　令和六年の五月場所は新小結の大の里が十二勝三敗で優勝しました。大の里という力士はもう少しすれば優勝するのかも、というのが僕の認識で、この場所でこの結果が出るとは思いませんでしたが、さすがでした。しかし、新入幕からずっと二桁ですから、普通じゃないですね。

　大の里の相撲は、どうにも特別に技術的には見えない。上手く差すとか、上手を引くとか、そういうところに極端な工夫はないように見えた。今のところ、自然に組んで、おっつけとかはするけど、とにかく出足、圧力で圧倒している。体が大きいのもあるだろうけど、それよりもあの巨体でどんどん前に出るので、相手が相撲をとりづらい。琴櫻との割が一番印象深いかな。大の里が組んでから即座に寄って行って、土俵際で琴櫻が投げに行こうとしたけど、大の里は投げに行く姿勢の琴櫻を腰をぶつけるというか、足も使って、土俵の外に出してしまった。あれは何か、異質に見えたかな。大の里の腰が重かったのもあるだろうけど、たまに投げを圧力で潰す人もいるとは言え、実はあの場面がすごいのでは。

　ただ、まだちょっと甘いところもあるかな、というのは、平戸海に負けた相撲で、やや立ち遅れたとはいえ、相手が懐に入って押し上げるように押してくると、嫌かもしれない。あるいはそれ以上に、早い相撲が苦手かもしれない。豊昇龍に負けた相撲もそうですね。立ち合いですぐに右四つ左上手の形になられたと思ったら、即座に右からの下手投げを食う、というのは、この場所では大の里が唯一、相撲にならなかった一番では。まぁ、大の里が早い相撲を取り始めたら怖くはあるけれど。

　大関は皆勤は琴櫻と豊昇龍の二人で、微妙な星でしたが、うーん、歯がゆい。ここから一皮剥けてくると横綱になれるんだろうけど、何がどう変われば良いかは僕には分からない。このままだと今年中には大関が一人、増えていてもおかしくないので、壁になって欲しいと思ってます。

　この場所は序盤で一横綱二大関が休場になり、霧島は次の場所は関脇で取ります。大関に戻れるかはちょっと微妙かな。首を痛めるのは、なかなか厳しそう。頑張って欲しい。横綱の照ノ富士はそろさろ進退が話題になってもおかしくないけど、どうしてかそういう声はあまり上がらない。何故だろう？

　ちょっとニューカマーの話をすると、欧勝馬という新入幕の人がいて十番勝ちましたが、この人がモンゴル人で、豊昇龍と一緒に来日した、というんですね。で、高校でレスリングをして、豊昇龍は高校の時点で相撲に転向して、高卒で角界に入ったのに対して、欧勝馬は大学進学してから相撲を始めて、今、幕内で取っているのですが、これってすごいことなのでは。例えば小学生から相撲をやってますとか、中学生から相撲をやってます、みたいなのがたくさんいるけど、欧勝馬はそういう人たちと比べると相撲歴が浅すぎる。才能なんだろうけど、すごい才能です。これから活躍するかはなんとも言えませんが、頑張って長く続けて欲しい。

　この場所は次の三役を目指す力士が最後まで競り合って、千秋楽に決着した。前頭筆頭の熱海富士が七勝七敗の千秋楽で、勝てば三役確実でしたが、負けて、負け越し。これはかなり残酷だった。一つの星で結果が違いすぎるのは、本当に残酷。また次、頑張れ。一方、平戸海は千秋楽を八勝六敗で迎えて、勝って九勝六敗で終えて、これはおそらく三役に上がれるのでは。僕は平戸海は好きな力士ですが、どんな風にこれから先へ進むのかはもちろん何も見えない。頑張れ、とにかく頑張れと応援するしかない。

　ちょっと脱線しますが、高安が序盤で稽古場で腰を痛めて休場し、戻ってきたと思ったら琴櫻、豊昇龍と二人の大関を撃破して、これにより二人の大関は実質的に優勝に届かない事態になったのですが、高安という力士はこうなるとかなり不思議な力士ではある。大関に上がったこともあるから強いんだろうけど、優勝はできない。今回に限らず、怪我をして休場しても、治ると普通に強い相撲を取る。優勝争いをするけど、優勝できないものの、変なムラがあるようでもない。強いのは分かっで、問答無用で強いわけではなく、どこかに、うーん、歯車が噛み合わないところがある。あと何年、相撲を取るかはわかりませんが、優勝できるのかな。変なトリックスターっぽい役目にならず、本当の勝利を手にして欲しいところです。

　さて、ちょっと来場所を展望すると、やっぱり大の里に注目でしょう。二桁勝てるかが問題です。他では霧島がどんな相撲を取るのか、というところと、琴櫻、豊昇龍にも期待。五月場所は怪我もあってふるいませんでしたが、若元春も僕は応援しています。あの気持ち悪いくらい上手に左四つになるのは見ていて面白い。

　そんな具合で、令和六年五月場所は、新しいスターが光り始めた場所になりました。みんな怪我せず、来場所、いい相撲を見せてください。