令和六年一月場所の叶った夢と叶わなかった夢
令和六年の一月場所は照ノ富士が十三勝二敗で、関脇の琴ノ若に決定戦で勝って優勝となりました。なんというか、僕の個人的な極度な悲観は完全に覆されました。この横綱は何というか、不屈、って感じですね。
そもそもからしてこの場所が始まる段階で、照ノ富士が優勝すると信じた人がどれくらいいたか。僕はとても信じられなかった。あまり状態がいいという話も聞かないし、不安どころか、まさに悲劇しか想像できなかった。相撲っていうのは、本当にわからない。
さて、この場所はまず、大関の霧島の綱取りというのがあって、中盤が終わって二敗で、かなり際どくはあるものの、ひっくり返せそうではあった。特に十三日目の豊昇龍との大関対決で、二枚蹴りで勝ったあたりはその動きの良さなら横綱にも通用するのでは、と思わせた。しかし十四日目に琴ノ若に上手く取られて負けた時、何かが崩れましたね。千秋楽も優勝次点の可能性はあったものの、照ノ富士に一方的に負けて万事休す。しかしまたチャンスはあるでしょう。この負けを引きずらないといいのだけど……。
それにしても中盤が終わったところで不意に琴ノ若の大関取りが浮上してきたのには、かなり驚いた。先場所は十一番の星だけど、その前の場所が九番なので、今場所が大関取りになるとは、僕には考えられなかった。今場所も十一番くらいで、来場所に大関取りかと想定してましたが、この場所で十一番勝った時、これはこのまま行くかもな、と、そんな雰囲気が漂い始めたのは、なんとも言えない感覚だった。それは豊昇龍の時もそうだったけど、最終盤、千秋楽にあと一番勝てるかどうか、という形になると、普段はまるで感じない妙な気配が漂うんですよね。錯覚に過ぎないんだけど、ある意味では「神が降りてきた気配」というか。そんな空気に後押しされたわけでもないだろうけど、琴ノ若はこの場所に十三番で、これで関脇で直近三場所の星が三十三に到達したので、大関に昇進しました。いやはや、驚きました。四股名は三月場所は「琴ノ若」で、五月場所からはいよいよ「琴櫻」になるらしい。前も書いた気がしますが、霧島とか琴櫻とか、時代が混乱する。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいに昭和の人に「2020年代の大相撲には霧島と琴櫻が大関の番付にいる」と言っても、信じてもらえないだろうな。「なら、貴ノ花は横綱の四股名か?」とか言われそう。それは平成の時に貴乃花として横綱の四股名になったわけだけど。戯言でした。
僕はこの場所も豊昇龍に変わらない期待をかけてましたが、怪我は仕方がない。次の場所は万全の形で迎えて欲しい。この場所の照ノ富士戦が不戦敗になったのは、照ノ富士には安心材料だったし、霧島、琴ノ若には歯痒かっただろうな。それを言ったら豊昇龍その人が一番、誰よりも悔しいだろうけど。また頑張れ。応援してます。
この場所では僕が注目している若手はかなり苦労したかな、というところです。豪ノ山は負け越し、平戸海はなんとか八番。稽古が足りないわけではないと思うのですが、それでも稽古するしかないのかな。豪ノ山は一気に三役に上がれるかとも思いましたが、ここで一つ、勉強です。もう一踏ん張り、頑張って欲しい。平戸海は早いうちに横綱戦、大関戦が見たいかな。あまり時間をかけている余裕はなさそうではあるものの。
活躍した力士の話をしましょうか。この場所は平幕に下がった若元春ですが、無事に星を上げて来場所は三役に戻れます。やっぱりこの力士は見ていて面白い。というのも、この人は当たって突き合いとか押し合いになった後、実に器用に左を差していく。つまり僕は、どうやって左四つになるのかな、というところを真剣に見ているわけで、実に魔術的に左を差すのは見ていて堪らないものがある。また大関を狙って欲しいです。他では、新入幕の大の里という人が二桁勝って、三賞も取りましたが、この人はちょっと、幕内の下位、あるいは真ん中あたりの力士でも手がつけられないかも。ただ、この場所を見る限りでは型のようなものはまだなくて、どんな相撲でも取るので、それがうまく作用するかしないかはもうちょっと見てみたい。こうなったら負けない、みたいなものがあると見ていて安心なんですが、今後、どんな風になるだろう。
この場所は宇良が新三役として土俵に上がりましたが、跳ね返されました。千秋楽、竜電と取った時、伝え反りという大技で勝って終えましたが、相撲の途中から頭を竜電の左脇に押し込もうとしているように見えて、これは反り技が来るのでは、と思ったら本当に来てビックリした。まぁ、宇良といえば反り技というところがあるので、また見たくはある。
熱海富士がここ数場所、話題に上がりましたが、この場所はさすがに跳ね返された。幕内上位には上がれても、平幕と三役の間にはやはり壁があるようだった。翠富士もチャンスがありそうで、飛び込めない。俗に番付運と呼ばれるものもあるとは言え、勝ち越さないことには番付が上がらないので、とにかく自力しかありません。それにしても、伊勢ヶ濱部屋は良い力士が多い。尊富士という人が新十両優勝したので、この人も近いうちに幕内に来るでしょう。環境が良いのか、面白い現象ではある。
さて、こんなことが起こるとは想像もしてませんでしたが、来場所は一横綱四大関ということになります。信じられないな。嘘みたい。来場所は貴景勝がカド番ですが、他は比較的、落ち着いて見られそう。いつの間にか大関争いではなくて、横綱昇進争いが発生するような形になってきました。四人の中から、誰が横綱になるだろう。それがやはり今年の焦点かもしれませんね。
大相撲、まだまだ熱いぞ! というところです。
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