令和六年十一月場所の約束された未来
令和六年の十一月場所は、大関の琴櫻が十四勝一敗で優勝しました。しかもこの場所は千秋楽の結びが琴櫻と豊昇龍が同じ一敗での大関同士の相星決戦になりました。
少し振り返ると、十一日目くらいに僕の中で、これはもしかして千秋楽に相星で優勝を決める展開になるかも、と思ったりもしてました。これが確信が持てなかったのは、琴櫻も豊昇龍も、この場所が大関としての初めての場所の大の里との割がまだ組まれてなかったからです。大の里も調子は決して悪くなくて、琴櫻や豊昇龍が確実に大の里に勝てる展開は想像がつかなかった。それが豊昇龍はとったりで際どく大の里を退け、琴櫻も大の里を退ける展開になって、僕は変な空想が現実になってしまったようでびっくりしました。
千秋楽の結びの一番に関しては、もはや運の問題だった気もする。豊昇龍の足が滑ったように見えましたが、それはまさに運としか言えない。もし足が滑らなければ、どうなったか。まぁ、豊昇龍が勝ったか、琴櫻が勝ったか、分かりませんね。短い相撲、あっけない決着の相撲でも、そこは二人の拮抗した力が見て取れた気がしました。それにしても、琴櫻もついに優勝して、祖父の背中にまた一歩、近づきました。この結果は、どこか約束されたもののように見えました。努力と辛抱、苦労が想像を絶するほどあったはずですが、琴櫻の姿はそれを感じさせないし、まったく自然体に見える。このまま横綱になってもおかしくない気がしてくるのが、実は凄いのでは。琴櫻は、なんというか、どこか超然としていて、独特の気配がありますね。
来場所は琴櫻は綱取り、豊昇龍も結果によっては、という形になったので、これは俄然、来場所が楽しみになりました。この場所の二人の力がそのまま発揮されれば、何が起こってもおかしくないと思います。同時昇進とか夢があるけど、それは流石に夢を見過ぎですかね。しかし夢を見るのは楽しいものです。
この場所では意外な展開もあって、霧島がもう少しやるかと思いましたが、どこか歯車が狂った感じでしたね。足首を痛めたようですが、不運だった。力はあるし、まだ若いですから、もう一踏ん張りして欲しい。平戸海も怪我があったようで、星が伸びずに残念だった。しかし平戸海はなかなか気風のいい相撲を取る。僕が相撲を見る前、昭和くらいの、昔の力士みたいなイメージ。それにしてもやはり相撲は怪我が怖い。
新大関の大の里は最後に星がもう一つ伸びませんでしたが、自然と終盤に大関同士が組まれたりしたので、不自然ではないと僕は思ってます。大の里は強いですが、他の力士も稽古して場所に臨んでいるわけですから、周りもやはり強いということでしょう。それにしても、大の里はまだ回しを積極的に引こうとしない。うーん、上背がありすぎて回しを引くとか、頭をつけるわけにはいかないのかもしれない、と僕も自分の勝手な意見を変えることになりそう。それよりも、変に組んで肩越しに上手を引いたりすると墓穴を掘りそうなので、大の里はやはり立ち合いの圧力と出足で圧倒するのが正しいのかもなぁ。右を差して、左からはおっつけで圧迫していく、という型が出来上がるとして、さて、どうなるか。これが来年の注目点かもしれません。もちろん、来年の今頃には大の里が回しを引く技術を身につけている可能性もあるにはあるのですが、あるかなぁ……。
この場所の三賞は、阿炎、隆の勝、若隆景という三人で、中堅どころが並んだのは興味深かった。若手も出てきているけど、強い人は強いな、というか。若隆景は怪我からうまく復活してきて、なかなか良い相撲をとります。執拗に下から攻める相撲はいい感じです。隆の勝は一皮剥けてきたというか、今年、また力が増した印象。怪我にだけは気をつけて欲しい。
来場所の番付を先読みしてみると、あるいは若元春と若隆景が兄弟で同時三役になるかもしれない。これは嬉しかろう。あとは、ここ数場所、平幕上位でひたすら新三役を狙い続けて、しかしあと一番が足りない熱海富士は今場所は勝ち越したので、来場所もまた新三役を目指す場所になりそう。これは前も書きましたが、熱海富士は新入幕の頃とは体の張りが変わってきて、更に体がパンパンになってくるともっと強くなれそう。太り過ぎも良くないけど、あと少し、体を作ったら結果もついてくるような気がします。
さて、最後の最後にいきなり勝手なことを書いてしまうと、僕は豊昇龍を応援しているので十四日目が終わった段階で、この場所こそ豊昇龍が勝つのではないか、と思ってましたね。立ち合いで突き放して、右でまわしを引いて投げて崩して、そこから寄っていく、というところで足が滑るという事故だったので、うーん、こちらが悔しかった。良い攻めだったし、間違った攻めでもなかったのでは。いずれにせよ、最後の一番もですが、豊昇龍はやっぱり立ち合いで突き放していって、そこから右で回しを取るのが良いと思うんですよね。とにかく安易に回しを引きに行くより良い形、良い位置の回しを引けるのでは。立ち合いの選択肢を増やせばもっと勝ちやすくなると勝手な想像してます。豊昇龍は身体が大きい方ではないですから、技と心で勝つしかない。心は強いと思うので、あとは技です。すでに技も多彩ですが、手札がもう少しあれば……。来場所こそ優勝して、そのまま最高位に登り詰めて欲しいなぁ。これが最近の僕が相撲を見るにあたって、心から叶うのを祈っている夢です。
最後に、場所中に北の富士さんの訃報があって、淋しいです。何年も前ですが国技館に観戦に行った時、打ち出しの後に僕はトイレに行っていたのですが、同行者のところに戻ると「北の富士さんがいた」と言われたことがありました。その瞬間が僕と北の富士さんが一番近い距離ですれ違った時でした。実際に会いたかったなぁ。思い出といえば、新型コロナが蔓延して幕内の休場者が大勢出た時、ラジオ中継で北の富士さんが長い仕切りの間、ひたすら昔話をしていたのが思い出される。あの回はなかなか凄かった。北の富士さんは僕の中での相撲中継の象徴です。
令和六年もなかなか面白い一年になりました。尊富士の新入幕優勝、大の里の二度の優勝と大銀杏の結えない大関の誕生など、ちょっと凄すぎる一年でしたね。来年はどうなるやら。横綱が一人は生まれそうですが、さて、それは誰になるかな? 非常に楽しみです。
相撲談義 和泉茉樹 @idumimaki
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