令和五年三月場所に見えた充実と壁

 令和五年の三月場所は、新関脇の霧馬山が十二勝三敗で初優勝しました。この場所はとにかく、話題が尽きない、良い場所になったのでは。

 優勝争いは、平幕の翠富士が十日目まで全勝という、これは、と思わせる展開から、翠富士が上位に跳ね返された結果、終盤は優勝争いをする上位が潰し合う展開になりました。霧馬山の優勝は千秋楽の大栄翔との決定戦で決まるわけですが、僕の中で、一番の山場は同じ関脇の豊昇龍との一番だったように見える。もしここで豊昇龍が勝っていると、千秋楽の展開がガラリと変わったのでは。しかし霧馬山は強かった。霧馬山はとにかく廻しを引くと強いですね。立ち合いで突き放していって廻しを引く技術がもっと洗練されると、さらに取りやすくなるのでは、と素人の僕は思ったりします。

 千秋楽、三敗の霧馬山と二敗の大栄翔の直接対決が結びでまずあったわけですが、僕の予想では、大栄翔はとにかく突いて突いて、前に出てくるのを、霧馬山も突き返してなんとか組みに行くのでは、というイメージでした。実際には霧馬山が押し込まれて、土俵際でなんとか突き落として決定戦になったのですが、ここで、では決定戦はどうなるか、を予測した時、同じ形になるのではないか、としか想像できなかった。本割は完全に大栄翔の相撲だったし、大栄翔は突き押しの相撲なので、大栄翔側には他に選択肢がない。で、霧馬山にはどんな対抗策があるかと言えば、僕の中では何も浮かばなかった。とにかく突いてくるのを跳ね上げて、組んで、組み止めていくしかない。しかし本割の大栄翔の動きを見る限り、ほぼ確実に押し込まれるのでは、というイメージでした。そして決定戦になるわけですが、まさかの、本割と同じような相撲になった。物言いがつきましたが、これは偶然にしてはすごい偶然でしたけど、大栄翔の手を、土俵を割った霧馬山の足が踏んでいて、つまり物理的に大栄翔の手が早い、となって、僕はなんというか、正直、ホッとした。大栄翔を応援していないわけではなく、霧馬山に感情移入しすぎて、もう一番、取ることにはならないでくれ、と思っていた。この千秋楽の結びと決定戦は、かなり心に来ましたね。感動というより、肩の荷が降りたような感覚だった。

 霧馬山は先場所が十一番で、この場所が十二番で、来場所は大関取りになります。このままだと星が上がりそうですが、要注目です。というのも、今場所の三役は、三関脇四小結という番付でしたが、なんとびっくり、霧馬山はもちろん、豊昇龍、若元春、大栄翔が二桁勝っていて、琴ノ若も九番勝ってます。この辺りが本当に拮抗していて、熾烈な潰し合いになるのは必定、といったところです。まぁ、横綱と大関が一人ずつなので、霧馬山にはチャンスです。十年くらい前、横綱三人、大関四人みたいは番付がありましたね。あの時の上位はまさしく地獄だっただろうな……。

 この場所は怪我人が出て、不安の漂う場面があった。大関の貴景勝、関脇の若隆景が膝を痛めて、来場所、どうなるか。貴景勝は綱取りからいきなり角番で、これはこれですごいプレッシャー。若隆景は、ちょっと出場が苦しいか。来場所、全休にしたほうがいい気がするけれど、三役の地位を守るために出てくるだろうか。長く取って欲しい力士ですが、どうなるかな。

 ちょっと話を展開しますが、今場所の三役はかなり星を上げたわけですが、この場所ほど星と星の間に壁があると感じたことはなかった。僕は豊昇龍の目線で場所を見ることが最近は多いですが、豊昇龍は十番は勝てても、あと一番、どうしても勝てない。十勝と十一勝の間に壁があるわけです。この場所を九勝六敗で終えた小結の琴ノ若も、九番は勝てても、あと一番が遠い。千秋楽、同じ小結の若元春と取りましたが、相撲では勝ってるのに土俵際でうっちゃられる、というのは、シナリオが出来ているようだった。逆に若元春は苦戦しそうでも、ちゃんと星を上げてくる。実力なんでしょうけど、力士にしか分からない何かが作用しているように思えて仕方ない、というのが僕の感想です。番付における、関脇と大関の間にある壁が、この三役力士の星に影響しているような。勝つしかない、という状況が終盤に生じるわけで、八番勝てば番付は落ちないけど、十番、十一番、十二番は勝たないと、関脇より上には手を伸ばすこともできないわけで、やはり精神的に何かあるのでは、と想像したりする。星一つで何もかもが変わるとは、過酷だし、残酷です。

 ここのところ、豊昇龍が好きで熱を入れて応援してますが、ここ数場所、若元春も好きになってきた。豊昇龍のしぶとさとは違うしぶとさが若元春にはありますね。豊昇龍のしぶとさは勝負を諦めない、執念が相撲に出るようなしぶとさですが、若元春のしぶとさは足腰の良さで最後まで粘り強く、冷静に逆転していくような、そんなイメージがあります。まぁ、二人とも、攻める相撲を取る、それもいい相撲を取る印象も強いですけど。四つ相撲だと霧馬山、豊昇龍、若元春は、王道路線、という気もしますね。

 僕は勝手に、豊昇龍は上位で揉まれているうちに強くなるだろう、なんて言ってましたが、蓋を開けてみると、豊昇龍を揉んでいるように見えた上位陣も充実してきて、それもそうか、と反省しました。霧馬山が優勝した以上、豊昇龍もチャンスだぞ! と思ったりしますが、これは神のみぞ知る、です。

 余談ですが、十両の落合という人は、気になりますね。十両はおそらく順調に抜けてきますが、さて、幕内力士はどうかな? 来年の頭に幕内の上位にいたりすると、さらに面白くなりそう。

 さらに余談として、幕内に錦木という力士がいますが、この人のかんぬきは強烈すぎて、怪我人が出そうでヒヤヒヤする。まぁ、技の一つですから、文句は言えません。

 ともかく、この場所は三役が活躍して、次の大関が見え隠れしてきて、いい場所でした。来場所は大関の角番と大関取りが重なって、熱くなりそうです。

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