@twenty-four
車で待機している
「しかしこれだけの状況下で、ここまで説得力を持って容疑者絞り込んでくるとは、
「最初に遺体が発見されたの昨日の朝よ?翌日でここまで迫れるとは思ってなかったわね。さすがよ」
「本当に。どうやったらあんな発想できるのか」
「本当はそれ、あたしたちの仕事なんだけどね」
「耳がいてぇっす先輩」
「でもだからこそ、私は杜乃さんと組ませてもらっているんだけどね。気持ち的には弟子入りしている気分よ」
朝霧はさも当然のことのように言い放つ。年齢こそ10ほど離れているものの、杜乃の才能が本当であることを知っているからこそ、そう行った年功とは関係なく尊敬している。
「俺もスゲェとは思ってますけど、真似できないとも同時に思います。自分の能力ではないなと。だからまぁ、他で協力しようとも思いますが」
「そうね。まあ、なんでも適材適所よ。杜乃さんができないことをこっちがやるしかない。あの人は法を執行することはできないしね。物証だって、私たちが探さないと令状だって取れないし、犯人であることがわかっても、逮捕できなきゃ私たちとしては意味ないのだし」
朝霧がそんな風に語って聞かせた直後、視界に遠く捉えていた杜乃と
「あ、着きましたね」
「さ、私たちも行くわよ」
「了解です」
二人も車を降り、店舗へ近づいていく。
「会社員にしてはカバンも何も持ってないの、不自然じゃないですかね?」
「近くで遅めのランチを取ってきた設定でいいんじゃない?ショップに関しては初めて見つけたってことで。私は何か一つ二つ購入するから、昼々蕗は直接手渡しでカードか何かもらって。指紋集めるわよ」
「承知いたしました」
二人もショップ店内に入ると、そこは思いの外広く、先に入った杜乃蓮宮ペア以外にも数人の客が滞在していた。奥の方、恐らくは会計レジと思われる方からは控えめに談笑する声も聞こえてくる。
朝霧が先に入った二人の様子をそれとなく伺うと、杜乃の手にはすでに何点か商品があった。
「へぇ。手芸屋さんって言うんすかね、こう言うの」
「そうね。実は私結構こう言うの好きなんだよね」
「意外っすね」
朝霧の言葉に昼々蕗が話を合わせてきただけなのだが、やや気に触る朝霧。
「悪かったわね。これでも一応女ですー」
そんなふざけたやり取りをしつつも、目線は様々な商品を鋭く眺めている。手芸用品や各種布製品、すでに作られた手芸品も置いてある。針や鋏などの道具類も取り扱っているようだ。奥に進むと、その店のブランドとして何点かの作品も展示販売されているようだ。ピアスやイヤリング、ネックレスなどもあり、ある一定のファッション志向のものがつけるのであろうヘッドドレスやチョーカーなども置いてあった。それらの着用イメージということだけなのだろうけれども、それらが女性の首から上を模したマネキンに装着されて棚上に数店置かれていた。今回のケースから考えて、意識せざるを得なかった。
朝霧は取り急ぎ、と、ビニール袋に収められて販売されているアクセサリーを2点ほど見繕って店舗奥へ向かう。杜乃たちもレジに向かうようだ。何かヒントは得られただろうか。
レジに向かうと、いつのまに行動したんか昼々蕗が会計対応している男性ーまさに今回の容疑者である中村に話しかけており、パンフレットやショップカードを獲得したようだった。
「あ、ありがとうございます」
朝霧がレジに商品を差し出すと、対応したのはその中村だった。
「あ、お願いします。初めてきたんですけど、面白いですね」
「ありがとうございます。もしよければネットショップもあるのでよかったら見てみてください」
会計をすませると、二組ほど後ろに杜乃と蓮宮の姿も見えた。
「もう少し店内見ていってもいいですか?」
「もちろんです。何かお気に召したものがあれば、追加で購入していただいても結構ですよ。ありがとうございました」
対応する中村の態度や様子には、決して殺人を犯すような人間の雰囲気は見て取れない。朝霧はこの数年でそういったものをなんとなく感じることがあったが、彼にはそれがないようにも感じられた。もし彼が犯人だとしたら、それは杜乃の言葉を借りれば、殺意の種類が違う、というようなことなのだろうか。
レジを離れ入り口側に移動した朝霧は、数歩前を歩いていた昼々蕗に合流した。
「何話してたの?」
「いや、ほら、うちに所属してるタレントでもこういうの好きな子いるじゃないですか。資料持ち帰って衣装部に出してみようかと思いまして」
どうやら、昼々蕗なりの機転で、芸能関連の仕事をしているということにしたらしい。確かにそれであればスーツの男性がこういった店舗で資料を求めても不思議ではない。
「まだそういった仕事はしてないってことだったんですけど、なくはないかなと思って。持ち帰るだけならタダですし」
「なるほどね。じゃあ、一旦用は済んだ?」
「こちらは。先輩は?」
「こっちも大丈夫。戻りましょうか」
「はい」
二人は店舗を出て車に戻ると、購入したものを全て証拠品扱いとして、それ以上余計な指紋が増えないよう証拠品袋に個別におさめた。
「なかなか機転の利いた設定だったかもね」
「お、マジすか。よかった」
そんな橋をしていると、朝霧の携帯に着信が入った。
「はい」
『朝霧くん、私だ』
「杜乃さん。出ました?」
『ああ。車を停めてあるところから反対側に進んで最初の角を右に曲がったところに待機している』
「了解しました。今向かいます」
杜乃から伝え聞いた地点を昼々蕗に伝えると、車のエンジンがかけられ発進する。店の前を通過し右折してやや交差点から距離をとったところに二人が待っていた。
「お疲れ様です」
「そちらも」
乗り込んできた二人に朝霧が声をかけると、杜乃が応答した。
「どうでした?」
「確率は上がった。指紋は集められたかい?」
「はい。バッチリです」
「俺の方でも少し取材できました。とりあえずこの場は離れますけど、どうします?他の候補のところ向かいますか?」
「いや、一度状況を整えてからにしたいが、どこか少し離れたところで止めてもらえたりするかい?」
「了解しました」
昼々蕗は改めて車を走らせる。
「そうだ。まずこれだけ渡しておく」
と、後部座席から助手席の朝霧に一つの小さな袋が差し出された。
「これは…」
「念のため、購入しておいた。
「わかりました。お預かりします」
朝霧はそれを杜乃から受け取って、同じく証拠品を収めた袋に収納した。
「さて、状況を整理しよう」
車は念のためとばかりに第二候補が務めていると思われる職場の住所に向けて走る。その車内で、杜乃が、ゆっくりと語り出した。
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