2020年七月場所の照ノ富士の活躍、そして十両の混戦に関して

 七月場所が終わりましたので、なんとなく総括してみようかな、と思います。

 この場所においてまず特筆すべきは照ノ富士の存在になります。照ノ富士のことは大関に上がる前から見ていましたが、あの頃はこのまま横綱になるのでは、と本当に思った。テレビが言ってるとかではなく、あの時は本当に強かった。ただ、その強さはどちらかといえば、力でねじ伏せる、みたいな印象だった気がします。

 今場所を見てみると、右四つ左上手の形が以前より洗練されたかな、と思った。特に朝乃山と当たった一番では、右四つ同士だったので、どうなるかな、と思ったけど、やはり上手を引いた照ノ富士が勝った。この一番が、千秋楽の夜のNHKのスポーツ番組で、アナウンサーが上手の位置に言及してたけど、それはありそうなものだけど、ちょっと見方がずれてるかな、とも思ったな。上手を引く位置が照ノ富士の方が良かった、などと後で言っても、あの瞬間、二人の力士がぶつかり合って、その一瞬で的確な位置を狙って取れるとは、とても思えない。こういう時、相撲は事故だなと思う。たまたま、取れるか取れないか、となるのでは。何はともあれ、照ノ富士と朝乃山の対戦はこれから、面白くなりそう。二人とも、似たような型を目指すんじゃないかなと思います。

 照ノ富士の何が怖いかといえば、やはり膝だろうな、と思う。怪我しそうな場面といえば、双差しになられて、寄られて、土俵際で振り回して、膝が壊れる、という場面でしょうか。ただ、今場所の様子では大丈夫そうかな、とも思いますね。千秋楽、御嶽海と取った時、立ち合いで双差しになられるけど、引っ張り込むよりも外四つを選択した、という点が、良かったと思う。引っ張りこんだり、深く差されないようにしたことは、やはり安全でしょう。

 膝の怪我といえば、もう引退しましたが、照ノ富士と同じ部屋の安美錦の膝が浮かびます。安美錦は元からうまかったですが、膝をやって、だいぶ苦労したけど、長く取って活躍した。なんというか、照ノ富士の膝はもう治らないのはみんな気づいてるし、本人が誰より理解してるだろうけど、しかし、それでも戦うのが力士なんでしょう。照ノ富士がこの先、どんな形になっていくかはわからないけど、また次の場所に、笑えるように頑張って欲しい。

 さて、この場所の十両が謎の混戦になり、千秋楽の割りが終わって、十勝五敗で六人になりました。で、まず三人に絞って、その三人で優勝決定巴戦なのですが、三人に絞る割で、六人のうちの三人の立浪部屋の力士、明生、豊昇龍、天空海が、みんな同じ方やになり、同部屋対決が実現しない。と思ったら、三人ともが勝って、同部屋三人による巴戦になった。で、くじの結果、最初が明生と豊昇龍で、実はこれがすごく見たかった。大相撲では同部屋での対戦は組まれなくて、組まれるのは優勝決定戦でのみになります。だから、この二人の対戦はほとんどありえないんだけれど、ここで実現するとは思わなかった。

 この二人の対戦は、ものすごい力相撲になって、良い相撲だった。豊昇龍が負けたわけだけど、素質も力も、幕内で通用しそう。豊昇龍は朝青龍の甥ということで注目されるけど、そんなことは抜きにして考えても、良い力士になるでしょう。とにかく足腰が凄い。実は一年くらい前に国技館で、まだ幕下だった豊昇龍の相撲を見たけど、これはやるようになるな、と感じた。細身だけど、相撲を見るとバネがすごい。楽しみですね。

 話を幕内に戻すと、今場所が終わってみると、関脇、小結が全員勝ち越す、平幕には厳しい場所になった。相撲協会がどう考えるかはわからないけど、関脇か小結を三人にして次の番付を作るべきじゃないかなぁ。平幕上位で勝ち越した力士が、全く上がらなくなる。ちなみに東の前頭筆頭で遠藤が勝ち越していて、この人は三役に上げるしかないと思う。そうでないと、勝ったのに番付が少しも動かない、ものすごい不運な番付運になるなぁ。それと、小結の大栄翔が二桁勝っていて、この人を関脇に上げる可能性もある。とにかく今場所の三役の大活躍により、御嶽海、正代、大栄翔が大関取りの最初の一歩、となって、もうわけわからん、とも思う。隠岐の海もここから頑張りそう。

 横綱大関の休場者は、あまり触れたくないかな。白鵬を応援してるけど、さすがにもう、終わりが見えてきたか。本当は万全の白鵬と万全の朝乃山の、力比べが見たいんだけれど、それは叶わない夢になりそうです。貴景勝の今後は、過去の照ノ富士のように膝に泣かされるのかなぁ、と思うと、やや悲しくはなる。こうやってファンが勝手に悲しんで諦めるのは、非情なんだろうけれど。本人が諦めない限り、未来に光が差す、と照ノ富士が証明したわけで、ファンも、というか僕が、力士を信じるべき、諦めないべき、と今場所は、心に刻まれた。

 ちょっと場所前の話になりますが、今場所前に栃煌山、豊ノ島が引退して、徐々に僕が知っている時代が終わっていくんだな、と感じた。稀勢の里と豊ノ島と琴奨菊、豪栄道と栃煌山、この辺りがライバルで出世争いしたけど、この五人では琴奨菊しか残ってないんだよなぁ。本当に時代を感じる。笑うしかないことに、僕が相撲を見始めた頃に強かった、大関の栃東、千代大海、雅山、出島、旭天鵬、その辺りが親方になって、土俵下で審判したりしてて、なんか、本当に時間が流れてるんだな、と思った。時間が止まってるのは、白鵬と北の富士さんくらいだな。

 というわけで、七月場所も面白かった。

 最後にこれは記録しておくけど、照強が朝乃山を足を取って倒した一番は、照強という人の精神的な強さの発露で、凄かった。小さい人だけど、心は誰よりも強かった。相撲はこれだから、面白い。心技体、なんですよね。

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