。豊昇龍がその夢を千秋楽に潰えさせるわけですが、この相撲はなんというか、経験値に差があったかもなぁ。伯桜鵬もプロの力士の、勝負師たちの相撲を学べばまだ上に行けます。ただ、ちょっと左肩の状態が心配。これが完治すればいいけど、いつになるやら。千秋楽も豊昇龍に右から上手投げを食った時、ちょっと肩がきまって危なそうだった。ともかくこの人には期待しかない。そしてまだまだ時間はある。

 北勝富士について、どう評価するべきかは難しい。強かったと思う。思うけど、最後の最後、優勝決定戦で弱さが出てしまった。あそこで引いてしまったのは、体力とか、技術ではなく、気持ちの問題になってしまう。豊昇龍に右でまわしを取られたから、という理由はあるにせよ、別の対処法があったような、ないような……。これは素人には判断が難しい。ある種の極限状態で、どこまで冷静に、論理的になれるかは分からない。豊昇龍にあって、北勝富士になかったものは、ただ一点、「引かなかった」しかないように思える。まわしを引かれたとしても、引かなければまた別の展開になったのは間違いない。豊昇龍に神様が微笑んだのに対して、北勝富士には最後の最後で冷たくしたのは、残酷でした。

 錦木は大活躍で、最後には優勝には届かないんだけど、僕からするとそれよりも、前頭筆頭で勝ち越したことで、来場所の新三役が確定したのが嬉しい。相撲オタクとしては、遅咲きというか、苦労人の成功には胸躍るものがある。こちらが嬉しい。まだまだ頑張って欲しい。

 この場所は三人の関脇が同時に大関取りという場所でしたが、結果は、豊昇龍が十二勝三敗で大関昇進、大栄翔、若元春は揃って九勝六敗でほとんど一からやり直しとなりました。大栄翔も若元春も、決して悪くなかったですし、星でいえば二つの差なんですが、この二つが大きかった。前も書きましたが、九勝と十勝、十勝と十一勝の間にはやはり壁がある。これを越えられた時に、大関になれるということなんでしょうけど、過酷です。もちろんこれが最後ではないので、この二人にもまた頑張って欲しい。

 そんな感じの場所でしたが、この場所は新入幕が揃って二桁勝ったので、協会が大盤振る舞いで三賞が近年稀に見る多くの力士に与えられました。新入幕ではやはり伯桜鵬が群を抜いている。それにしても、白鵬の弟子と豪栄道の弟子が幕内にいるなんて、隔世の感がある。時間は流れてるなぁ。

 記録程度に書いておくと、大関の貴景勝は両膝の怪我で全休、横綱の照ノ富士は腰の怪我で途中休場でした。新大関の霧馬山改め霧島は肋の怪我で初日から休んだものの途中出場になり、ただ結果は負け越しです。どうも、最近は、十人中九人が怪我をする、と言っても過言ではないな。

 最後にちょっと豊昇龍に対する私感を書いておきますが、まだ型が決まってなくて、それが出来てくるとまた違うかな、と思っている。この場所に見せてきた立ち合いで突き放していくのは、意外に良いんじゃないだろうか。突き放して、突いていってから、右を差すか、上手を引けばいい。とにかく右でまわしを引くと、大抵の力士には対処できる。もっとも、これからは全員が豊昇龍の右を警戒すると思う。豊昇龍の側から双差しで立っていくのもあるだろうか。うーん? いずれにせよ。どうにもまだ豊昇龍には型が見えないので、その点が落ち着かないし、安心できない。まぁ、大関で頑張っていれば、なんとかなるでしょう。

 という具合で、七月場所は僕の中では嬉しい場所だった。話したこともないし、後援会にも入ってないけど、応援していた力士が成長して結果を出すのは嬉しいものです。来場所が楽しみです。

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