令和六年七月場所の何度でも繰り返される奇跡

 令和六年の七月場所は横綱の照ノ富士が十二勝三敗で、平幕の隆の勝との決定戦の末に優勝しました。この場所では初日から連勝していったので、十三日目くらいにもう優勝決定か、と思いましたが、最後に崩れながら、それでも最後の最後は締めました。照ノ富士のこの場所の相撲は全体的に攻めの姿勢が強かったかな、と思います。相手にもろ差しになられてからの極め出しとかはあまり無かったような。その辺りが本人が言う、理想の相撲だと思われる。それはそれですごく良いように感じます。

 しかし、今になってなんというか、照ノ富士の強さは僕にはよくわからなくなってきた。体が万全なら負けない、裏を返せば体が整わないと相撲が乱れる。さて、これは本当に強いのか。しかし、優勝する以上、間違いなく強いとも言える。とにかく横綱・照ノ富士は何度も奇跡を起こしている、そんな力士に思えます。

 まずはこの場所の最大の注目は新関脇の大の里で、前の場所には新小結で優勝しているので、もし極端な勝ち方をしたらこの場所後にいきなり大関昇進か、という向きもありました。ただ、蓋を開けてみると序盤で星を落として、早々に過剰な期待は霧散しましたね。ただ、終わってみるとまだ来場所の大関取りに可能性がある感じでもあるので、そこまでの崩れ方ではなかった。この場所の大の里の何が悪かったのかは、素人である僕にはよく分からなかった。大の里に相撲を取らせない方法はいくつかありそうだけど、出足を止めたり、右を差させないようにしたり、その辺は素人でもわかる。ただその後の展開については、実際の力士でないと想定できない気がする。いずれにせよ、僕の目から見ても大の里は新入幕の場所のあたりから、平幕の下位や真ん中くらいの力士では歯が立たない感じはあったので、やっと番付上位との総当たりになって釣り合いが取れてきた感がある。前も豊昇龍が大関に上がる頃にも思いましたが、大の里もあと半年くらい上位に揉まれているうちにもう一枚、皮がむけてくるかもしれませんね。大の里はあまり回しにこだわらないし、投げを使ってこないので、その辺りにまだ伸び代があるのでは。怪我をせずに頑張って欲しいです。

 この場所は他にも、関脇に陥落して十番勝てば大関に戻れる霧島と、角番の大関の貴景勝も注目されました。終わってみると霧島は十番に届かず、貴景勝も負け越して、うーん、二人ともかなり苦しかっただろうな、と少しこちらも胸にくるものがあった。特に貴景勝は思ったような相撲が取れない感じで、しかし皆勤したのは立派だったのでは。来場所も出場するとのことなので、まだ気持ちは切れていないと思いたい。大関から陥落したらおしまい、という姿勢の人は過去に何人もいたけど、大関から陥落しても頑張っている力士もいて、その辺りはそれぞれの力士の考え次第なんですが、僕はまだ貴景勝の相撲が見たい気持ちです。それでも本人はかなり悩むだろうな、とは想像がつきます。相撲は勝てないのも辛いでしょうけど、それよりも体が思ったように動かないのが辛いのでは。出来るはずのことが出来なくなるのは、かなり辛いはず。それでも辛さや苦しさを抱えて土俵に上がる、というのが美しいように見える。まぁ、それはただ眺めてるだけの僕の傲慢かもしれませんが。霧島もやはり、自分の相撲が取れなくて辛いでしょうけど、まだまだ誰も終わってないと僕は勝手に思っている。これは誰かしらが現役に幕を引くのが辛い、というやはり勝手な思考なのかなぁ……。

 この場所で躍動した力士を一人挙げるなら、間違いなく、新小結の平戸海ですね。二桁勝って、技能賞を獲得しました。強く当たって左で前回しを引いて前に出ていく相撲はかなり良さげです。いい感じに型が仕上がってきましたね。これからは当たる力士が確実に平戸海の左を警戒してくるので、その辺の攻防になるのかな。

 それはそうと、三役争いもここのところ熾烈で、豪ノ山、熱海富士、湘南ノ海辺りが注目ですが、さて、誰が抜けてくるか。熱海富士がおそらく一番近いですが、あと一歩がなかなか遠い。しかし体も相撲もだいぶ仕上がっているように思います。立ち合いですぐに左で前回しを引いていくのは、かなり良いと思う。上背もあるし、懐も深いし、左上手からの攻めもある。あと数場所で三役に上がれそうだけど、上位は上位で充実しているので、これはこれでかなり激しい潰し合いです。というか、来場所の番付はまた三役が大渋滞しそうだな。どんな番付を組むのやら。

 若元春は振いませんでしたが、若隆景が幕内に戻ってきましたね。膝はおそらく完全には治りませんが、相撲っぷりが変わらなくて安心しました。是非とも三役で相撲を取ってほしい。今の琴櫻とか豊昇龍とかとどんな相撲を取るか、見てみたいところです。

 それはそうと、琴櫻は千秋楽に照ノ富士に土をつけたものの、少し物足りなかったか。豊昇龍も琴櫻に首投げで勝った相撲で、明らかに変なふうに足が流れたな、と思ったら休場で、残念だった。誰か、中継の解説の親方が言ってましたが、豊昇龍も琴櫻も大関に上がる時に横綱を倒して上がっていった訳ではないんですよね。その辺が、照ノ富士の時代の一つの特徴になる気もします。僕は豊昇龍の活躍を願っているので、引き続き応援します。それにしても、右からしか攻められないのは、なんとかしなくては、と僕は勝手にヤキモキしています。でも、足技は見たいな。頑張ってくれ!

 最後にちょっと十両に触れますが、白熊という力士が面白いですが、一方、僕は朝紅龍という人に注目してます。めちゃくちゃ小柄なんですが、力が強くて面白いです。いずれ幕内に上がれるかどうかはまだ分からないんですが、十分な伸び代はありそうです。とにかく怪我に気をつけて欲しいですね。話が脱線しますが、白熊が来場所の新入幕だとすると、稀勢の里の二所ノ関親方が育てた二人目の幕内力士で、部屋がいよいよ充実しそう。親方も人気があるだろうし、日常的に大の里と稽古したい人もいるのでは。まぁ、それを言ったら伊勢ヶ濱部屋とか佐渡ヶ嶽部屋とかも良い部屋、充実した部屋なのでしょうけど。僕は若い親方の部屋が気になる、という個人的な発想です。失礼しました。

 そんな具合で、来場所は、やはり照ノ富士がどうなるかが最大の注目点です。先は読めませんが、相撲はまだ面白い時代が続きそうです。

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